3. コンテナ船を除いた「残りの事業」に見る3社の決定的な違い

暴れ馬であるコンテナ船事業をONEとして切り出した結果、3社の本体に残った事業には明確な違いが現れるようになりました。

インタビュワーがコンテナ船を除いた他の事業で3社に違いはあるのかと問いかけると、泉田氏は「これはめちゃめちゃあるんですよ」と答えます。その決定的な違いは、船種そのものというよりも「陸に何を持っているか」という点に色濃く出ています。各社のセグメント別従業員数(2026年3月末時点)の偏りから、その特徴を見ていきましょう。

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連結従業員数の構成比(2026年3月末)

出所:各社有価証券報告書を基にイズミダイズム作成

3.1 日本郵船:陸の「物流事業」が中核

日本郵船の連結従業員数は約3万9,800人ですが、そのうちなんと約3万人が「物流事業」に属しています(全体の約76%)。この中核を担うのは「郵船ロジスティクス」というフォワーダー(貨物利用運送事業者)です。フォワーダーとは、自社で船や飛行機を運航するのではなく、顧客の荷物を預かり、倉庫の確保や通関手続き、トラックによる陸上輸送などを一貫して差配する事業者のことです。

泉田氏は「4分の3物流なんですよ」と強調し、「陸にいます。これが日本郵船です」と語ります。海運会社でありながら、実は陸上の労働集約的なビジネスが組織の大部分を占めているのが日本郵船の特徴です。

3.2 商船三井:エネルギー輸送と不動産事業の強み

一方、商船三井の連結従業員数は約1万1,600人です。一番多いのは製品輸送事業の約5,300人ですが、特徴的なのは「ウェルビーイングライフ事業」に約2,600人が属している点です。このうち約1,300人が、オフィスビルなどを手掛ける「ダイビル」を中心とした不動産事業に関わっています。

さらに、エネルギー事業にも約1,200人が配置されています。泉田氏は「商船三井というとダイビルも有名なんですけども、僕からするとエネルギー輸送に力を入れているんじゃないかなというふうに思います」と分析します。コンテナ船という変動要因が外に出たことで、エネルギー輸送や不動産といった海運以外の柱を持っていることが、商船三井の個性として浮かび上がってきます。

3.3 川崎汽船:見えにくい内訳

川崎汽船の連結従業員数は約5,300人です。同社については、日本郵船や商船三井と比べてセグメントの開示区分が粗く、「製品物流」などの大きな括りになっており、その詳細な内訳が事業ごとに開示されていません。そのため、従業員の配置から事業の細かい特徴を読み解くことは難しい状態となっています。

なお、ここで注意が必要なのは、これらの「従業員数の多寡」だけで会社の規模や優劣を単純に比較することはできないという点です。日本郵船のように陸上の物流事業(フォワーダー)を抱えているかどうかが、全体の人数差として表れているに過ぎないと考えられます。

4. 決算で見るべきポイントと投資への向き合い方

海運3社は、マクロ経済の影響を等しく受けるため、株価のトレンドとしては同じような動きをすることが多く見られます。しかし、これまで見てきたように、その事業構造や企業の性格は全く異なります。

日本郵船は陸上の物流事業の比重が極めて大きく、商船三井はエネルギー輸送や不動産事業という独自の柱を持っています。泉田氏は今後の投資に向けた視点として、「単純に個社の影響だけじゃなくて、マクロ環境も確認しながら個社の戦略に落としていく理解も進めていくっていうのがすごい大事だ」と結論づけます。

投資を検討する際は、3社を「海運株」という一つの箱にまとめて評価するのではなく、決算発表において各社が注力しているセグメント(日本郵船なら物流、商船三井ならエネルギーや不動産など)の動向を個別に確認することが重要です。

ただし、川崎汽船に関しては、セグメントの詳細な内訳が開示されていないため、本稿で扱った従業員の配置データだけでは事業の強みを判断する材料が足りないことには留意が必要と考えられます。海運株の決算を読む際は、表面的な利益の数字だけでなく、「どの事業が稼ぎ出しているのか」という事業構造の違いに目を向けることが、投資判断の精度を高める第一歩となるでしょう。

参考資料

  • 日本郵船株式会社「第139期 有価証券報告書」(2026年6月16日)
  • 日本郵船株式会社「IRデータブック」(2026年8月5日)
  • 商船三井株式会社「有価証券報告書」(2026年6月23日)
  • 川崎汽船株式会社「第158期 有価証券報告書」(2026年6月18日)
  • 国土交通省海事局「資料5-5 海運大手3社のコンテナ船事業統合について」(2017年2月21日)
  • 日本船主協会「SHIPPING NOW 2025-2026/日本の海運」
  • 笹川平和財団 Ocean Newsletter 第393号(森隆行、2016年12月)
  • YouTubeチャンネル「イズミダイズム」

各資料の入手先: 日本郵船 IRライブラリ / 商船三井 IRライブラリ / 川崎汽船 IRライブラ

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