「日本郵船」「商船三井」「川崎汽船」の海運大手3社。株式市場においては「海運株」として一括りにされがちで、同じような値動きをするセクターとして認識されています。しかし、実は各社の事業構造を紐解くと、売上構成や従業員の配置において全く異なる顔を持っていることがわかります。一体なぜ、同じ海運会社であるにもかかわらず、ここまで企業の性格が分かれているのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が、各社に残った事業の中身から3社の性格の違いを解説します。

ココがポイント
  • 日本の輸出入の99.5%は海上輸送が担っており、海運株はマクロ経済の影響を直接受ける
  • 収益の振れ幅が大きい「コンテナ船事業」を統合・分離したことで、各社の本体に残る事業の違いが鮮明になった
  • 日本郵船は陸上の「物流事業」が中心、商船三井は「エネルギー・不動産」に強みを持つなど、企業の性格は大きく異なる

1. 私たちの生活を支える海運と「船種」というポートフォリオ

企業を分析する前に、まずは日本という国における海運業の位置づけを理解する必要があります。日本は島国であり、生活に必要なエネルギーや食料、資源の多くを海外からの輸入に頼っています。

泉田氏はここで、日本が海運にどれくらい依存していると思うかとインタビュワーに問いかけます。インタビュワーが「航空3の海運7」ほどではないかと答えたのに対し、泉田氏が示した答えは「99.5%です」でした。実際に2024年の日本の輸出入(重量ベース)を見ると、99.5%を海上輸送が担っており、航空輸送はわずか0.5%にとどまっています。

日本の輸出入は99.5%が海上輸送1/3

日本の輸出入は99.5%が海上輸送

出所:日本船主協会「SHIPPING NOW 2025-2026」を基にイズミダイズム作成

泉田氏は、「海運3社を分析することって、我々の生活に対してどういうインパクトがあるかっていうのを分析するのとニアリーイコールなんです」と語ります。つまり、海運株はマクロ経済の動向が直接的に効いてくるセクターだと言えます。

しかし、一口に「海運」と言っても、運ぶものによって船の形も市況の性格も異なります。船の種類そのものが、企業の事業ポートフォリオ(事業の組み合わせ)を形成しているのです。

  • コンテナ船: 工業製品や消費財など、規格化された箱(コンテナ)に様々なものを詰め込んで定期航路を走る定期船です。景気の動向によって運ぶ中身や量が変わりやすいため、非常に景気に敏感です。
  • ドライバルク船(ばら積み船): 鉄鉱石や石炭、穀物などを箱に入れず、そのままの状態で船に積み込みます。船型ごとに別の市場が存在します。
  • タンカー: 原油や化学品などを運ぶ船で、事故時の流出を防ぐ二重構造になっています。地政学的な要因や航路の長さによって運賃が動きます。
  • LNG船: 液化天然ガス(LNG)をマイナス162度に冷却して運ぶ特殊な船です。泉田氏によれば20年規模の長期契約が中心で、市況に左右されにくいという特徴があります。
  • 自動車船: 完成車を運ぶ船で、最大級のものになると1つの船で8,000台を積み込むことができます。

泉田氏は、この中でも特に扱いが難しい船種を指摘します。「一番ボラティリティ高いのがコンテナ船で、これをどうマネジメントするかっていうのが各会社の課題だった」と語ります(ボラティリティ=価格や収益の変動幅)。

2. なぜコンテナ船事業を切り出したのか?「暴れ馬」の正体

コンテナ船事業は景気の波を直接受けるため、収益の振れ幅が極めて大きい「暴れ馬」のような存在です。

例えば、日本郵船の定期船事業(コンテナ船を中核とするセグメント)の経常利益の推移を見ると、2019年3月期には264億円の赤字でしたが、コロナ禍で世界の物流が逼迫した後の2022年3月期には7,342億円という莫大な黒字を記録しています。

泉田氏は、「赤字の時もあるしめっちゃ儲かる時もある。まさにこれ商船三井とか川崎汽船も同じように見ていくとですね、この9年間黒字になった年がすごい少なかったんですよ」と指摘します。実際、事業統合前の9年間において、定期コンテナ船事業が黒字だったのは3社合計の27期中6回にとどまったとされています。

なぜこれほどまでに採算のコントロールが難しかったのでしょうか。その背景には、グローバル市場での熾烈な競争とシェアの限界がありました。

コンテナ船社の運航船腹量シェア(2016年10月末)2/3

コンテナ船社の運航船腹量シェア(2016年10月末)

出所:国土交通省海事局「海運大手3社のコンテナ船事業統合について」(Alphaliner 2016年10月31日現在)を基にイズミダイズム作成

2016年10月末時点の世界シェアを見ると、首位のMaersk(デンマーク)が15.5%を握っていたのに対し、商船三井は2.5%、日本郵船は2.4%、川崎汽船は1.7%に過ぎませんでした。「日本の海運会社各社のシェアを見るとインパクトを与えられるほどではない、かつ日本のプレイヤー合わせてもグローバルですごく競争が厳しい」と泉田氏は分析します。この規模では、運賃を自らコントロールすることは困難でした。

そこで大手3社は、2017年7月にオーシャンネットワークエクスプレスホールディングス株式会社を設立し、各社のコンテナ船事業を統合して「ONE」という持分法適用関連会社(連結の対象にはせず、出資比率に応じた損益だけを取り込む会社)としました(サービスの開始は2018年4月)。議決権の比率は日本郵船が38%、商船三井と川崎汽船がそれぞれ31%となっています。

泉田氏はこの事業再編の狙いについて、「連結子会社ではなくて持分法事業にすることによって、営業利益の外にこのコンテナ船事業を持っていくということにしたんですよ」と解説します。

これにより、自社のコンテナ船事業がセグメント(決算で事業ごとに区分して開示される単位)として完全に消滅したわけではありませんが、ONEの業績は営業利益には含まれず、営業外収益(本業以外から生じる収益)である「持分法による投資利益」として、営業利益の一段下の経常利益に計上される構造へと変化しました。収益のブレが大きすぎる事業を、経営の中心から少し距離を置いた形です。