7. 50歳代に多い「手元の資産が何年もつのか見当がつかない」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・川勝 隆登が伝えたいこと

老後に向けた準備を考え始めるとき、多くの方が最初に気にかけるのが、いま手元にある資産がこの先どのくらいの期間を支えてくれるのか、という見通しです。この、資産がどれだけの年数もつかという見通しは「資産寿命」と呼ばれることがあります。ただ、その見通しをどう立てればよいのかとなると、手がかりが見つからないという声が少なくありません。ここでは、ファイナンシャルアドバイザーが日頃の面談でよく受けるご相談のひとつを、個人が特定されないよう内容を一般化したうえで取り上げます。

7.1 50歳代に多いお悩み相談は「手元の資産が何年もつのか見当がつかない」

50歳代(ご相談者)
50歳代に入って、老後のお金のことを考えるようになりました。いくらか蓄えはありますし、値動きのあるものもいくつか持っています。ただ、それが何年もつのかという見当がまったくつきません。今から何かを始めても間に合うのか、どのくらいの値動きを受け入れればよいのかも決めきれずにいます。

似たご相談は、50歳代の方から数多く寄せられます。この年代は、退職までの期間がおぼろげに見えてくる一方で、収入も支出もまだ動く余地が残っている時期です。だからこそ、これから先を数字で眺めておきたいという気持ちが生まれる反面、何をどう置いて考えればよいのかが分からず、そのまま先送りになってしまう方も多くいらっしゃいます。

7.2 【ファイナンシャルアドバイザー・川勝 隆登が回答】入ってくるお金と出ていくお金を書き出し、結果を動かす前提を見つけ、その見通しを定期的に置き直す

川勝 隆登
まずは、これから入る資産と出ていく資産を把握しておくことが大切です。どれぐらいの準備が必要かどうかについて計算していくために必要な要素となりますので、ライフプランを考慮した資金の出し入れを把握しておきましょう。一方で、計画を立てたもののライフイベントが変わる可能性もあります。そうすると、一度は決めた準備方法も変える必要が出てくるため、定期的にプランの変更の必要がないか確認しておくことも必要です。初めから完璧な準備を進めていくことが難しいため、その時々に応じた見直しも必要であることを意識しておくと良いかと思います。

7.3 ポイント1:何年もつかを見るには、入ってくるお金と出ていくお金を書き出すところから始める

資産が何年もつかという見通しは、複雑な計算から生まれるものではありません。おおもとにあるのは、これから入ってくるお金と、これから出ていくお金の差を、いま手元にある資産で埋めていくと何年分になるか、という単純な引き算の考え方です。ですから最初にすることは、計算そのものではなく、材料を並べることになります。入ってくる側には、公的年金や、退職後も働くのであればその収入、勤務先の制度から受け取れるものなどが並びます。出ていく側には、毎月の生活費のほか、住まいの修繕や車の買い替え、医療や介護にかかる備えといった、毎年は起きないけれども避けにくい支出が並びます。相談の場でよく起きるのは、この書き出しの段階で「思っていたより入ってくる側の項目がある」あるいは「出ていく側に数えていなかったものがあった」と気づかれることです。見通しが立たない原因は、計算ができないことよりも、材料がそろっていないことにある場合が少なくありません。まずは金額の正確さにこだわらず、項目を書き並べてみるところから始めていただくことをおすすめしています。

7.4 ポイント2:結果を動かしているのは、出ていく額・入ってくるお金・どのくらい増える前提を置くかの三つ

材料を並べてみると、次に見えてくるのが、どこを変えると見通しが変わるのかという点です。資産が何年もつかという答えを動かしているのは、大きく分けて三つの前提です。ひとつめは、毎年出ていく額。ここが小さくなれば、同じ資産でも支えられる年数は延びます。ふたつめは、年金以外に入ってくるお金があるかどうか、そしてそれがいつまで続くか。働く期間が延びれば、資産に手をつける必要のある額はその分だけ小さくなります。三つめは、運用を続ける場合に、どのくらい増える前提を置くかという点です。この三つめが、もっとも扱いに注意のいるところです。高い増え方を前提に置けば、計算上の年数はいくらでも延びます。けれども、高い増え方が見込まれるものほど、値動きの幅も大きくなるのが通常です。値動きのある資産には価格の変動があり、元本割れとなる可能性もあります。手元の資産を取り崩そうとした時期に価格が下がっていれば、想定していた額に届かないこともあります。ここで大切なのは、増え方の前提を高く置くか低く置くかは、そのまま受け入れる値動きの幅を選ぶことと同じだ、という点です。相談の場では、まず低めの前提でも成り立つかどうかを見てから、そこにどれだけ上乗せの期待を載せるかを考えていきましょう、というお話をよくさせていただきます。なお、値動きを抑えた持ち方を選べば見通しのぶれは小さくなりますが、そのぶん増える前提も小さくなります。どちらがよいという答えはなく、何をどれだけ受け入れられるかという選択になります。

7.5 ポイント3:置いた前提は変わるものとして、その見通しを定期的に置き直す

ここまでの手順を踏むと、ひとつの年数が出てきます。ただし、その年数はそのとおりになることが約束された数字ではありません。これは試算であって、置いた前提が違えば答えも変わるものです。実際、生活費は家族の状況で動きますし、働く期間も体調や勤務先の事情で変わります。運用を続けるのであれば、増え方は年ごとに上下しますから、想定どおりに進む年もあれば、そうでない年もあります。ですから相談の場では、出てきた年数をひとつの点として受け止めるのではなく、幅として眺めていただくようお伝えしています。前提を低めに置いた場合と、少し余裕を見た場合の両方を出しておくと、その間のどこかに実際が収まりやすくなります。そして、一度出した見通しはそこで終わりにせず、暮らしや収入に変化があったときや、年に一度といった区切りで置き直していただくとよいと思います。見通しを立てる目的は、正確な年数を当てることではなく、いま何を変えれば余裕が生まれるのかを知ることにあります。置き直すたびに手元の材料が新しくなり、判断の材料も更新されていきます。なお、公的年金の額や制度の取り扱いは改正によって変わることがありますので、最新の内容は公的機関の情報や、関連する窓口でご確認ください。

資産がどのくらいの期間を支えてくれるかという見通しは、置いた前提によって変わります。この記事でお伝えしたのは考え方の枠組みですので、実際の数字を当てはめる段になりましたら、ご自身の状況を確かめながら専門家とご一緒に整理していただければと思います。

8. まとめにかえて

手元の資産が何年もつのかという問いに、あらかじめ用意された答えはありません。答えを出すには、これから入ってくるお金と出ていくお金を並べ、その差を資産で埋めるとどうなるかを見ていくことになります。つまり、見通しは計算の結果というより、どんな前提を置いたかの写しだといえます。

この記事では、まず入ってくるお金と出ていくお金を書き出して材料をそろえること、結果を動かしているのは出ていく額と年金以外に入ってくるお金、そしてどのくらい増える前提を置くかの三つであること、そして置いた前提は変わるものとして定期的に見通しを置き直すことの三点を、相談の現場でよく交わされる整理として取り上げました。

試算はあくまで前提の置き方によって変わるものであり、そのとおりになることが保証された数字ではありません。値動きのある資産には価格の変動があり、元本割れとなる可能性もあります。また、公的年金の額や制度の取り扱い、税に関する定めは、改正によって変わることがあります。この記事でお伝えしたのは考え方の大枠ですので、最新の内容は公的機関の情報や、関連する窓口でご確認ください。ご自身の状況に沿った判断については、関連する部署や専門家に確かめながら進めていただければと思います。

参考資料

川勝 隆登