4. 親の車、79.5%が「方針未定」――子の8割が伝えた注意も届かない“認知ギャップ”

実家の車をどうするか、多くの家族にとって切り出しにくいテーマです。

オンライン車買取サービス「カーネクスト」を運営するラグザス株式会社が、65歳以上の親を持つ40〜59歳の男女2281人を対象に実施した調査によると、59.7%が「親が自家用車を所有している」と回答し、車の利用頻度が「以前より減っている」と感じている人は40.2%にのぼりました。それにもかかわらず、車の今後について家族で「具体的な方針まで決まっていない」と答えた人は79.5%に達しています。

  • 親が自家用車を所有:59.7%
  • 車の利用頻度が以前より減っている:40.2%
  • 車の今後について家族の方針が未定:79.5%

車は移動手段であると同時に、高齢の親にとっては「自立した生活」の象徴でもあります。子どもが心配して伝えても、「自分はまだ大丈夫」と受け流されてしまうケースは珍しくありません。

福岡のスタートアップ企業である株式会社セーフライドの調査では、40〜50歳代の子ども世代の80.0%が「親の運転が危ないと本人に伝えた」と回答した一方、高齢ドライバー側の75.9%は「子どもから危ないと伝えられたことはない」と回答しており、注意が届いていない実態が浮かび上がっています。

免許返納について「話したことがない」と答えた子ども世代も、父親で68.2%、母親で62.0%にのぼりました。

  • 子ども世代の80.0%が「親に運転の危険性を伝えた」と回答
  • 高齢ドライバーの75.9%は「子どもから伝えられたことはない」と回答
  • 免許返納について「話したことがない」:父親68.2%、母親62.0%

警察庁「令和7年における交通事故の発生状況について」(令和8年2月公表)によれば、免許保有者10万人当たりの死亡事故件数は75歳以上が17.6件、75歳未満が10.2件と、75歳以上の死亡事故率は75歳未満の約1.7倍にのぼります。ハンドル操作の誤りなど「操作不適」による事故に限ると、75歳以上は75歳未満の約3.1倍に達しており、加齢による視力・反射神経・認知機能の低下は自覚しにくく、長年無事故で過ごしてきた人ほど「自分はまだ大丈夫」と過信しがちです。

帰省時には、車体の擦り傷や凹みの有無、同乗時の車線変更や交差点での様子、日常の会話や歩行速度の変化など、客観的な事実を確認することが、話し合いの入り口として有効です。

5. 「もったいない」を「感謝」に変える――維持費をタクシー代に置き換えると?

普通車の維持費(買い替え積立を含め実質年間約39万1600円)をそのままタクシー利用に充てた場合、1カ月の予算は約3万2633円になります。

近所のスーパーや病院までの往復利用を1回3000円程度と見積もると、月に約10〜11回、週2〜3回のペースで利用できる計算です。車検や自動車税に悩まされることも、事故の加害者になるリスクもなくなることを踏まえれば、決して我慢の選択ではありません。

  • 普通車の年間維持費(積立含む)を丸ごとタクシー代に充当: 月予算 約3万2633円
  • 往復利用1回を3000円と想定した場合の利用可能回数:月に約10〜11回(週2〜3回)

とはいえ、長く「タクシーは贅沢」という価値観のなかで暮らしてきたシニア層には、「もったいない」という心理的な抵抗感が根強くあります。

そこで有効なのが、「運転をやめて」と正面から伝えるのではなく、「いつもありがとう、これで楽に移動してね」という感謝の形でタクシー利用券などを贈るアプローチです。有効期限付きのチケットであれば、「もったいないから使おう」という前向きな動機づけにもなり、子ども世代からの贈り物という形なら、親側も気兼ねなく受け取りやすくなります。近年はこうした移動支援サービスを提供する企業も増えており、地域や予算に応じて選択肢を比較検討するとよいでしょう。

移動手段そのものも多様化しています。ネットスーパーや食材宅配は配送料が数百円程度で済み、自治体が導入を進めるオンデマンド交通(AIによる乗合タクシー・バス)も数百円程度から利用できます。運転免許が不要な電動カートや、警察署で運転経歴証明書の交付を受けることで得られるタクシー運賃の割引なども、代替の選択肢として広がっています。

5.1 増える「代理売却」――子ども世代が担う車の終活

免許返納を決めたあとに残るのが、不要になった車の処分です。警察庁「運転免許統計 令和7年版」によれば、2025年の運転免許自主返納件数は43万5067件(うち75歳以上が60%)で高水準が続いています。

株式会社MOTAが「MOTA車買取」の利用者を対象に実施した調査によると、免許返納を理由に車を売却した人のうち約64%を45〜64歳の子ども世代が占めており、離れて暮らす親に代わって子どもが売却を代行する「代理売却」が広がっています。決め手として「買取店を回るのが面倒だったから」を挙げた人は11.7%(全体平均の約3.3倍)、「大量の営業電話が嫌だったから」を挙げた人は14.6%にのぼり、担当者の対応の丁寧さを重視する人も63.1%に達しました。

  • 免許返納による売却者のうち45〜64歳(子ども世代)の割合:約64%
  • 「買取店を回る手間」を決め手に挙げた割合:11.7%(全体平均3.5%)
  • 「営業電話の多さ」を決め手に挙げた割合:14.6%
  • 「担当者の対応の良さ」を重視する割合:63.1%

複数社への一括査定で高額査定の上位数社にだけやり取りを絞るサービスや、相続や免許返納で動かなくなった車も含めて無料で引き取り、廃車や名義変更の手続きまで代行してくれる地域の業者を活用することで、家族に負担をかけずに車じまいを進めるケースが増えています。売却で得た資金は、タクシー代や介護費用など、その後のセカンドライフの原資として活用されています。

6. まとめにかえて|車を手放すことは「不便」ではなく「自由」へのシフトチェンジ

ここまで見てきたように、年金家計にとって車の維持費は決して軽い負担ではありません。持ち家で駐車場代がかからなくても、軽自動車で年間17万円台、普通車で24万円台の現金が確実に出ていき、買い替え費用まで含めれば実質30万〜50万円規模に膨らみます。

一方で、その維持費をタクシー代や新しい移動サービスに置き換えれば、週2回以上の利用でもお釣りが来る計算になり、事故のリスクからも解放されます。

大切なのは、感情論だけで押し引きするのではなく、まずは総務省や日本年金機構などの公的な数字をもとに、自分たちの家計でどこまで車を維持できるのかを確認してみることです。「運転免許の自主返納」は我慢の決断ではなく、安心と自由を選び直すための前向きな一歩になり得ます。帰省のタイミングなどに、車のこれからについて家族で一度話し合ってみてはいかがでしょうか。

7. 【筆者コメント】

熊谷 良子

車の名義変更や保険の解約、駐車場の解約など、車を手放す際の事務手続きは想像以上に細かく、後回しにされがちです。

警察署でも案内している「高齢者運転免許自主返納サポート協議会」の特典一覧を事前に確認しておくと、タクシー割引やバスの優遇制度をどこまで受けられるか具体的にイメージしやすくなります。また、一括査定を利用する場合も、申し込み前に廃車手続きや名義変更にかかる費用の目安を確認しておくと、想定外の出費に慌てずに済みます。

車を手放す前に、家族でエンディングノートや簡単なメモに「誰が」「いつまでに」「何を」手続きするのかを書き出しておくのもおすすめです。

数字の試算だけでなく、こうした小さな準備の積み重ねが、家族全員にとって納得感のある「車じまい」につながります。

参考資料