実家を相続したものの、住む予定がないまま置いている。そうした空き家を売るときに使える税の特例があります。
国税庁は「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」として説明しており、正式には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といいます。譲渡所得の金額から最高3000万円まで控除できますが、要件は細かく、期限もあります。
国税庁と国土交通省の資料から、要件と利用状況を見ていきます。
- 相続した空き家を売ると、譲渡所得から最高3000万円を控除できる特例があります。
- 昭和56年5月31日以前の建築であることなど、8つの主な要件をすべて満たす必要があります。
- 令和6年度の確認書交付は1万6755件で過去最多。平成28年度からの累計は9万3897件です。
1. 相続した空き家を売ったときの特例です
国税庁の説明によると、この特例は、相続または遺贈により取得した被相続人の居住用の家屋やその敷地を売って一定の要件に当てはまるときに、譲渡所得の金額から最高3000万円まで控除できるというものです。
適用されるのは、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売った場合です。もともとの期限は令和5年12月31日まででしたが、令和5年度の税制改正で4年間延長され、令和6年1月1日から令和9年12月31日までの譲渡が新たに対象になりました。
国土交通省の資料では、この税制の狙いは空き家の発生の抑制にあり、空き家を早期に譲渡するよう相続人を後押しする必要がある、と説明されています。
2. 8つの主な要件があります
【図表1】空き家の3000万円特別控除の主な要件1/2
各種資料をもとにLIMO編集部作成
国税庁の説明にある主な要件は、次のとおりです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと(マンションなどは対象外)
- 相続の開始の直前において被相続人が住んでいたこと(老人ホーム等に入所していた場合は、要介護認定等を受けているなど一定の要件を満たすとき)
- 相続の開始の直前において被相続人以外に住んでいた人がいなかったこと
- 相続の時から譲渡の時まで、事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 一定の耐震基準に適合させるか、家屋を取り壊して売ること
このほか、他の特例の適用を受けていないこと、同一の被相続人から取得した家屋等についてこの特例の適用を受けていないこと、親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと、といった要件もあります。
8つ目の要件については、令和5年度の税制改正で扱いが変わりました。以前は譲渡の前に売主が耐震改修または除却の工事を済ませておく必要がありましたが、売買契約等にもとづき買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに工事を行った場合も、適用対象になりました。
国土交通省の資料では、譲渡前に売主が工事を実施する必要があったことが、空き家の流通上の支障になることもあった、と改正の理由が説明されています。
3. 家屋と敷地を取得した相続人が3人以上だと2000万円になります
控除額についても、令和6年1月1日以後の譲渡から変更があります。その家屋と敷地を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上の場合、控除額の上限は3000万円ではなく2000万円になります。ここで数えるのは相続人の総数ではなく、その家屋と敷地を取得した人数です。
兄弟姉妹で実家を共同で相続して売却するような場合、取得した人数によって使える金額が変わることになります。控除額の大きさだけを見ていると見落としやすい点です。
国土交通省の資料には、空き家は相続を機に発生するものが過半以上で、利用が予定されていない空き家は近年、年に約6万戸のペースで増えており、そのうち相続が原因のものが約3万戸ある、と書かれています。
一方で、この特例の確認書は令和6年度に1万6755件交付されています。並べて割り算をしたくなるところですが、これは慎重にしたほうがよさそうです。片方は年度ごとの交付件数、もう片方は調査時点の推計で、数えている対象も期間の区切りも違います。
それでも、桁として近い数字が並んでいることは頭に置いておいてよいのだと思います。制度が想定している場面と、実際に使われている件数が、まったく別の世界の話ではないということです。
では、その件数はどう動いてきたのでしょうか。
4. 令和6年度の確認書交付は1万6755件で過去最多です
国土交通省と総務省が令和7年3月31日時点でまとめた空家法の施行状況によると、この特例に係る確認書の交付件数は、令和6年度が1万6755件でした。前年度の1万3696件から3059件増えており、22.3%の増加です。
【図表2】空き家の3000万円特別控除に係る確認書の交付件数2/2
各種資料をもとにLIMO編集部作成
交付件数は平成28年度の4451件から増え続けています。平成28年度から令和6年度までの累計は9万3897件でした。
増え方は一定ではありません。令和元年度から令和2年度にかけての増加は109件にとどまり、これまでで最も小さくなっています。一方、令和6年度の3059件は最も大きい伸びです。
5. 確認書の交付件数は、特例の適用件数そのものではありません
この数字を読むときに、気をつけておきたい点が2つあります。
1つは、これが市区町村の交付する「被相続人居住用家屋等確認書」の件数だということです。確認書は特例を使うために必要な書類のひとつであり、実際に確定申告で特例が適用された件数と同じとは限りません。
もう1つは、件数があとから修正されることです。令和7年の資料には、市区町村からの報告を受けて過去に公表した過年度分の件数を一部修正した、との注記があります。実際、令和3年度の交付件数は、令和5年度の税制改正資料では1万1976件と記載されていましたが、最新の資料では1万1944件になっています。
古い資料の数字をそのまま引用すると、最新の集計と食い違うことがあります。件数を引くときは、公表時点を確かめておくのが安全です。
6. 空き家は相続を機に発生するものが過半以上とされています
この特例が置かれている背景も見ておきます。国土交通省の資料では、空き家は相続を機に発生するものが過半以上とされており、利用が予定されていない空き家は令和12年には約470万戸まで増加する見込みだと説明されています。
また、令和3年に閣議決定された住生活基本計画では、居住目的のない空き家数を令和12年に400万戸程度に抑えることが成果目標に掲げられています。
なお、この資料が背景として挙げている349万戸という空き家の数は、平成30年の住宅・土地統計調査の値です。最新の令和5年調査では、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家は385万6千戸になっています。資料の作成時点によって、前提にしている数字が異なる点には注意が必要です。
7. まとめにかえて
相続した空き家を売るときの3000万円特別控除について、要件と利用状況を見てきました。
- 譲渡所得から最高3000万円を控除でき、適用期限は令和9年12月31日です
- 昭和56年5月31日以前の建築であることなど、8つの主な要件があります
- 令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を取得した相続人が3人以上の場合は上限2000万円です
- 令和6年度の確認書交付は1万6755件で、平成28年度からの累計は9万3897件です
控除額は大きいものの、要件は細かく設定されています。とくに、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限と、昭和56年5月31日以前の建築という線引き、区分所有建物登記がされている建物は対象外という点は、あとから調整できるものではありません。
ここで挙げたのは主な要件です。適用できるかどうかは個別の事情によって変わりますし、確認書の手続きは市区町村ごとに案内が異なります。実際に検討するときは、税務署または税理士と、家屋の所在する市区町村の窓口に確認してください。
8. 【執筆者コメント】期限があるから動けるということ
この特例で私がいちばん気になったのは、控除額の大きさではなく、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、という期限のほうでした。
相続が起きたあとの3年は、長いようで短いのだろうと思います。家をどうするかを決めて、耐震改修か取り壊しまで段取りをつけるとなると、余裕があるとは言いにくい気がします。しかも主な要件だけで8つあり、ひとつでも外れると使えません。
昭和56年5月31日以前の建築という線引きも、まず自分の実家がどちらなのかを調べるところから始まります。制度の説明を読む前に、確かめるべきことがいくつかあるということです。
私は本を買うのが好きなのですが、最近は買ったまま読めていないものが積み上がっています。期限のないものは後回しにできてしまう、という点では似ているのかもしれません。この特例に期限が設けられていること自体が、動き出すための仕掛けなのだろうと思いました。
もっとも、期限に間に合わせることと、適用できるかどうかは別の話です。判断は個別の事情によって変わりますので、実際に検討するときは税務署か税理士に確認してください。
参考資料
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律 第2章 補助制度・税制」
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について(令和7年3月31日時点)」
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」
中沢 新
