4. 「平均貯蓄2000万円」の裏側。中央値は1264万円、高齢世帯は取り崩す現実

日々の家計を切り詰めている実感がある一方で、ニュースで時折耳にする「家計の貯蓄額が平均2000万円を突破」という報道に、強い違和感を覚えたことはないでしょうか。

総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果」によると、二人以上世帯の平均貯蓄現在高は2059万円で、比較可能な2002年以降で最多となりました。

ただし、この「平均値」には大きな偏りが隠れています。一部の高額貯蓄世帯が全体を押し上げており、「平均値を下回る世帯」は全体の66.1%を占めます。

実態をより正確に映す「中央値(貯蓄額の少ない順に並べてちょうど真ん中の世帯の額)」を見ると、貯蓄保有世帯で1264万円(前年1189万円)、貯蓄ゼロ世帯を含めた中央値(参考値)では1167万円にとどまり、平均値との差は795万円にのぼります。

  • 二人以上世帯の平均貯蓄現在高:2059万円(前年比3.8%増、2002年以降で最多)
  • 平均値を下回る世帯の割合:66.1%
  • 貯蓄保有世帯の中央値:1264万円(前年1189万円)
  • 貯蓄ゼロ世帯を含めた中央値(参考値):1167万円

貯蓄現在高の「平均」と「中央値」の乖離2/3

貯蓄現在高の「平均」と「中央値」の乖離

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)―2025年(令和7年)平均結果―(二人以上の世帯)」をもとにLIMO編集部作成

さらにこのデータからは、世代間の資産の二極化や、年金暮らしの高齢世帯における「貯蓄の切り崩し」という現実も見えてきます。

4.1 では世代ごとの貯蓄事情は?

65歳以上の無職世帯(高齢無職世帯)

  • 平均貯蓄現在高:2494万円
  • 対前年増減:66万円減少(2.6%減)
  • 6年ぶりの減少

背景には、物価上昇に年金の伸びが追いつかない「マクロ経済スライド」による実質的な給付調整があります。高齢世帯が日常を維持するために、預貯金を取り崩さざるを得ない状況がうかがえます。

勤労者世帯

  • 平均貯蓄現在高:1717万円
  • 対前年増減:138万円増加(8.7%増)

現役世代、特に40歳代以下では住宅・土地のための負債を抱える世帯が多く、教育費の負担増や実質賃金の伸び悩みなど、現役世代ならではの苦境も存在します。特定の世代だけが苦しいのではなく、現役もシニアも等しくインフレの波に向き合っているのが実情です。

5. 「我慢一辺倒」からの卒業。データが映す「メリハリ消費」という工夫

短期的なレジャー費用のツケと、中長期的な物価上昇。この状況の中で、生活者はただ耐え忍んでいるだけなのでしょうか。

データが示すのは、「一律にすべてを諦める我慢の節約」から、より戦略的で自律的な生活設計へと向かう姿です。その象徴が、博報堂の2026年9月消費予報における「化粧品」カテゴリーの動きです。ほぼすべてのカテゴリーで買い控えの傾向が見られる中、16カテゴリーのうち前月比・前年比ともに突出して消費意向を伸ばしたのは「化粧品」のみでした。

これは経済学で「リップスティック効果(口紅効果)」と呼ばれる現象と重なります。景気の停滞や物価高の際、自動車や海外旅行のような大きな支出は控える一方、比較的手が届きやすく、自分の気分を高めてくれる小さな贅沢品にお金を使い、心の充足を保とうとする心理的な動きです。

節約意識そのものも、一時的なものではなく日常の習慣として根付きつつあります。Surveroid(株式会社マーケティングアプリケーションズ)が実施した調査では、「今後も物価高が続いた場合、現在の節約・買い控えを継続、またはさらに強化する」と回答した人が66.4%にのぼりました。

  • 今後も物価高が続いた場合の節約継続・強化意向:66.4%(継続40.7%+強化25.7%)
  • 2026年9月の消費予報で、前月比・前年比ともに消費意向が伸びたのは16カテゴリー中「化粧品」のみ

日々の基礎コスト(食費、光熱費など)は徹底的に効率化しつつ、自分の心を明るくしてくれる「セルフケア」の領域への支出は賢くキープする。そうしたメリハリのある選択が、生活者の間で広がっています。

6. まとめにかえて|「平均」に惑わされず、自分の家計の実態を確かめる

2026年秋の入り口、私たちの消費マインドは過去5年間で最も冷え込んだ水準を記録しました。しかしこれは、生活者が消費そのものに絶望しているというより、「物価高の今だからこそ、納得できるものだけを選んで買いたい」という厳しい目でお財布の手綱を握っている表れとも言えます。

「平均貯蓄2000万円」という数字だけを見て一喜一憂するのではなく、家計調査などの公的データで示される中央値や、公的年金シミュレーターといった公的機関のツールを使って、自分自身の家計の実態を確かめてみること。何を削り、何を残すかを自分なりに見極めることが、この物価高の時代を健やかに乗り切るための、確かな一歩になるはずです。

7. 監修者からのコメント

熊谷 良子

日々の家計に向き合っていると、削れるところはとことん削る一方で、どうしても手放したくない小さな支出があるという感覚に、覚えのある方は多いのではないでしょうか。

行動経済学では、こうした「費目ごとにお金の使い道を区別する」心理を「メンタル・アカウンティング(心の家計簿)」と呼びます。生活必需品への支出は徹底的に切り詰める一方、自分の機嫌を保てるささやかな支出には納得したうえでお金を使う。これは矛盾ではなく、限られた家計の中で心の余裕を保つための、合理的な工夫と言えるでしょう。

高齢世代であれ現役世代であれ、インフレが続く中で「何を削り、何を残すか」を自分なりに見極める姿勢が、これからますます重要になっていくはずです。

参考資料

池上 翠