「地方移住」と検索すると、「やめとけ」という言葉が一緒に出てきます。
移住を扱う記事の多くは前向きな話で、支援制度も充実してきました。それでも失敗談や後悔の声が探されているということは、実際にうまくいかなかった人が一定数いるということでもあります。
ただ、体験談は人によって違います。ここでは公的な統計から、移住が後悔につながりやすい条件を数字で確認していきます。
- 都道府県別の賃金は東京41万8300円に対し青森26万3900円で、約1.6倍の差がある
- 全国計34万600円を上回るのは東京・神奈川・愛知・大阪の4都府県のみ
- 地域おこし協力隊は任期終了者の70.3%が定住する一方、23.0%は地域外へ転出している
1. 賃金は東京と青森で1.6倍の差
まず、移住で最も大きく変わりうる要素である収入から見ていきます。
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者の賃金は全国計で34万600円でした。これを上回ったのは東京都、神奈川県、愛知県、大阪府の4都府県のみです。
最も高いのは東京都の41万8300円。最も低いのは青森県の26万3900円で、その差は15万4400円、倍率にすると約1.6倍になります。
【図表1】都道府県別の賃金(上位10都府県・下位10県/令和7年)1/2
各種資料をもとにLIMO編集部作成
月あたり15万4400円の差を単純に12か月分へ換算すると、年間で約185万円になります。
ここでいう賃金は所定内給与額で、残業代や賞与は含まれていません。つまり実際の年収差はこの数字とは異なりますが、地域によって基礎的な賃金水準が大きく違うという構図は変わりません。
移住先で転職する場合、収入はその地域の水準に近づきます。「生活費が下がるから収入も下がって大丈夫」と考えるなら、下がる幅を具体的な金額で見積もっておく必要があります。
2. 賃金の高い都府県に、人が集まっている
賃金の差は、人の動きとも重なっています。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」によると、2025年に転入超過となったのは47都道府県のうち7都府県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、福岡県、滋賀県)だけでした。なお、東京圏の転入超過は12万3534人で、3年続いた拡大から縮小に転じました。それでも東京一極集中そのものは続いています。
この7都府県を賃金の高い順に並べた図に重ねると、位置がはっきりします。
【図表2】賃金の高い順に並べた47都道府県と、2025年の転入超過の有無2/2
各種資料をもとにLIMO編集部作成
賃金上位10都府県のうち6つが転入超過です。一方、11位以下の37道府県で転入超過となったのは福岡県だけでした。
もちろん、賃金が高いから人が集まるという単純な因果関係だとは言い切れません。仕事の数、進学先、交通の便など、要因は複数あります。
それでも、賃金の高い地域と人が集まる地域がおおむね重なっているという事実は押さえておきたいところです。移住とは、多くの場合この流れに逆らう選択になります。逆らうこと自体が悪いわけではありませんが、流れがある以上、意識的な準備が要るということです。
賃金の高い地域と人が集まる地域が重なっているという話は、移住を考えるうえでいちばん重い前提だと思います。本文にあるとおり、移住は多くの場合この流れに逆らう選択になります。
ただ、逆らい方はひとつではありません。移住先で転職すれば収入はその地域の水準に近づきますが、勤務先を変えずに移るなら、賃金の差をそのまま引き受けずに済む可能性があります。私自身、勤務先を変えないまま地方に住んで働いています。
もっとも、これは誰でも選べる方法ではありません。雇用型テレワーカーの割合は首都圏37.7%に対して地方都市圏17.2%で、2倍以上の開きがあります。制度が使えるかどうかは勤務先次第で、住む場所を決める前に確認しておくべき部分です。
賃金差を生活費で埋めるのか、収入のほうを動かさずに済ませるのか。入口でどちらを選ぶかによって、必要な準備はかなり変わってきます。
3. 【執筆者コメント】流れに逆らわずに済む場合もある
ここで少し脇道に逸れます。賃金の高い地域と人が集まる地域が重なっているという話は、移住を考えるうえでいちばん重い前提だと思います。本文にあるとおり、移住は多くの場合この流れに逆らう選択になります。
ただ、逆らい方はひとつではありません。移住先で転職すれば収入はその地域の水準に近づきますが、勤務先を変えずに移るなら、賃金の差をそのまま引き受けずに済む可能性があります。私自身、勤務先を変えないまま地方に住んで働いています。
もっとも、これは誰でも選べる方法ではありません。雇用型テレワーカーの割合は首都圏37.7%に対して地方都市圏17.2%で、2倍以上の開きがあります。制度が使えるかどうかは勤務先次第で、住む場所を決める前に確認しておくべき部分です。
賃金差を生活費で埋めるのか、収入のほうを動かさずに済ませるのか。入口でどちらを選ぶかによって、必要な準備はかなり変わってきます。
4. 移住しても、4人に1人近くは地域を離れている
「移住したあと、どれくらいの人がその地域に住み続けているのか」を示すデータもあります。
総務省「令和7年度における地域おこし協力隊の活動状況等」によると、令和2年度から令和6年度までの直近5年間に任期終了した隊員8762人のうち、同じ地域に定住したのは6163人で70.3%でした。
一方、その地域外へ転出した人は2013人で23.0%。4人に1人近くが、活動していた地域を離れています。
ただし、この23.0%をそのまま「失敗」と読むのは正確ではありません。転出者のうち228人は、活動地と関わりのある地域協力活動などに従事しているとされています。進学や家族の事情など、地域とは無関係な理由もあるでしょう。
それでも、行政の支援を受け、活動の場と報酬が用意され、おおむね1年から3年という期間をかけて地域と関わる機会があった人たちでさえ、23.0%は離れているという事実は重要です。何の準備もなく移った場合、この比率が下がる理由はありません。
5. 「やめとけ」の中身は、たいてい見積もりの問題
ここまでの数字を並べると、共通しているのは「事前の見積もり」です。
収入がどれだけ下がるのか。生活費のうち何が下がって何が上がるのか。仕事が続かなかったときにどうするのか。この3つに具体的な数字で答えられないまま移ると、うまくいかなかったときに戻る手段がありません。
なお、生活コストについては本記事で扱った統計の範囲外です。家賃が下がる一方で自動車の維持費や暖房費が増えるといった話はよく聞きますが、金額は地域と世帯構成によって大きく変わります。候補地が決まったら、家計の項目ごとに自分の条件で試算するしかありません。
「やめとけ」と言われる背景には、こうした見積もりの甘さがあるケースが多いのだと思われます。裏を返せば、見積もりを詰めておけば避けられる部分も大きいということです。
6. 後悔を避けるために、先に決めておきたいこと
具体的には、次の3点を移住前に固めておきたいところです。
一つ目は、収入をどうするかです。移住先で転職するのか、勤務先を変えずに移るのか。後者を選べるなら、収入水準を保ったまま生活コストだけを下げられる可能性があります。テレワークを導入している企業は50.1%まで広がっていますが、雇用型テレワーカーの割合は首都圏37.7%に対し地方都市圏17.2%と地域差が大きく、移住先で継続できるかどうかは勤務先の制度次第です。就業規則上どこまで認められているのかを、住む場所を決める前に確認しておく必要があります。
二つ目は、戻る選択肢を残しておくかどうかです。生活の拠点を完全に移さず、主な拠点を残したまま別の地域にも拠点を持つ方法もあります。この暮らし方は二地域居住と呼ばれ、2024年11月施行の改正法で国の政策としても位置づけられました。費用は二重にかかりますが、合わなかったときに戻れるぶん、失敗したときの損失は小さくなります。
三つ目は、候補地を都道府県ではなく市区町村で見ることです。住民基本台帳人口移動報告には市区町村別の結果も収録されており、県全体が転出超過でも人が集まっている市町村はあります。賃金も生活コストも、県平均は自分が住む街の数字ではありません。
なお、移住支援金などの制度は要件や金額が自治体ごとに異なり、年度によって内容も変わります。適用の可否は必ず候補地の自治体の最新情報と窓口でご確認ください。
7. まとめにかえて
今回は、公的統計から移住が後悔につながりやすい条件を確認しました。
- 賃金は東京41万8300円、青森26万3900円で約1.6倍の差。全国計34万600円を上回るのは4都府県のみ
- 賃金上位10都府県のうち6つが転入超過、11位以下の37道府県では福岡県だけ
- 地域おこし協力隊は任期終了者の70.3%が定住する一方、23.0%は地域外へ転出
- 賃金は所定内給与額であり、残業代や賞与は含まれない
数字を並べると悲観的に見えるかもしれません。ただ、これらはいずれも「準備すべき項目」を示しているだけです。避けられる失敗と、避けられない相性の問題を切り分けることが、後悔を減らす近道になりそうです。
8. 【執筆者コメント】「やめとけ」の多くは、たぶん条件の話をしている
「地方移住」と調べてみると、検索候補に「やめとけ」という文字が並びます。なんだか移住そのものが否定されているように感じますが、実際に語られている中身はたいてい条件の話なのだと思います。
今回いちばん重く感じたのは、月15万4400円という賃金差でした。年間に直すと約185万円。この金額を家賃の差だけで埋めるのは、地域によってはかなり厳しいはずです。もちろん所定内給与だけの比較なので実際の差はまた別ですが、桁として頭に入れておく価値はあります。
もうひとつ引っかかったのが、地域おこし協力隊の23.0%です。活動の場と報酬が用意され、おおむね1年から3年の助走期間があってなお、4人に1人近くが離れている。制度が悪いという話ではなく、地域との相性はやってみないと分からない部分がある、ということなのだと思います。
私も現在群馬県の山間に住んでいて、県内に移住してきた人の話を聞く機会がときどきあります。うまくいっている人ほど、事前に何度も通っていたり、仕事の当てを先に確保していたり、地域の行事に積極的に参加したりしています。感覚ではなく段取りの差だな、と毎回思わされます。
「やめとけ」を無視するのも、鵜呑みにするのも、どちらもあまり得はしなさそうです。どの条件なら成り立つのかを自分の数字で確かめる。結局そこに戻ってくるのだと思います。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 都道府県別にみた賃金」
- 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」
- 総務省「令和7年度における地域おこし協力隊の活動状況等」(令和8年4月24日公表)
中沢 新


