「地方移住」という言葉を目にする機会は増えました。支援金の情報も、移住した人の体験談も、探せばいくらでも出てきます。
ただ、日本全体で見たときに、人の流れは実際どちらを向いているのでしょうか。
総務省が毎年公表している「住民基本台帳人口移動報告」には、1年間に47都道府県のあいだで人がどう動いたかが記録されています。2026年2月に公表された2025年の結果から確認していきます。
- 2025年の東京圏の転入超過数は12万3534人で、前年から1万2309人の縮小
- 3年続いた拡大からの反転だが、コロナ前の2019年(14万8783人)は下回る水準
- 転入超過となったのは47都道府県のうち7都府県のみ。残る40道府県は転出超過
1. 東京圏の転入超過は12万3534人
まずは全体の流れから見ていきます。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」によると、東京圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)は12万3534人の転入超過となりました。前年に比べて1万2309人の縮小です。
3大都市圏全体では11万9581人の転入超過。名古屋圏(愛知県・岐阜県・三重県)は1万2695人の転出超過、大阪圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県)は8742人の転入超過でした。
東京圏の数字が3大都市圏の合計を上回っているのは、名古屋圏が転出超過だからです。3大都市圏のなかで人が集まっているのは、東京圏と大阪圏の2つに限られます。
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各種資料をもとにLIMO編集部作成
推移を追うと、コロナ禍の前後で大きく揺れているのが分かります。2019年の14万8783人がコロナ前のピークで、2021年には8万1699人まで縮小しました。その後は3年続けて拡大し、2024年に13万5843人まで戻っています。
2025年はここから縮小に転じました。ただし12万3534人という水準は、2019年のピークには2万5000人ほど届かない一方、2015年から2017年の12万5000人〜12万7000人台とほぼ同じ位置にあります。
「東京一極集中は終わった」とも「元に戻った」とも言い切れない。数字はその中間を指しています。
2. 東京都だけで6万5219人。ただし前年から1万4066人減った
都道府県別に見ると、最も転入超過が大きいのは東京都で6万5219人でした。
注目したいのは、前年からの減り方です。2024年の7万9285人から1万4066人の減少で、率にすると約17.7%減。都道府県のなかで最も大きな縮小幅です。
内訳を見ると理由がはっきりします。東京都への転入者数は45万1843人で前年から9611人減り、逆に転出者数は38万6624人で4455人増えました。入る人が減り、出る人が増えた結果としての縮小です。
東京圏の他の3県は、神奈川県が2万8052人、埼玉県が2万2427人、千葉県が7836人の転入超過でした。神奈川県は前年から1089人、埼玉県は691人の拡大です。ただし両県の増加分を合わせても1780人で、東京都の減少幅1万4066人には遠く及びません。
3. 転入超過は47都道府県のうち7つだけ
では、東京圏以外に人が集まっている地域はあるのでしょうか。
2025年に転入超過となったのは、次の7都府県です。
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各種資料をもとにLIMO編集部作成
東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の東京圏4都県に、大阪府(1万5667人)、福岡県(5136人)、滋賀県(353人)を加えた7つ。残る40道府県はすべて転出超過でした。
転出超過が大きいのは広島県の9921人、福島県の7197人、静岡県の6711人、新潟県の6379人などです。
地方移住の話題が増えている一方で、都道府県単位で見れば人口の流出が続いている地域が大半だという構図は変わっていません。
ここまでの数字を追っていて気になったのは、この統計が住民票の移動を数えているという点でした。
住民票を動かさずに地方と関わっている人は、この数字には現れません。主な拠点を残したまま別の地域にも拠点を持つ二地域居住は、2024年11月施行の改正法で制度上も位置づけられましたが、拠点が2つあっても住民票は原則としてどちらか一方です。統計のうえでは、その人はずっと同じ場所にいることになります。
リモートワークが広がり、働く場所と住む場所の結びつきは以前より緩くなりました。それでも人口移動の統計が捉えるのは、住民票を動かすという最後の一歩だけです。
7都府県以外はすべて転出超過という数字は事実です。ただ、地方と関わる人がその分だけ減っているとは限りません。統計が拾えるものと拾えないものを分けておくと、数字の受け止め方も落ち着くように思います。
4. 「転入超過」は移住した人の数ではない
ここで、この統計を読むうえで欠かせない注意点があります。
転入超過数は、その地域に入ってきた人の数から、出ていった人の数を引いた差です。移住した人の実数ではありません。
東京都の例で言えば、45万1843人が入り、38万6624人が出た結果として6万5219人という数字が出ています。「6万5219人が東京に移り住んだ」わけではありません。
もうひとつ。この統計は移動の理由を区別しません。進学、就職、転勤、結婚、親の介護。住民票を移した人はすべて同じ1人として数えられます。「地方移住」として語られる自発的な住み替えは、この数字のごく一部にすぎません。
逆に言えば、東京圏が転入超過であっても、地方へ移った人が相当数いることも事実です。2025年に都道府県をまたいで移動した日本人は251万5731人。この大きな流れのなかで、差し引き12万人ほどが東京圏に残った、という読み方が正確です。
移住を考えるうえで、この統計は「全体の潮流」を知るためのものであって、個人の選択の是非を判断する材料ではありません。
5. この数字を、自分の判断にどう使うか
そのうえで、地方移住を具体的に検討する段階では、見るべき数字が変わります。
第一に、全国平均ではなく候補地の数字を見ることです。同じ「地方」でも、福岡県のように転入超過の県もあれば、広島県のように9000人を超える転出超過が出ている県もあります。しかも都道府県単位ではまだ粗く、この統計には市区町村別の結果も収録されています。県全体が転出超過でも、人が集まっている市町村はあります。
第二に、支援金は判断の出発点にはならないということです。移住支援金や自治体独自の補助金は初期費用を軽くしますが、一時金であって恒常的な収支を変えるものではありません。金額の多寡で移住先を選ぶと、生活が始まってから条件の違いに気づくことになります。
第三に、収入の見通しがもっとも大きな変数だという点です。移住先で転職すれば地域の賃金水準に近づきます。勤務先を変えずにリモートワークで移るなら、収入を保ったまま生活コストだけを下げられる可能性があります。ただし、テレワークの普及状況には地域差があります。雇用型テレワーカーの割合は首都圏37.7%に対し地方都市圏は17.2%で、2倍以上の開きがあります。どちらを選ぶかで、必要な貯蓄額はまったく変わります。
第四に、移住しきらない選択肢もあるという点です。主な生活拠点を残したまま別の地域にも拠点を持つ暮らし方は、国の資料では「二地域居住」と呼ばれ、2024年11月施行の改正法で市町村が受け入れ計画をつくれる仕組みも整いました。合わなかったときに戻れるぶん、判断を先送りできる利点があります。
なお、支援制度の要件や金額は自治体ごとに異なり、年度によって内容も変わります。適用できるかどうかは、必ず候補地の自治体の最新の公式情報と窓口でご確認ください。
6. まとめにかえて
今回は、総務省の統計から人口移動の現在地を確認しました。
- 2025年の東京圏の転入超過数は12万3534人、前年から1万2309人の縮小
- 東京都は6万5219人で、前年から1万4066人(約17.7%)の減少
- 転入超過は7都府県のみ、残る40道府県は転出超過
- 転入超過数は差引の数字であり、移住した人の実数ではない
東京への集中は、勢いを弱めながらも続いています。ただ、それは「地方移住はうまくいかない」という話ではありません。全体の潮流と、個人にとっての最適解は別のものです。
まずは全体の位置を知り、そのうえで候補地の数字に降りていく。統計の使い道としては、それが順当なところだと思います。
7. 【執筆者コメント】数字が大きいほど、自分の話から遠くなる
今回いちばん考えさせられたのは、12万3534人という数字の扱いにくさでした。
大きな数字ではあるのですが、これは差し引きの結果です。分解すると、251万人が動いたなかでの12万人。しかも進学も転勤も介護も全部まとめて入っています。「地方移住」を考えている人にとって、この数字が直接何かを教えてくれるかというと、正直そこまでではありません。
それでも意味があるとすれば、自分の感覚を疑う材料になることだと思います。私は群馬県に住んでいて、周囲で東京から移ってきた人の話をたまに聞きます。その印象だけで語ると「地方移住は増えている」と言いたくなるのですが、群馬県は1516人の転出超過でした。
逆に、転入超過が7都府県しかないと知ると、今度は「地方はもうだめだ」という方向に振れそうになります。これも同じくらい雑な結論です。県全体が転出超過でも、人が増えている市町村はあります。
結局、平均値は自分の話ではない、というところに戻ってきます。地図を見て現在地を確認したら、あとは自分の行き先の縮尺で見るしかないのだと思います。次は移住先の選び方やお金の話を、もう少し細かい単位で追ってみるつもりです。
参考資料
- 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」
- 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年結果 結果の概要」
- 総務省「報道資料 住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」
- 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」
中沢 新


