3. 「加入するかどうか選べる」時代は、少しずつ変わっていく
これまで、パートやアルバイトで働く方の中には、勤務時間や給与を調整して、あえて厚生年金・健康保険に加入しない「就業調整」を選ぶ方も少なくありませんでした。いわゆる「106万円の壁」です。従業員数が一定規模を超える企業で、週20時間以上、かつ月額賃金8万8000円以上(年収換算で約106万円)働くと、この賃金要件により厚生年金・健康保険への加入対象になる、というものでした。
令和7年(2025年)に成立した年金制度改正法により、この月額賃金8万8000円以上という「賃金要件」は、最低賃金の状況を踏まえて令和8年(2026年)10月に撤廃される予定です。撤廃後は、週20時間以上働いているかどうかが主な加入基準となり、賃金の額を理由に加入を避けるという選択は難しくなっていきます。
なお、従業員数51人以上という「企業規模要件」は、2026年10月にすぐになくなるわけではなく、2027年10月(36人以上)、2029年10月(21人以上)、2032年10月(11人以上)、2035年10月(10人以下)という形で段階的に縮小・撤廃されていく予定です。そのため、勤務先の規模によっては、しばらくは企業規模要件の対象外として、加入せずに働けるケースも残ります。とはいえ、大きな流れとしては、週20時間以上働く方が社会保険に加入するのが当たり前になる方向に進んでいることは押さえておきたいポイントです。
これまでは「加入するかどうかを自分で選ぶ」という意識を持ちやすい制度でしたが、2026年10月に賃金要件が撤廃されると、週20時間以上働くのであれば加入を避けるという選択の余地は小さくなっていきます(勤務先の企業規模要件が残っている間は例外もあります)。
だからこそ、「加入を避けるために勤務時間を調整する」ことに労力を使うより、加入することのメリットを早いうちから理解して、ご自身に合ったペースで働く時間やキャリアを考えていく方が、長い目で見て納得感のある選択につながりやすいはずです。
4. 厚生年金にはこんなメリットがある
何かのきっかけで、これから厚生年金に加入して働くことを検討している方に向けて、厚生年金のメリットを整理します。
まず、先ほど確認したように、保険料の半分を会社が負担してくれる点は大きなメリットです。同じ金額を積み立てるにしても、半分は会社が支払ってくれるという意味で、実質的にお得な仕組みだと捉えることができます。
また、将来受け取る年金額にも反映されます。国民年金(基礎年金)は加入期間に応じた一定額なのに対し、厚生年金は現役時代の給与や加入期間に応じて年金額が上乗せされる仕組みです。長く、しっかりと収入を得て働くほど、老後に受け取れる年金額も増えていきます。
さらに、会社員として厚生年金に加入していると、病気やけがで働けなくなったときの「傷病手当金」、産前産後休業中の「出産手当金」といった、国民年金(第1号被保険者)にはない給付を受けられる場合もあります。配偶者を扶養している場合は、扶養される配偶者(第3号被保険者)が国民年金保険料を自分で納める必要がない点もメリットの一つです。
5. 一方で気になるデメリットも
もちろん、厚生年金にはデメリットと感じられる面もあります。
最も分かりやすいのは、保険料が給与から自動的に差し引かれるため、目先の手取り額が減ってしまう点です。特に、これまで国民年金だけだった方が厚生年金に加入する場合、保険料負担そのものは半分になったとしても、給与から引かれる金額が新たに発生することで「手取りが減った」という感覚を持つ方は少なくありません。
また、勤務時間や勤務先の規模によっては、そもそも厚生年金の加入対象にならないケースもあります。短時間労働者(パート・アルバイトなど)の場合、週の労働時間や賞与を含む賃金額、勤務先の従業員数といった要件を満たさないと、厚生年金には加入できません。加入するかどうかを選べる立場にある方は、目先の手取りと将来の年金額、どちらを重視するかを考える必要があります。
加えて、配偶者の扶養に入っていた方が新たに厚生年金に加入すると、それまで扶養されていた分の保険料負担が発生する形になるため、世帯全体で見た可処分所得が一時的に下がるケースもあります。
厚生年金に加入することで目先の手取りが減ると、どうしてもデメリットの方が目立って見えてしまいます。ただ、老後に受け取る年金額や、傷病手当金などの上乗せの保障まで含めて考えると、長い目で見ればメリットの方が大きいと感じる方も多いはずです。
働き方を見直すタイミングでは、「今の手取り」だけでなく「将来受け取れる年金額」「万一のときの保障」まで含めて、トータルで比較する視点を持つとよいでしょう。
6. まとめ
年金の保険料だけを比べると、厚生年金(本人負担1万3725円、標準報酬月額15万円のケース)は国民年金(1万7920円)より安いケースがありますが、健康保険料まで含めた本人負担の総額で見ると、会社が保険料の半分を負担してくれる社会保険(厚生年金+健康保険)の方が、家計への負担が軽くなる場合が多いというのが実情です。そのうえで、厚生年金には将来の年金額の上乗せや傷病手当金などの給付、デメリットとしては目先の手取りが減ることなどがあり、どちらが優れているというものではなく、働き方やライフスタイル、家計の状況によって最適な選択は変わります。
また、2026年10月には「106万円の壁」の賃金要件が撤廃される予定で、加入するかどうかを自分で選べる場面は少しずつ限られていく見通しです。これから働き方を見直す予定がある方は、目先の手取り額だけでなく、健康保険料も含めた本当の負担額、将来の年金額、保障の内容まで含めて、ご自身やご家族に合った働き方を考えてみることをおすすめします。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「保険料額表(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)」
- 日本年金機構「国民年金保険料の変遷」
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料率のお知らせ」
- 厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」
- 厚生労働省「『年収の壁』への対応」
和田 直子
