「企業年金」と「厚生年金」、どちらも会社員の年金として語られることが多いため、同じもの、あるいは似たようなものだと思っている人が少なくありません。しかし実際には、加入が義務かどうかという根本的な部分から違う、別の階層の制度です。

特に転職や退職を経験する人にとって、この違いを知らないままでいると、資産が知らないうちに目減りしていく落とし穴があります。この記事では、両者の位置づけの違いを整理したうえで、放置すると損をする具体的なケースを編集部で試算します。

なお、厚生年金の受給額の実態に関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。

【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイント
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ココがポイント
  • 厚生年金は国が運営する義務加入の「2階部分」、企業年金は会社が任意で実施する「3階部分」です。
  • 企業年金には確定給付企業年金(DB)・企業型確定拠出年金(DC)などの種類があり、会社によっては制度自体がありません。
  • 企業型DCだけは、退職後6か月以内に手続きをしないと自動移換され、資産が手数料でジワジワ減っていく仕組みになっています。

1. 厚生年金と企業年金、そもそも別の階層の制度

まず、2つの制度がどういう関係にあるのかを整理します。日本の年金制度はしばしば「3階建て」と表現されます。

1.1 厚生年金は2階、企業年金は3階

企業年金連合会の資料によると、1階は20歳以上60歳未満の全員が加入する「国民年金」、2階は民間企業の従業員や公務員が加入する「厚生年金保険」です。厚生年金は法律で加入が義務づけられた、国が運営する公的年金です。

これに対して3階は「企業年金」と呼ばれ、確定給付企業年金(DB)・厚生年金基金・企業型確定拠出年金(DC)などが該当します。企業年金連合会は、これを基礎年金を補完し上乗せ給付を行う制度と説明しており、法定の強制加入である厚生年金とは、義務性そのものが異なります。

この階層の違いは、老後に受け取る年金の性格にも表れます。厚生年金は加入者全員に共通する土台である一方、企業年金は勤務先の制度設計によって、受け取れる金額も仕組みもまったく異なります。同じ「会社員」という立場でも、勤務先次第で老後の年金の姿は大きく変わり得るということです。

1.2 企業年金は「あるかどうか」が会社次第

厚生年金は要件を満たせば自動的に加入しますが、企業年金は各企業が任意に実施するかどうかを決める制度です。そのため、同じ会社員でも、勤務先に企業年金があるかどうかで、老後に受け取れる年金の階層そのものが変わってきます。

齊藤 慧
「企業年金」という言葉から、厚生年金の一種だと思い込んでいる方は想像以上に多いはずです。実際には、加入が義務かどうかという土台からして違う、まったく別の階層の制度です。転職の際に「前の会社にあった企業年金は、今の会社にもあるはず」と考えるのは早計かもしれません。

2. 企業年金には主に3つの種類がある

ひとくちに企業年金といっても、仕組みが異なる複数の種類があります。転職時の対応も種類によって変わるため、まず全体像を押さえておきます。

2.1 確定給付企業年金(DB):将来もらえる額があらかじめ決まっている

DBは、将来受け取る給付額があらかじめ決まっている制度です。運用の結果が振るわなくても、会社が不足分を補填する形で、約束された給付額が維持されます。

2.2 企業型確定拠出年金(DC):運用成績で将来の額が変わる

DCは、会社が拠出した掛金を従業員自身が運用し、その運用成績によって将来受け取る額が変動する制度です。DBとは逆に、運用がうまくいけば給付額が増え、うまくいかなければ減ります。

2.3 厚生年金基金:多くが他の制度へ移行済み

かつては厚生年金基金という制度もありましたが、現在新規に設立されることはほとんどなく、多くの基金がDBなど他の企業年金制度へ移行しています。勤務先で「厚生年金基金」という名称を見かけた場合は、制度の移行状況を確認しておくとよいでしょう。

会社によっては、これら3つの制度のうち複数を組み合わせて実施している場合もあります。自分の勤務先がどの制度を採用しているかは、入社時の説明資料や就業規則で確認できます。

3. 【編集者の視点】

企業年金の種類によって、転職・退職時の資産の扱われ方が大きく異なる点は、意外と知られていません。DBは事業主の裁定に基づき、転職先の制度やiDeCo(個人型確定拠出年金)などへ資産を移すポータビリティ制度が用意されており、本人が資産を移す選択肢を選べる仕組みです。

一方、これから見ていく企業型DCには、DBのような柔軟さはなく、期限内に本人が動かないと不利益な扱いになる、明確な「落とし穴」が制度上組み込まれています。次の章で、その具体的な中身を確認します。

4. 編集部試算:企業型DCは「放置すると損する」制度

企業年金の中でも、企業型DCだけは退職後の対応を誤ると資産が目減りしていきます。iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会が運営)の情報をもとに、その仕組みを確認します。

4.1 6か月以内に移換手続きをしないと、自動移換される

iDeCo公式サイトによると、企業型DCの加入者資格を喪失してから6か月以内に、iDeCoなど他の確定拠出年金制度へ資産を移す手続きをしないと、資産は自動的に国民年金基金連合会へ移換されます。これを「自動移換」と呼びます。

4.2 自動移換されると、運用停止と手数料の負担が始まる

自動移換された資産は現金化され、運用の指図ができなくなります。加えて、自動移換時に特定運営管理機関と国民年金基金連合会それぞれに手数料が発生し、合計3300円+1048円の4348円が資産から差し引かれます。さらに4か月目以降は、月58円+40円の合計98円が管理手数料として毎月徴収され続けます。

また、自動移換されている期間は、老齢給付金を受け取るための通算加入者等期間に算入されません。そのため、本来より受給開始が遅れる可能性がある点にも注意が必要です。

4.3 【企業型DCの自動移換にかかる手数料】

企業型DCの自動移換にかかる手数料1/2

【企業型DCの自動移換にかかる手数料】

出所:企業年金連合会「企業年金制度|企業年金制度と通算年金」などを基にLIMO編集部作成

  • 自動移換時(1回のみ):4348円(特定運営管理機関3300円+国民年金基金連合会1048円)
  • 自動移換中の管理手数料(毎月):98円(特定運営管理機関58円+国民年金基金連合会40円)
  • iDeCoへ移換する場合の手数料(1回のみ):3379円(特定運営管理機関550円+国民年金基金連合会2829円)
齊藤 慧
自動移換された時点で4348円が引かれ、そこから毎月98円ずつ資産が削られていく。放っておくだけで損をする仕組みだと知らずに、転職後の手続きを後回しにしてしまう方は少なくないはずです。しかも自動移換された資産は現金化されて運用も止まるため、増えるどころか減り続けます。

5. 編集部試算:自動移換のまま5年放置すると、いくら減るか

自動移換されたことに気づかないまま、資産を長期間放置してしまうケースもあります。5年間放置した場合の手数料負担を、編集部で試算しました。

5.1 初期費用4348円に、月98円が60か月積み重なる

自動移換時の手数料4348円に加えて、5年(60か月)分の管理手数料98円を掛け合わせると、合計1万228円です。これはあくまで手数料だけの金額で、資産が現金化され運用できない間の機会損失は含まれていません。

この金額と比べると、早めにiDeCoへ移換した場合の手数料は3379円で済みます。放置する期間が長くなるほど、この差は広がっていきます。

5.2 【自動移換の放置期間別・手数料負担の合計(目安)】

自動移換の放置期間別・手数料負担の合計(目安)2/2

【自動移換の放置期間別・手数料負担の合計(目安)】

出所:企業年金連合会「企業年金制度|企業年金制度と通算年金」などを基にLIMO編集部作成

  • 自動移換直後:4348円
  • 1年(12か月)放置:約5524円
  • 5年(60か月)放置:約1万228円
齊藤 慧
5年放置しただけで1万円を超える手数料負担というのは、決して小さな金額ではありません。しかも運用が止まっている間は、増える可能性そのものが失われています。転職や退職のタイミングで一度だけ手続きをすれば防げる損失だと考えると、後回しにする理由が見当たらないはずです。

6. 【編集者の視点】

実務上の防衛策としては、転職や退職が決まった時点で、企業型DCに加入していたかどうかをまず確認することです。加入していた場合は、6か月という期限を意識し、転職先に企業型DCがあればそちらへ、なければiDeCoへの移換手続きを進めることをおすすめします。

すでに自動移換されてしまっている場合でも、後から移換手続きをすること自体は可能です。「もう手遅れだ」と諦めず、できるだけ早く手続きに着手することで、それ以上の手数料の積み重なりを止められます。

自分が自動移換されているかどうかは、特定運営管理機関や国民年金基金連合会のWebサイトで確認できます。転職を何度か経験している人ほど、意識しないまま複数の勤務先で企業型DCに加入していた可能性があるため、心当たりがある場合は一度確認しておくことをおすすめします。

7. 厚生年金と企業年金、掛金の負担者も違う

制度の階層だけでなく、掛金を誰が負担するかという点でも、厚生年金と企業年金には違いがあります。

7.1 厚生年金は労使折半、企業年金は原則会社負担

厚生年金の保険料率は18.3%で固定されており、事業主と被保険者が半分ずつ負担する労使折半です。これに対して企業年金は、DB・企業型DCともに、掛金を会社が負担するのが基本です。

企業型DCには、会社の掛金に本人が上乗せして拠出できる「マッチング拠出」という仕組みを設けている会社もあります。この場合、上乗せした本人負担分は、その分将来の受取額を増やす原資になります。すべての会社が導入しているわけではないため、興味がある場合はまず自社の制度にマッチング拠出があるかを確認するところから始めることになります。

齊藤 慧
厚生年金は自分の給与から天引きされている実感がある一方、企業年金は会社が負担しているぶん、存在自体を意識しにくい制度です。だからこそ、転職のときに「そんな資産があったのか」と初めて気づく人が出てくるのだと思います。

※本記事は、編集部が企業年金連合会・iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。

8. 自分の企業年金の有無・種類を確認する方法

最後に、自分が企業年金に加入しているかどうかを確認する方法を整理します。

8.1 入社時の説明資料や給与明細で確認する

入社時に配布される制度説明資料や、就業規則、退職金規程などに、企業年金の有無や種類が記載されています。企業型DCの場合は、専用のWeb管理画面が用意されていることが多く、そこで自分の資産状況を確認できます。

給与明細に「企業型DC掛金」といった項目がある場合も、企業型DCに加入している目印になります。心当たりのない項目があれば、経理や人事の担当部署に問い合わせて確認しておくと安心です。

8.2 転職・退職の際は、人事担当者に必ず確認する

転職や退職が決まったら、企業年金の有無とその種類、退職後の手続き方法について、人事担当者に確認することをおすすめします。特に企業型DCに加入していた場合は、6か月という期限があることを踏まえ、早めに動く意識を持っておくとよいでしょう。

すでに複数回の転職を経験している人は、過去の勤務先で企業型DCに加入していた記憶があるのに、その後の手続きをした覚えがないというケースもあり得ます。心当たりがある場合は、運営管理機関のWebサイトで資産の所在を確認してみることをおすすめします。

9. まとめ

  • 厚生年金は国が運営する義務加入の「2階部分」、企業年金は会社が任意で実施する「3階部分」です。
  • 企業年金には確定給付企業年金(DB)・企業型確定拠出年金(DC)などの種類があり、会社によっては制度自体がありません。
  • 企業型DCは、退職後6か月以内に移換手続きをしないと自動移換され、初回4348円、以降毎月98円の手数料が資産から差し引かれます。
  • 掛金の負担者も異なり、厚生年金は労使折半、企業年金は原則として会社が負担します。
  • 転職・退職の際は、企業年金の有無と種類を人事担当者に確認し、企業型DCがあれば期限内に移換手続きを済ませることが大切です。

厚生年金と企業年金は、同じ「会社員の年金」という枠でくくられがちですが、義務性も運営主体も異なる別の階層の制度です。特に企業型DCは、転職・退職時に手続きを忘れると資産が目減りする明確な落とし穴があるため、自分の加入状況を早めに確認しておくことをおすすめします。

自分の企業年金の状況が分からない場合は、勤務先の人事担当者や、企業型DCの運営管理機関のWebサイトで確認することをおすすめします。

10. よくある質問

10.1 Q. 企業年金は、厚生年金の一部なのですか。

A. 異なる制度です。厚生年金は国が運営する義務加入の「2階部分」、企業年金は会社が任意で実施する「3階部分」で、法律上の位置づけが違います。

10.2 Q. 転職したら、企業型DCの資産はどうなりますか。

A. 資格喪失後6か月以内に、転職先の企業型DCやiDeCoへ移換手続きをする必要があります。手続きをしないと国民年金基金連合会へ自動移換され、手数料が資産から差し引かれ続けます。

10.3 Q. すでに自動移換されてしまった場合、もう手遅れですか。

A. 手遅れではありません。後からでもiDeCoなどへの移換手続きは可能です。放置している期間が長いほど手数料の負担が積み重なるため、気づいた時点でできるだけ早く手続きすることをおすすめします。

10.4 Q. 企業年金の掛金は、自分で負担する必要がありますか。

A. 原則として会社が負担します。ただし企業型DCでは、会社の掛金に本人が上乗せできる「マッチング拠出」を設けている会社もあります。

参考資料

齊藤 慧