5. 夫婦のどちらかが亡くなったあと、年金はいくらになるのか
配偶者が厚生年金に加入していた場合、亡くなったあとにあなたが受け取れるのが遺族厚生年金です。名前はよく知られていますが要件があり、金額の決まり方と、自分の年金との関係については誤解が多い部分です。ここを勘違いしていると、一人になったあとの家計の見通しが実際より明るくなってしまいます。順に見ていきます。
5.1 受け取れるのは報酬比例部分の4分の3、優先順位は配偶者と子から
遺族厚生年金の額は、亡くなった方の老齢厚生年金のうち報酬比例部分の4分の3です。ここで押さえておきたいのは、対象になるのが厚生年金の上乗せ部分だけだということです。国民年金の老齢基礎年金は遺族厚生年金の計算には入りません。夫が受け取っていた年金額の4分の3がそのまま受け取れる、というわけではないのです。
受け取れる人にも順番があります。亡くなった方に生計を維持されていた遺族のうち、もっとも優先順位の高い人が受け取ります。順位は、子のある配偶者、子、子のない配偶者、父母、孫、祖父母です。子は18歳になった年度の3月31日まで、または20歳未満で障害等級1級か2級の状態にある方が対象になります。夫婦2人の世帯であれば、子のない配偶者として受け取る形が多くなります。
なお、子のない30歳未満の妻は5年間のみの受給になります。若くして配偶者を亡くした場合は期間が限られるという点も、あわせて知っておきたいところです。
5.2 65歳以上は自分の老齢厚生年金が全額、差額だけが遺族厚生年金になる
もう一つ、老後の家計に直接ひびくのが自分の年金との調整です。65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金の両方を受ける権利がある場合、自分の老齢厚生年金が全額支給され、遺族厚生年金は自分の老齢厚生年金に相当する額が支給停止になります。
言いかえると、受け取れるのは大きいほうの金額に近づく形で、2つをそのまま合算した額にはなりません。共働きで自分にも厚生年金がある方ほど、この調整の影響を受けます。「遺族年金がもらえるから世帯収入はあまり減らないだろう」と考えていると、実際の振込額を見て驚くことになります。
対策の考え方はシンプルです。夫婦それぞれの年金見込み額を並べて、少ない側が一人になったときにいくらになるかを先に計算しておくこと。住居費や光熱費のように人数が減っても大きく下がらない支出があるため、収入の減り方と支出の減り方は一致しません。元気なうちに二人で数字を確かめて、必要なら働く期間を延ばす、受け取りを遅らせる、生活費の水準を見直すといった手を打てます。詳しい要件や自分の場合の金額は、年金事務所やねんきんダイヤルで確認できます。
6. 元証券会社社員からのアドバイス 平均ではなく中央値と不足額、そして一人になったときで考える
老後のお金の話は、平均で語られることが多いのですが、平均2564万円と中央値1777万円のあいだには約790万円の開きがあります。自分の位置を知るなら中央値と比べてください。
そして毎月の不足額です。夫婦のみの無職世帯では約4万2000円でしたが、これも住まいが持ち家か賃貸かで大きく動きます。まずはご自身の家計で差額を出すところから始めてみてください。
そのうえでお伝えしたいのが、一人になったときの試算です。収入は減っても、住居費や光熱費は人数に比例して下がりません。ここを見落とすと、あとで家計が回らなくなります。
遺族年金があるから大丈夫、と考えていた方こそ、一度ご自身の見込み額を確かめてみてください。数字が分かれば、まだ打てる手はあります。
7. まとめにかえて
65歳以上・無職世帯の平均貯蓄は2494万円で、6年ぶりに前年を下回りました。有職世帯を含めた中央値は1777万円、夫婦のみの無職世帯では毎月約4万2000円の不足です。
あわせて考えておきたいのが、夫婦のどちらかが亡くなったあとの収入です。厚生年金に加入していた配偶者を亡くすと要件を満たせば遺族厚生年金を受け取れますが、自分の老齢厚生年金がある場合は2つをそのまま合算した額にはなりません。最後に、今日からできるアクションを3つ整理します。
まず、平均ではなく中央値で自分の位置を確かめてください。平均2564万円に対して中央値は1777万円で、約790万円の開きがあります。真ん中の姿と比べるほうが、現実的な計画を立てられます。
つぎに、毎月の不足額を自分の数字で出しましょう。年金の振込額と1カ月の支出を並べて差額を計算します。そのうえで、住宅の修繕や医療・介護、家電の買い替えは別枠で見積もっておくと、あとで慌てずに済みます。
そして、一人になったときの年金額を夫婦で確かめておいてください。人数が減っても住居費や光熱費は大きく下がりません。少ない側の金額でも暮らせるかを試算しておけば、働く期間を延ばす、受け取りを遅らせる、生活費の水準を見直すといった手を早めに打てます。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
宮野 茉莉子
