4. 年金と生活費の差額で、老後資金の備えを考える
年金を個人の金額として見ているうちは、多いか少ないかの感想で終わりがちです。世帯の合計にすると、家計との差額が具体的になります。
4.1 合計から生活費を引いた差額が準備すべき金額
世帯の年金合計から、毎月の生活費を引いた差額が不足分です。この不足分に老後の年数をかけると、用意しておきたい金額の目安が出ます。
たとえば自営業夫婦の11万9177円で生活費が20万円なら、月8万円ほどの差が出ます。共働き夫婦の28万1380円であれば、同じ生活費でも余裕が生まれます。同じ「老後2000万円」といった一般論も、世帯によって当てはまり方が違うということです。
4.2 2人分の前提で家計を組むと、後で苦しくなることがある
夫婦2人分の年金を前提に住居費や固定費を決めていると、どちらかが亡くなったときに家計が回らなくなることがあります。固定費は1人になっても大きくは減りません。
世帯の合計だけでなく、片方の年金額だけで暮らす想定も並べておくと、無理のない水準が見えてきます。
5. 1人分で暮らせるかを先に確かめる
筆者は野村證券の支店で、個人のお客様の資産運用のご相談に携わっていました。ご夫婦でお越しになる方も多く、老後の話は世帯単位でうかがうことがほとんどでした。
2人分の年金で暮らせる計画になっていても、1人分になった途端に成り立たなくなるケースがあります。特に、片方の年金が大きく片方が小さい世帯ほど、その落差は大きくなります。
合計額を出したら、続けて「多いほうが残った場合」「少ないほうが残った場合」の2通りも計算してみてください。準備すべき金額の大きさが変わってきます。
また、遺族年金の要件のっ確認と、実際の金額もあらかじめ試算をしておきましょう。
6. この計算には限界がある
今回の金額は目安として使えますが、そのまま自分の世帯に当てはめられるものではありません。
6.1 男女別の平均を足した合成値
この記事の世帯合計は、男女別の平均月額を単純に足したものです。「夫婦2人世帯の平均年金額」という統計が公表されているわけではありません。実在の世帯を集計した数字ではない点にご注意ください。
6.2 厚生年金の金額には基礎年金が含まれている
概況の厚生年金の平均月額には、老齢基礎年金の分が含まれています。厚生年金の16万9967円に基礎年金の7万608円を足すという計算をすると、二重に数えることになります。
6.3 額面であって手取りではない
いずれの金額も税金や社会保険料を引く前の額面です。実際に振り込まれる金額はこれより少なくなります。家計の計画は振込額をもとに立ててください。
7. 自分の世帯の数字を出す3つの手順
平均ではなく自分の金額に置き換えていきましょう。
7.1 2人分の見込額をそろえる
ねんきんネットや、50歳以上の方に届くねんきん定期便で、それぞれの見込額を確認します。夫婦であれば2人分をそろえて足すところから始めます。
7.2 1人になった場合も計算する
どちらか一方だけになったときの金額を、両方のパターンで出しておきます。遺族年金の有無や金額は個別に異なりますので、目安を知りたい場合は年金事務所にご相談ください。
7.3 生活費との差額を月単位で出す
世帯の年金合計と毎月の生活費を並べて、差額を出します。この差額が、貯蓄や運用で埋めるべき部分です。金額が見えると、いま何をどれだけ準備すればよいかも決めやすくなります。
8. まとめにかえて
夫婦2人の年金合計は、共働きで28万1380円、会社員の夫と国民年金の妻で22万7549円、自営業夫婦で11万9177円という計算になりました。組み合わせによって倍以上の差があります。
単身の場合は、厚生年金の男性16万9967円から国民年金の女性5万7582円まで、月11万円を超える幅がありました。65歳以上の単独世帯は33.8%と、いまや最も多い世帯の形です。
平均額そのものより、自分の世帯がどのパターンに近いのかを確かめることが先です。そのうえで、1人になった場合の金額まで出しておくと、準備の輪郭がはっきりしてきます。
参考資料
- 厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査の概況 世帯数と世帯人員の状況」
- 日本年金機構「ねんきんネット」
宮野 茉莉子