4. 統計の「貯蓄」と通帳の残高は範囲が違う
窓口でお金の相談を受けていたころ、統計の数字と実感がずれる理由の多くは、数え方の違いにありました。
4.1 貯蓄には預貯金以外も含まれる
家計調査でいう貯蓄現在高は、預貯金だけを指すものではありません。生命保険などの掛金、有価証券、その他の金融資産も含めた金額です。
2025年平均の内訳を見ると、二人以上の世帯全体の貯蓄2059万円のうち、通貨性預貯金が710万円、定期性預貯金が511万円、生命保険などが369万円、有価証券が440万円という構成になっています。
つまり、すぐに引き出せるお金は貯蓄全体の一部にすぎません。「2000万円ある」と聞いても、そのうち保険や投資信託に形を変えている部分は、必要なときにすぐ現金化できるとは限らないのです。
4.2 額面と使えるお金を分けて考える
相談を受ける際は、まず資産を三つに分けていただくようにしていました。日々の生活で動かすお金、数年以内に使う予定があるお金、当面動かさないお金です。
この仕分けをすると、統計の平均額と自分の状況を比べる意味があまりないことに気づきます。同じ2000万円でも、預貯金が1800万円の世帯と有価証券が1800万円の世帯とでは、取り崩し方も心構えもまったく違うからです。
5. 80歳代の貯蓄額は公的統計に出てこない
シニアの貯蓄を年代別に調べようとすると、あるところで手が止まります。
5.1 家計調査の区分は「70歳以上」まで
総務省の家計調査(貯蓄・負債編)が公表している年齢階級は、39歳以下、40歳代、50歳代、60歳代、70歳以上という区分です。70歳代と80歳代を分けた数字は、この公表資料には含まれていません。
つまり、記事や広告で「80歳代の平均貯蓄は◯◯万円」といった数字を見かけたときは、どの調査に基づくものなのかを確かめる必要があります。家計調査を出典としているなら、70歳以上の数字を指している可能性が高いと考えられます。
5.2 70歳以上は世帯構成比が最も大きい
見落とされがちですが、2025年の二人以上の世帯のうち、世帯主が70歳以上の世帯は32.8%を占めます。60歳代の19.8%と合わせると、半数以上が60歳以上の世帯です。
70歳以上という区分には、70歳になったばかりの方も90歳を超えた方も含まれます。ひとくくりの平均値である以上、幅の広さを前提に読む必要があります。
6. 平均と比べるより、自分の数字を把握する
統計は世の中の傾向をつかむには有効ですが、個々の家計の指針にはなりません。順番を決めて確認していきましょう。
6.1 年金の手取り額を先に押さえる
老後の家計は、貯蓄より先に毎月の年金収入が土台になります。年金からは介護保険料や国民健康保険料・後期高齢者医療保険料、所得税や住民税が天引きされることがあるため、額面と手取りは一致しません。
まずはねんきん定期便で見込額を確認し、受給が始まったあとは年金振込通知書で手取り額を押さえるところからです。
6.2 毎月の不足額を出してから取り崩し方を決める
年金の手取りと生活費の差が、貯蓄から補う金額です。この不足額が分かって初めて、手元の資産を何年で使うことになるのかが見えてきます。
貯蓄額そのものより、不足額との組み合わせで判断するほうが実務的です。
6.3 資産の置き場所を点検する
預貯金、保険、有価証券がそれぞれいくらあるかを書き出しておくと、いざというときに動かせるお金がはっきりします。相続が発生すると口座が凍結され、名義人以外は手をつけられなくなるため、家族が把握しているかどうかも重要です。
7. まとめにかえて
2025年平均の貯蓄現在高は、二人以上の世帯で世帯主60歳代が2843万円、70歳以上が2471万円でした。ただし全体の平均2059万円に対して中央値は1264万円で、真ん中の世帯の実態は平均よりかなり低い水準にあります。
負債を差し引いた純貯蓄額で見ると、60歳代が2609万円、70歳以上が2390万円です。40歳代までは負債が貯蓄を上回っており、老後資金づくりは50歳代以降に一気に進むことが数字からも読み取れます。
大切なのは平均との距離ではなく、自分の年金の手取り額と生活費の差、そして手元の資産がどこに置かれているかです。まずはねんきん定期便と通帳を並べてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
なお、年金からの天引き額や税金の取り扱いは個々の状況によって異なります。ご自身のケースについては、年金事務所やお住まいの市区町村の担当窓口でご確認ください。
参考資料
中本 智恵