3. 公的年金は「2階建て」の仕組み

実際には受け取れる年金額は個人差がとても大きいもの。次に年金の仕組みをおさらいしましょう。日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金の2つから構成されているため、下の体系図のような「2階建て」構造と呼ばれています。

日本の公的年金制度のしくみ4/7

日本の公的年金制度のしくみ

出所:日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」等を参考にLIMO編集部作成

3.1 1階部分にあたる「国民年金(基礎年金)」

国民年金制度の加入対象は、原則として国内居住者のうち「20歳以上60歳未満」のすべての人々です。年金保険料は全国一律で、年度ごとに見直しが実施されます(※1)。40年間保険料を漏れなく納めた人は、65歳以降に満額の老齢基礎年金(※2)を受給できるようになります。

3.2 2階部分を構成する「厚生年金」

厚生年金制度に加入するのは、会社員や公務員、さらに特定適用事業所(※3)で働くパートなど、一定の要件をクリアした人で、国民年金と併せて加入する制度となっています。

  • 年金保険料(※4):給与水準により決定する(上限あり)
  • 老後の受給額:加入した期間や支払った保険料によって個人ごとにばらつきが出る

※1 国民年金保険料:2026年度の月額は1万7920円です。
※2 国民年金(老齢基礎年金)の満額:2026年度の月額は7万608円です。
※3 特定事業所:1年のうち6カ月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業など
※4 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算される

「2階建て構造」で説明される日本の公的年金制度は、1階が「国民年金」、2階が「厚生年金」となっていますが、加入対象となる人や保険料の決まり方、将来受給できる年金額などに大きな差があります。

4. 2026年度の年金額|モデル世帯の例

年金の平均額も確認します。日本年金機構によると、2026年度の年金額の例は次のとおりとなります。

令和8年4月分(6月15日(月曜)支払分)からの年金額5/7

令和8年4月分(6月15日(月曜)支払分)からの年金額

出所:日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」

  • 国民年金(老齢基礎年金):7万608円(1人分※1
  • 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2

※1 昭和31年4月1日以前に生まれた方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円です。
※2 平均的な収入(賞与を含む月額換算で平均標準報酬45万5000円)を得て40年間就業した場合に受け取り始める年金額で、老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額)を合わせた給付水準です。

厚生年金のモデル世帯の場合、夫婦で月額「23万7279円」。これは「老齢厚生年金1人分+老齢基礎年金2人分」の合算です。

5. 厚生年金と国民年金、受給額の個人差を「1万円刻み」で見る

老後の生活を支える大切な収入源となる公的年金ですが、受給額は年金加入状況により決まるため個々で異なります。どれくらいの個人差があるのかを見てみましょう。

5.1 厚生年金の受給額はどれくらい個人差があるのか

厚生年金の平均額(全年齢)6/7

厚生年金の平均額(全年齢)

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

厚生年金の平均年金月額

  • 〈全体〉平均年金月額:15万289円
  • 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
  • 〈女性〉平均年金月額:11万1413円

※国民年金の金額を含む

厚生年金の受給額分布(1万円ごと・抜粋)

  • 9万円以上~10万円未満:101万1457人
  • 10万円以上~11万円未満:111万2828人(最多)
  • 11万円以上~12万円未満:107万1485人
  • 15万円以上~16万円未満:96万5035人
  • 17万円以上~18万円未満:103万1951人
  • 30万円以上~:1万9283人

厚生年金の平均年金月額は男女全体で15万289円です。男女別では、男性16万9967円、女性11万1413円と、6万円ほどの差があります。個人差については、受給額分布が示すとおり、「月額1万円未満から30万円以上」となっています。

5.2 国民年金の受給額に見られる個人差

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国民年金の平均額(全年齢)

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

国民年金の平均年金月額

  • 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
  • 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
  • 〈女性〉平均年金月額:5万7582円

国民年金の受給額分布(1万円ごと)

  • 1万円未満:5万1828人
  • 1万円以上~2万円未満:21万3583人
  • 2万円以上~3万円未満:68万4559人
  • 3万円以上~4万円未満:206万1539人
  • 4万円以上~5万円未満:388万83人
  • 5万円以上~6万円未満:641万228人
  • 6万円以上~7万円未満:1715万5059人(最多)
  • 7万円以上~:299万7738人

国民年金の平均年金月額は男女全体と女性が5万円台、男性については6万円台です。ボリュームゾーンは「6万円以上~7万円未満」となっています。個人差については、受給額分布が示すとおり、「月額1万円未満~7万円以上」となっています。

5.3 厚生年金は「平均15万289円」より「10万円台前半の人」のほうが多い

ここで、先ほどの厚生年金の受給額分布をもう一度見てみましょう。平均年金月額は15万289円ですが、実際に人数がいちばん多い階級(ボリュームゾーン)は「10万円以上~11万円未満」の111万2828人です。次に多いのも「11万円以上~12万円未満」の107万1485人で、いずれも平均を下回っています。

【平均年金月額】15万289円
【いちばん人数が多い階級】10万円以上~11万円未満(111万2828人)

つまり、「平均より少ない」という状態自体が、実はいちばん多くの人に当てはまる、ごく一般的な状態だということです。平均は、受給額の高い一部の人によって引き上げられやすい性質があります。「自分は平均より下だから足りていない」と判断する前に、そもそも平均とはどういう数字なのかを知っておく必要があります。

5.4 自分に必要な老後資金、65歳から25年間でいくら?

平均と比べるより大切なのは、ご自身の年金見込額と生活費から、必要な金額を出すことです。先ほどの家計調査のデータをもとに、65歳から90歳までの25年間、赤字を貯蓄で補い続けた場合の必要額を試算してみます。

【65歳以上・無職夫婦世帯の場合】
4万2434円 × 12カ月 × 25年 = 約1273万円

【65歳以上・無職単身世帯の場合】
2万9980円 × 12カ月 × 25年 = 約899万円

これはあくまで平均額を前提にした試算であり、実際に必要な金額はご自身の年金見込額や生活費によって変わります。大切なのは、この計算式に他人の平均ではなく、ご自身の数字を当てはめてみることです。

筒井 亮鳳
「平均より下だから足りない」ではなく、「自分の場合はいくら必要か」に置き換えるだけで、不安の正体は具体的な検討課題に変わります。まずはご自身の年金見込額を確認するところから始めていただければと思います。

監修者コメント

村岸 理美

今回のデータで注目していただきたいのは、年金受給世帯の41.3%が公的年金・恩給のみで生活しているという実態と、厚生年金でいちばん人数が多い階級が平均を下回る「10万円台前半」だという点です。平均という数字は、受給額の高い一部の方によって引き上げられやすく、必ずしも「多数派の実感」を表しているわけではありません。

65歳以上世帯の家計収支を見ても、夫婦世帯で月4万2434円、単身世帯で月2万9980円の赤字となっており、多くの世帯が何らかの形で貯蓄の取り崩しを行っている状況がうかがえます。この赤字額を漫然と受け止めるのではなく、記事中の試算のようにご自身の想定年数を掛け合わせて、必要な総額として捉え直すことが重要です。

ファイナンシャル・プランナーとしてお伝えしたいのは、平均や他人の数字と比較して一喜一憂するのではなく、ご自身の年金見込額と生活費の実額を基準にすることです。そこから逆算すれば、必要な備えの大きさも、取るべき選択肢も、具体的に見えてくるはずです。

6. 60代に多い「自分は平均より下なのでは」への不安。ファイナンシャルアドバイザー・筒井亮鳳が伝えたいこと

日頃のご相談では、公表されている世帯の貯蓄額や生活費の平均を見て、自分は足りていないと感じてしまう方が多くいらっしゃいます。ただ、比べる相手を変えるだけで、話はまったく違って見えてきます。

6.1 60代に多いお悩み相談は「自分は平均より下なのでは」

退職して収入の形が変わる時期は、他の世帯がどうしているのかが気になるものです。しかし平均には、条件の異なる世帯がすべて含まれています。自分と同じ前提の人の数字ではありません。次のような声を耳にします。

60代のお客様(ご相談者)
同じ年代の世帯がどれくらい貯蓄を持っているのかを見ると、自分は少ないほうだと感じて落ち込みます。とはいえ、どれだけあれば安心なのかも分からないので、不安だけが残っている状態です。

比べるべきは他人の平均ではなく、自分に必要な金額です。この点を数字にすると、話は前に進みます。

6.2 【ファイナンシャルアドバイザー・筒井亮鳳が回答】平均との比べ方を整理する3つの解決策

筒井 亮鳳
「自分は平均より下なのでは」と落ち込む前に、その平均が誰の数字なのかを確認し、年金の見込みと生活費を並べて自分に必要な金額を試算し、不足があれば働く期間の延長や受給開始の見直し、運用といった手段を並べて検討することが、他人の平均ではなく自分の数字と向き合うための出発点になります。また、年金だけに頼らないためには少しでも資産運用について考えてみるといいかもしれません。資産運用と一概に言っても債券や株など幅広くあります。年齢によって取れるリスクも異なってくるかと思いますので、まずは自分自身で資産運用について詳しく調べてみてはいかがでしょうか。

比較の対象を変える作業は、順番を踏めば難しくありません。ご相談のなかでは、次の三つの順序でお話しすることが多くあります。

6.3 ポイント1:平均が誰の数字かを確認する

一つ目は、「平均が誰の数字かを確認する」ことです。世帯の貯蓄額の平均は、極端に大きい世帯に引き上げられます。同じ統計でも中央値を見ると印象は変わりますし、持ち家か賃貸かでも必要額はまったく異なります。

6.4 ポイント2:自分に必要な金額を試算する

二つ目は、「自分に必要な金額を試算する」ことです。受け取れる年金の見込みと実際の生活費を並べ、毎月の過不足と、これから必要になる総額を出す。比べるべき基準は、この数字です。

6.5 ポイント3:不足があるなら手段を並べる

三つ目は、「不足があるなら手段を並べる」ことです。働く期間を延ばす、受給開始を遅らせる、運用で補う。方法は複数あり、組み合わせることもできます。落ち込む対象ではなく、選ぶ対象に変えていきます。

なお、シミュレーションは一定の前提に基づく試算であり、前提が変われば結果も変わります。年金の見込額や繰下げ受給の取り扱いは加入状況によって異なりますので、ねんきん定期便やねんきんネット、年金事務所でご確認ください。運用商品には元本割れの可能性があります。

7. まとめ|平均と比べるより、自分の数字で考える

65歳以上無職世帯の家計収支は、夫婦で毎月4万2434円、単身で2万9980円の赤字でした。また、年金受給世帯の41.3%が、収入のすべてを公的年金・恩給に頼って生活しているという実態も確認しました。

厚生年金の受給額分布を見ると、いちばん人数が多いのは平均(15万289円)を下回る「10万円台前半」でした。「平均より下」という状態は、実は多数派に当てはまるごく一般的な状態だということです。

平均という数字に一喜一憂するより、ご自身の年金見込額と生活費から必要な金額を試算すること。そこから逆算すれば、必要な備えも取るべき選択肢も、具体的に検討できるようになります。

参考資料

筒井 亮鳳