3. 昇進で増えた額面のうち、手取りに残るのは6割前後
ここからは、額面から税と社会保険料を引いた手取りで比べていきます。以下は一定の前提を置いたLIMO編集部の試算です。
3.1 試算の前提
扶養親族なしの単身、40歳以上65歳未満(介護保険第2号被保険者)、東京都の協会けんぽ加入、令和8年度の料率を使いました。賞与は年2回の均等支給とし、額面年収は所定内給与額の12か月分に年間賞与を足した額で、残業代は含めていません。
令和8年度の本人負担率は、健康保険9.85%と介護保険1.62%、子ども・子育て支援金0.23%の合計を折半して5.85%、厚生年金は18.3%を折半して9.15%です。これに雇用保険0.5%が加わります。
3.2 役職別の手取り年収
この前提で計算すると、次のようになります。
- 部長級:額面1007万6200円/手取り710万3719円(手取り率70.5%)
- 課長級:額面854万2300円/手取り621万8488円(72.8%)
- 係長級:額面630万2500円/手取り482万3887円(76.5%)
- 非役職:額面459万2400円/手取り357万8838円(77.9%)
昇進による増加分を見ると、非役職から係長級は額面が171万0100円増えて手取りは124万5049円増、残る割合は72.8%です。係長級から課長級は額面223万9800円増に対して手取り139万4601円増で62.3%、課長級から部長級は額面153万3900円増に対して手取り88万5231円増で57.7%となります。
昇進で増えた額面のうち手取りに残る割合(LIMO編集部試算)2/2
出所:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」および各制度の料率をもとにLIMO編集部作成
4. 【落とし穴】課長昇進は税制の節目をまたぐ
手取りに残る割合が係長級から課長級で大きく落ちるのには理由があります。年収がいくつかの節目を超えるためです。
4.1 給与所得控除は年収850万円で頭打ちになる
給与所得控除は年収が上がるほど増えていきますが、850万円を超えると195万円で頭打ちになります。課長級の額面年収854万2300円はこの水準をわずかに超えています。
ここから先は額面が増えても控除は増えないため、増えた分がそのまま課税所得になります。
4.2 基礎控除にも段差がある
令和8年分の基礎控除は、合計所得金額489万円以下で104万円、489万円超655万円以下で67万円、655万円超2350万円以下で62万円です。
給与収入に置き換えると、年収665万6000円を境に104万円から67万円へ37万円下がり、年収850万円で67万円から62万円になります。係長級の630万2500円は104万円を使える範囲ですが、課長級の854万2300円では62万円です。
給与所得控除の頭打ちと基礎控除の段差が同じあたりで重なるため、係長級から課長級への昇進で手取りに残る割合が72.8%から62.3%へ落ちる形になります。
4.3 社会保険料には上限があり、こちらは負担を抑える方向に働く
一方で、社会保険料には上限があります。厚生年金の標準報酬月額は第32等級の65万円が上限で、報酬月額63万5000円以上はすべてこの等級です。
部長級の所定内給与63万5800円はこの上限をわずかに超えているため、月給がここから増えても厚生年金保険料は変わりません。健康保険は139万円まで等級があるため、こちらは増え続けます。
5. 【今後の見通し】厚生年金の上限が段階的に引き上げられる
いま上限に守られている層にとっては、これから負担が変わる予定があります。
5.1 2027年9月から3段階で引き上げ
厚生年金の標準報酬月額の上限は、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へ段階的に引き上げられます。
上限に達している方の本人負担で見ると、65万円から68万円で月2745円、71万円で月5490円、75万円で月9150円の増加です。年額では最終的に10万9800円増える計算になります。
保険料が増える分、将来受け取る老齢厚生年金の報酬比例部分は増える方向に働きます。負担だけが増えるわけではない点も合わせて見ておきたいところです。
6. まとめにかえて
部長級の所定内給与は月63万5800円、年間賞与は244万6600円で、課長級・係長級・非役職者と段階的に下がります。ただし係長級は月15時間の残業があり、課長級の4時間との差が実感に影響します。
手取りで見ると、昇進で増えた額面のうち残る割合は非役職から係長級で72.8%、課長級から部長級では57.7%まで下がりました。給与所得控除の頭打ちと基礎控除の段差が重なる位置に、平均的な課長級の年収があるためです。
ここで挙げた試算は扶養なしの単身という前提を置いたものです。扶養親族の有無や住んでいる自治体、加入している健康保険組合によって結果は変わります。ご自身の数字を確かめたい場合は、給与明細の控除欄と源泉徴収票を並べてみるところから始めてみてください。
参考資料
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
- 国税庁「No.1410 給与所得控除」
- 国税庁「令和8年分以降の基礎控除の見直し等について」
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
- 厚生労働省「年金制度改正法(令和7年法律第74号)が成立しました」
宮野 茉莉子