5. 賃金が上がりきる時期は、老後資金の準備期間と重なる

役職別の数字は現役期の話ですが、老後の準備という視点で見ると別の意味が出てきます。

5.1 50歳代は賃金のピークと支出のピークが重なりがち

部長級の平均年齢は53.1歳、課長級は49.5歳です。賃金が最も高くなるのは50歳代ということになりますが、この時期は教育費や住宅ローンの負担が重なりやすい年代でもあります。

収入が増えた実感がないまま賃金のピークを過ぎてしまう、ということが起こりえます。役職に就いたときに手取りがいくら増えたのかを一度確かめておくと、その後の設計がしやすくなります。

5.2 標準報酬月額には上限がある

標準報酬月額には上限があり、現在は月65万円で頭打ちになります。部長級の平均63万5800円は、この最上位の等級に届く水準です。賃金がさらに上がっても、年金額への反映には限りがあるという点は知っておいてよいでしょう。

この上限は今後引き上げられます。厚生労働省によると、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へと段階的に改定される予定です。上限を超えていた層は保険料の負担が増える一方、将来受け取る年金額もその分だけ増えることになります。

6. 【元証券会社社員の視点】収入が変わる時期こそ、置き場所を決めておく

筆者は証券会社の支店で、個人のお客様の資産運用のご相談に携わっていました。

6.1 増えた分がそのまま生活水準に吸収されやすい

収入が増えたのに手元にお金が残らないという方も少なくありません。役職手当が加わっても、住居や教育、交際費が同時に上がると差し引きゼロに近くなります。

増えた金額のうちいくらを先に取り分けるかを、収入が変わるタイミングで決めておく。それだけで数年後の残り方はかなり変わります。金額の大小より、仕組みとして先に分けておくことのほうが効きます。

6.2 昇進のタイミングは制度を見直す機会でもある

収入が変われば、使える制度の枠も変わります。NISAのつみたて投資枠は運用で得た利益が非課税になる制度で、iDeCoは掛金が全額所得控除の対象になります。

ただし、iDeCoは原則60歳まで引き出せず、受取時に課税される場合もあります。NISAに掛金の所得控除はありません。どちらも元本割れの可能性がありますので、生活費とは切り離した資金で、無理のない範囲から始めることが前提です。

7. 数字を読むときに気をつけたい注意点

今回の数字を自分に当てはめるときの注意点を整理します。

7.1 所定内給与に残業代は含まれない

今回の金額はいずれも所定内給与で、時間外手当は含まれていません。管理監督者にあたる場合は時間外手当の対象外となることもありますので、非役職者から役職に就いたときの手取りの増え方は、この差額どおりにはならないことがあります。

賞与も含まれていません。年収で比べたいときは、勤務先の賞与月数を確認したうえで自分で計算する必要があります。

7.2 平均年齢は「その役職にいる人の平均」

部長級の平均年齢53.1歳は、いま部長級にいる方の年齢の平均であって、部長級に昇進した年齢ではありません。昇進してから何年か経った方も含まれていますので、実際に到達する年齢はこれより若いことになります。

同じく勤続年数22.6年も、現時点での勤続年数です。「22.6年勤めれば部長級になれる」という意味ではない点にご注意ください。

7.3 指数の縮小は役職の価値が下がったことを意味しない

部長級の指数が207.1から204.8へ下がったのは、非役職者の賃金が伸びたためです。部長級の賃金自体は前年より1.4%増えています。数字の動きの原因がどちらにあるのかは、分けて読む必要があります。

8. 【対応策】いまの位置を確かめる3つ

平均と自分を並べてみるところから始めましょう。

8.1 自分の所定内給与と勤続年数を並べる

給与明細から、残業代を除いた金額を確認します。そこに勤続年数と年齢を添えて、今回の平均と比べてみてください。役職が同じでも勤続年数が短ければ、平均を下回るのは自然なことです。

8.2 将来の年金見込額を確認する

ねんきんネットや50歳以上の方に届くねんきん定期便で、年金の見込額を確認します。現役期の報酬が将来いくらになって返ってくるのかが見えると、いま準備すべき金額も具体的になります。

8.3 収入が変わるときに、先に取り分ける金額を決める

昇進や異動で収入が変わるタイミングは、家計の設計を見直しやすい時期です。増えた分のうち一定額を先に取り分けておくと、生活水準が上がりすぎるのを防げます。

9. まとめにかえて

部長級の平均は月63万5800円で、平均年齢53.1歳・勤続22.6年。課長級は52万9200円で49.5歳・20.9年、係長級は39万9200円で45.4歳・17.5年でした。役職は金額だけでなく、その会社で過ごした時間の長さも映しています。

非役職者を100とした指数は部長級204.8で、前年の207.1から縮まりました。非役職者の賃金が伸びたことが理由です。一方、女性部長級の賃金は前年比5.2%増と、男性の0.9%増を大きく上回っています。

世間で語られるイメージや平均額そのものより、自分がいまどの段階にいるのかを確かめることが先です。給与明細と年金の見込額を並べてみるところから始めてみてください。

参考資料

宮野 茉莉子