5. 【元銀行員の視点】貯蓄の内訳は通貨性預貯金710万円が最も多い
家計調査でいう「貯蓄」は、預貯金だけを指すものではありません。
総務省統計局の用語の説明では、銀行やゆうちょ銀行などへの預貯金、生命保険や積立型損害保険の掛金、株式・債券・投資信託・金銭信託などの有価証券、そして社内預金や勤め先の共済組合などの金融機関外の貯蓄を合計したものが貯蓄と定義されています。
種類別に見ると、普通預金などの通貨性預貯金が710万円(貯蓄現在高に占める割合34.5%)で最も多くなっています。次に定期性預貯金が511万円(同24.8%)、有価証券が440万円(同21.4%)、生命保険などが369万円(同17.9%)、金融機関外が29万円(同1.4%)と続きます。
通貨性預貯金は前年に比べ2.6%の増加で、17年連続の増加となりました。有価証券は前年に比べ63万円、16.7%の増加で、3年連続の増加です。
銀行員だった頃を振り返ると、この構成には納得できるところがあります。当面使う予定のないお金が、そのまま普通預金に置かれているケースに出会うことは少なくありませんでした。
通貨性預貯金はいつでも引き出せる代わりに、金利はごく低い水準です。定期預金や運用に回せば金利や利回りは期待できますが、必要なときにすぐ動かしにくくなり、値動きのある商品では元本を下回る時期もあります。
どちらが正しいという話ではなく、当面使う予定のあるお金と、使う予定のないお金を分けて置き場所を決める整理が先になります。
6. 貯蓄額を家計調査と同じ基準にそろえる3つの手順
平均額と自分の数字を比べるには、まず数え方をそろえる必要があります。手順は次の3つです。
6.1 預貯金は通貨性と定期性に分けて書き出す
普通預金や当座預金などの通貨性預貯金と、定期預金や定期積金などの定期性預貯金を分けて書き出します。銀行員だった頃、給与の受取口座だけを見て「貯金はこれくらい」と話される方に出会うことがありました。
6.2 生命保険は払込総額で数える
家計調査では、生命保険や積立型損害保険は掛金の払込総額で計上されています。手元の保険証券や年に一度届くお知らせで、これまでいくら払い込んだのかを確認します。
解約返戻金の額とは一致しないため、平均額と比べる目的であれば払込総額の側でそろえるほうが実態に近くなります。
6.3 有価証券は残高照会で評価額を確かめる
株式や債券、投資信託は、証券会社や銀行の残高照会で現在の評価額を確かめます。NISA口座と課税口座を分けている場合は、両方を合わせて数えます。
ここまでそろえると、平均2059万円という数字と自分の貯蓄額を同じ土俵で比べられるようになります。
単身世帯を含めた年代別の比較は『【全世代(20~70歳代)比較】貯蓄額の平均・中央値はいくら?単身・二人以上世帯で比較すると見えた「お金がある人・ない人の差」 差が生まれる3つの要因を確認』で整理しています。
7. 純貯蓄額で見ると50歳未満は負債超過
純貯蓄額の平均は1384万円ですが、年齢階級別に見ると景色がまったく変わります。
世帯主が40歳未満の世帯はマイナス888万円、40歳代はマイナス102万円で、いずれも負債が貯蓄を上回る負債超過です。負債保有世帯の割合は40歳代が67.0%で最も高くなっています。
50歳代は1013万円、60歳代は2609万円、70歳以上は2390万円となり、50歳以上では貯蓄超過に転じます。年齢が上がるほど住宅ローンの残高が減っていくためです。
住宅ローンのご相談を受けていた頃、貯蓄額の多さだけで返済に余裕があると判断される方に出会うことがありました。負債を差し引いた純貯蓄額まで見ておくと、家計の見え方は変わってきます。
繰上返済で利息の負担を軽くする選択肢もありますが、手元の資金が減って急な出費に対応しにくくなるという面もあります。判断に迷うときは、借入先の金融機関やファイナンシャル・プランナーに相談することをおすすめします。
もう一つ、取り崩しの局面にも触れておきます。世帯主が65歳以上の無職世帯の貯蓄現在高は2494万円で、前年に比べ66万円、2.6%の減少となり、6年ぶりに減りました。
内訳では定期性預貯金が9.4%の減少、通貨性預貯金が4.4%の減少です。貯蓄を積み上げる時期から、貯蓄を使う時期へ切り替わっていく姿がうかがえます。
8. 貯蓄は平均額との差ではなく、内訳と純貯蓄額で確かめる
2025年平均の貯蓄現在高は2059万円で7年連続の増加となりましたが、貯蓄保有世帯の中央値は1264万円で、平均値を下回る世帯が66.1%を占めています。平均額との差だけで不安になる必要はありません。
大切なのは、家計調査と同じ基準で自分の貯蓄額を数え直し、負債を差し引いた純貯蓄額まで把握しておくことです。数字が分かれば、置き場所を変えるのか、返済を優先するのか、判断の材料がそろいます。
預金や運用商品の見直しは金融機関の窓口やファイナンシャル・プランナーに、税金の当てはめは税務署に確認するのが確実です。まずはご自身の現状を数字で確かめるところから始めてみてください。
参考資料
中本 智恵
