6. 再雇用で収入が下がる前に。ファイナンシャルアドバイザー・徳田椋が50代・60代に伝えている準備の順番

日頃のご相談では、再雇用に切り替わって収入が減ってから相談に来られる方が多くいらっしゃいます。ただ、選べる手段が多いのは、収入が下がる前の段階です。ここからは、定年後の再雇用を控えた50代の方の事例をもとに、ファイナンシャルアドバイザーの徳田椋さんに伺った考え方をご紹介します。

6.1 収入が変わる前に。50代・60代に多い「再雇用後の家計が読めない」という悩み

定年後も働き続けられる環境は広がりましたが、再雇用にともなって収入が下がることは少なくありません。時期も金額もあらかじめ見当がついていても、日々の仕事のなかで具体的な準備に手をつけるのは難しいものです。相談の場では、次のような声を耳にします。

50代のお客様
65歳までの再雇用は決まっているのですが、その後は年金と少しの収入で暮らしていくことになります。まとまった資金はあるものの、金融のことはよく分からず、どう組み立てればよいのか見当がつきません。

減ってから調整するよりも、減る前に家計の形を決めておく。それだけで、取りうる選択肢の幅は広がります。

6.2 【ファイナンシャルアドバイザー・徳田椋が回答】金額を決める前に、時期を並べる

徳田 椋
再雇用で収入が下がってから考えるのではなく、下がる時期が分かっているうちに再雇用後の収支を時期ごとに試算し、現役の収入がある間に無理のない範囲で積み増し、年金の受け取り方まで含めて選択肢を並べておくことで、下がる前だからこそ選べる手を手元に残せます。

6.3 ポイント1:収入が下がる前に、再雇用後の収支を先に試算する

準備は、金額を決める前に時期を並べるところから始めます。一つ目は、再雇用後の収支を先に試算することです。再雇用時の収入、年金の受給が始まった後の収入、そしてそれぞれの時期の支出を時系列に並べてみる。段階ごとの過不足が見えてくれば、備えるべき金額と備えるべき時期がおのずと決まってきます。

なお、試算の前提となる厚生年金の見込額や在職中の年金の取り扱いは、加入歴や収入、勤務先の制度によって異なるため、ねんきんネットや年金事務所、勤務先の担当部署で個別にご確認ください。

6.4 ポイント2:現役の収入があるうちに、資産を積み増しておく

二つ目は、収入がある間に積み増すことです。現役の収入がある期間は、毎月の家計から資産形成にまわせる余力が比較的大きい時期にあたります。まとまった資金は元本の安定を優先する置き場所に、毎月の余裕分は積立に、という形で役割を分けると無理なく続きます。

ただし、値動きのある商品には元本割れの可能性があり、購入時や保有中に手数料がかかるものもあります。増えることを前提にするのではなく、下がる局面もあることを織り込んだうえで配分を考えることが大切です。

6.5 ポイント3:受給が始まる前に、年金の受け取り方を検討しておく

三つ目は、年金の受け取り方を検討しておくことです。就労を続ける期間は年金の受給開始を遅らせるという選択肢もあります。繰下げによる増額と、その間の生活費をどうまかなうかをセットで考えます。

なお、繰下げ受給や在職中の年金の取り扱いは制度で定められており、改正されることもあります。ご自身にどの取り扱いが当てはまるかは、加入歴や収入、勤務先の制度によって異なるため、年金事務所や勤務先に必ず個別にご確認ください。

収入が下がること自体は、働き方や制度の仕組みによるもので、ご本人の準備不足を意味するものではありません。下がる時期があらかじめ分かっているうちに、収支の見通し、資産の役割、年金の受け取り方を並べて考えておく。それだけで、選べる手段はぐんと増えていきます。

※なお、本記事は一般的な考え方の紹介であり、特定の金融商品を推奨するものではありません。投資信託や債券などには値動きがあり、元本割れの可能性や手数料が生じる場合があります。また、年金の受給見込額や在職老齢年金・高年齢雇用継続給付・再雇用制度の要件は、加入歴や収入、勤務先の制度によって異なりますので、ねんきんネットや年金事務所、勤務先の担当部署で必ずご確認ください。

7. まとめにかえて

厚生年金(国民年金部分を含む)の全国平均は15万289円。男性16万9967円と女性11万1413円で5万8554円の差があり、受給額は1万円未満から30万円以上まで幅広く分布していました。

都道府県別に見ると、1位の神奈川県17万457円と47位の青森県12万8129円で月4万2328円の開きがあり、年間では50万円を超えます。上位には首都圏や東海・関西の都市圏が並び、下位には東北や九州・沖縄の県が入りました。

ただし、これは住む場所で年金額が決まるという話ではありません。報酬比例部分の計算式が示すとおり、厚生年金の額は現役時代の報酬と加入期間の掛け合わせで決まります。地域ごとの産業構造や賃金水準、共働きの比率といった働き方の違いが、平均値の差として表れているにすぎません。

その証拠に、納付月数だけで決まる国民年金は、都道府県別に見ても5万円台から6万円台に収まっていました。地域差が生まれているのは、ほぼ2階部分だといえます。

いま働いている世代にとって重要なのは、県の平均を気にすることではなく、自分の報酬と加入期間をどう積み上げていくかです。まずはねんきん定期便やねんきんネットで加入記録と見込み額を確認し、社会保険の適用や追納の可否といった選択肢を早めに把握しておくことが、将来の年金額を左右します。

8. 監修者からのコメント

熊谷 良子

厚生年金の平均年金月額が都道府県によって最大4万円以上開くという数字は、意外に感じられるかもしれません。

でもこの差は住んでいる場所そのものが原因ではなく、現役時代にどのような働き方をしてきたかの結果であるとも言えるでしょう。

厚生年金の額は、報酬比例部分の計算式が示すとおり、報酬の水準と加入期間の長さで決まります。都市部で平均額が高いのは、賃金水準や共働き世帯の比率、加入期間の長さといった要素が積み重なった結果にすぎません。

一方、国民年金は納付月数のみで決まるため、地域差はごくわずかです。この対比からも、地域差の正体が2階部分にあることが分かります。

今回のデータはあくまで都道府県全体の平均値です。ご自身の将来の受給額を知るには、都道府県の平均ではなく、ねんきん定期便やねんきんネットで自分自身の加入記録と見込み額を確認することが何より重要です。

働き方を選ぶ場面では、目先の収入だけでなく、将来受け取る年金額にどう影響するかも合わせて考えていきたいところですね。

参考資料

徳田 椋