5. ROE5.5%から13.3%へ。5期の資本効率の変わり方

過去5期を通期でたどると、変化は緩やかではない。売上高は2,373億円から3,356億円へ、営業利益は87億円から308億円へ増えた。営業利益率は3.7%から9.2%へ、2倍以上になっている。

ROEの動きはさらに大きい。2022年3月期の5.5%が2023年3月期には4.0%まで下がり、そこから7.2%、8.7%、13.3%と切り上がってきた。5期で2倍を超える改善だ。

注目したいのは、この間に自己資本比率が同時に上がっていることである。36.7%、36.5%、39.6%、42.2%、45.8%という並びになる。

財務レバレッジを強めてROEを押し上げたのではない。むしろ自己資本を厚くしながらROEが上がっている。分母が増えているのに比率が上がったのだから、分子の利益がそれ以上の速さで増えたということになる。

キャッシュフローの側も動いている。2026年3月期の営業活動によるキャッシュフローは367億円、投資活動によるキャッシュフローは▲147億円、財務活動によるキャッシュフローは▲204億円だった。営業で稼いだ資金の枠内で投資と返済・還元をこなす形である。

1株当たり配当も、株式分割の影響を調整したベースで25円から82.5円へ増えてきた。5期連続の増配となる。

自己資本比率の水準については、別の論点もある。45.8%は業種のなかでは低い方だが、絶対水準として薄いわけではない。逆にこの比率が今後さらに上がっていったとき、負債を使う余地を残したまま資本効率を維持できるかという問題が出てくる。無借金に近づくことが最適とは限らない、という当たり前の話だ。

2/2

出所:セイコーグループ株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:セイコーグループ株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

6. 稼ぎ頭はどこか。3事業の利益率の差

2026年3月期のセグメント別を並べると、構造がはっきりする。エモーショナルバリューソリューション事業は売上高2,180億円で全体の64.9%を占め、営業利益285億円、営業利益率13.1%だった。売上高は前期比+11.1%、営業利益は+28.7%である。

デバイスソリューション事業は売上高598億円(構成比17.8%)、営業利益38億円で営業利益率6.4%。売上の伸びは+7.1%だが、営業利益は+37.4%と伸び率が高い。回復局面にある事業だ。

システムソリューション事業は売上高550億円(同16.4%)、営業利益55億円で営業利益率10.0%。売上高+9.5%に対し営業利益は+6.0%と、利益の伸びが売上に追いついていない。

3事業を並べると、利益の6割以上をエモーショナルバリューソリューション事業が作っている。ウオッチと和光という、ブランドと店舗に寄った事業が牽引役である。

単一事業への依存という言い方もできる。ただこの構成は、同社の資本効率の改善そのものと重なっている。5期で営業利益率が3.7%から9.2%へ上がった主な牽引役が、この営業利益率13.1%の事業だったと読み取れる。

7. 筆者コメント

業種のなかでの立ち位置に照らすと、この会社の姿は少し変わって見えてくる。

精密機器という区分には、装置や部品の会社が多く並ぶ。財務が厚く、設備の重い会社が中央値を作っている。同社の自己資本比率がその中央値を下回るのは、事業の性格が区分の平均像と違うからだろう。

ブランドと店舗を軸にした事業は、装置産業とは資金の使い方が違う。在庫を抱え、店を構え、広告を打つ。その回転で稼ぐ商売だ。区分の平均と比べるより、この会社が自分の中でどれだけ回転を良くしてきたかを見るほうが役に立つ。

私が面白いと思うのは、資本効率の改善が値上げや構造改革の一発ではなく、5期かけて段階的に進んできたことだ。派手さはないが、こういう積み上がり方のほうが後から崩れにくい。

区分の中央値を物差しにする前に、その会社が何で稼いでいるかから見ていく。そういう順番で決算を追うことをおすすめしたい。

 

参考資料

8.1 免責事項

  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
  • 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
  • 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
  • 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。

石津 大希