6. 政策保有株式は純資産比16%まで下がった
1Qで会社が報告した内容を確認していきたい。
資本効率の向上とガバナンス強化の観点から、コーポレートガバナンス・コードに基づいて政策保有株の売却を進めているという。
当1Qには退職給付信託株式(みなし保有株式)を全て売却し、政策保有株式の純資産に対する保有率は16%となった。会社は目標として掲げていた純資産の20%以下への縮減を前倒しで達成したとしている。
有価証券報告書に載る主要銘柄の簿価合計を並べると、動きが見える。2022年3月期末の77億円から2024年3月期末には87億円まで増えたのち、2025年3月期末は53億円、2026年3月期末は43億円へ縮んだ。
2026年3月期末の銘柄数は12。上位は三菱瓦斯化学の12億円、北越コーポレーションの10億円、光村印刷の9億円、特種東海製紙の5億円と続く。
この顔ぶれが興味深い。北越コーポレーションと特種東海製紙は同じパルプ・紙業種であり、光村印刷や共同印刷、福島印刷は印刷会社だ。南都銀行と紀陽銀行も並んでいる。
同業と取引先と銀行。旧来型の持ち合いの構図がそのまま残っており、それを解いている過程にある会社だということになる。
7. 信託資産の返還が意味すること
1Qではもう一歩踏み込んだ話も出ている。
会社はさらなる資本効率向上のため、信託資産の一部返還に向けて外部専門家等と協議を進めているという。返還時期は当期中の実現を目指し、金額等を含め決定し次第すみやかに開示するとしている。
返還が実現した際の資金については、成長投資や株主還元等に充てるべく前向きに検討するという説明だ。
ここで押さえておきたいのが貸借対照表の形である。2026年3月期末の退職給付に係る資産は484億円。総資産2,227億円の2割強を占めている。
同期末の純資産1,031億円と並べれば、この資産の大きさが分かるだろう。年金の積み立てが厚いこと自体は悪い話ではないが、事業に使われていない資産でもある。
実質的に眠っている資産を動かせるかどうか。会社が「資本効率」という言葉を繰り返し使っているのは、まさにこの点だと読み取れる。
8. 営業利益と純利益が別の方向を向いた5期
時間軸を長めに取ると、この会社の損益の癖が見えてくる。
営業利益は2022年3月期が▲2億円、2023年3月期が9億円、2024年3月期が54億円、2025年3月期が45億円、2026年3月期が2億円だった。
同じ期の当期純利益は10億円、▲5億円、41億円、43億円、19億円。2022年3月期と2023年3月期では、営業利益と純利益の符号が逆になっている。
ROEは1.7%、▲0.8%、5.1%、4.9%、2.0%と行き来した。その間に自己資本比率は32.2%から46.3%へ上がっている。
資本は厚くなったが、資本が生む利益は増えていない。これがこの5期の骨格だ。
2027年3月期の会社予想は営業利益60億円、当期純利益65億円。いずれも5期の中で最も高い水準を狙う計画になっている。
9. 三菱製紙の成長領域は紙ではないという1次情報
セグメント別の1Qを見ると、この会社の重心がどこにあるのかが分かる。
機能商品事業は売上185億円でセグメント利益8億円。前年同期のセグメント利益は0.24億円だったので、水準がまるで変わった。
紙素材事業は売上203億円でセグメント損失4億円。前年同期は12億円の損失だったので損益は改善したが、まだ赤字が残る。
エンジニアリング事業は売上8億円、セグメント利益0.27億円で、いずれも前年同期を下回った。
会社の説明では、機能商品事業のうち蓄電デバイス用セパレータはコンデンサ向けで海外需要を取り込み、販売金額が前年同期を上回った。水処理膜基材も中国市場の競争激化の中で拡販し、販売金額が前年同期を上回ったという。
そして直近では、蓄電デバイス用セパレータについてAIサーバ用等の情報処理施設用途の拡販に注力しているとしている。紙の会社の成長領域が、データセンター向けの部材だという構図である。
一方の紙素材事業では、印刷用紙が国内需要の減少と原燃料調達の影響を受け、販売数量・販売金額とも前年同期を下回った。包装用紙と市販パルプは増販に寄与したという。
売上の規模は紙素材事業のほうが大きく、利益を作っているのは機能商品事業。「製紙会社」という括りでは見えない二層構造がここにある。
10. 筆者コメント
政策保有株式の縮減と、退職給付に係る資産の大きさを同時に見ると、この会社の課題が一つに繋がって見えてくる。
どちらも事業に使っていない資産だ。前者は取引関係のために抱えた株式、後者は年金のために積んだ資産。いずれも工場が稼ぐ力とは直接つながらない。
2026年3月期末の総資産2,227億円のうち、投資その他の資産は742億円ある。3分の1に近い。工場と設備で稼ぐ会社としては、ずいぶん重い構成だ。
ここを軽くすれば、同じ利益額でも資本効率の見え方は変わる。会社が縮減目標を前倒しで達成し、次に信託資産の返還へ進んでいるのは、その順番に沿った動きだろう。
ただし忘れてはいけないのは、売却益がいずれ尽きるという点だ。手持ちの主要銘柄は12、簿価は43億円まで減っている。最終利益を保有株式で支える余地は、そう長く残らない。
だからこそ本業の営業利益が通期予想の水準へ向かうのかどうかを、四半期ごとに追う姿勢を持ってほしい。
参考資料
11.1 免責事項
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石津 大希
