2026年度の年金額は、4年連続のプラス改定となりました。改定後の金額は6月支給分から反映されており、この夏から秋にかけては、誕生月に応じて「現況届」が届く人もいる時期です。
手元に届いた通知書や通帳の金額を見ると、「この額は多いほうなのか、少ないほうなのか」が気になるところでしょう。よく目安として挙がるのが「月15万円」というラインです。
この記事では、厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとに、厚生年金を月15万円以上受け取っている人がどれくらいいるのかを、1万円刻みの受給額分布から確認していきます。
平均額だけを見て判断するのではなく、受給額の分布とあわせて見ていただきたいところです。分布は「同じ制度のなかで、実際にどれくらいの幅があるのか」を教えてくれます。
まずは全体像をつかんでから、ご自身の見込み額と照らし合わせていきましょう。
なお、公的年金の仕組みと「月15万円以上」の割合に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
- 公的年金は国民年金と厚生年金の「2階建て」です。1階は保険料が全員定額で加入期間だけで決まり、2階は収入に応じて保険料も受給額も変わるため、老後の年金額には個人差が生まれます。
- 2026年度の年金額は国民年金が+1.9%、厚生年金が+2.0%で、4年連続のプラス改定です。国民年金は満額で月7万608円、厚生年金はモデル世帯で夫婦2人合計23万7279円になります。
- 厚生年金の平均月額は15万289円ですが、月15万円以上を受け取っている人は全体の49.8%にとどまります。厚生年金を受給していない人も含めれば、この割合はさらに下がります。
1. 公的年金の「2階建て」|国民年金と厚生年金は何が違うのか
日本の公的年金は、土台となる「国民年金(基礎年金)」と、その上に乗る「厚生年金」の組み合わせでできています。この形から「2階建て構造」と呼ばれます。
年金額の個人差がどこから生まれるのかを理解するには、この2つの制度の違いを押さえておく必要があります。公的年金の仕組みと月15万円以上の割合をまとめた記事でも同じ枠組みで解説されていますが、まずはそれぞれの中身を確認していきましょう。
1.1 日本の公的年金制度は2階建て
【1階部分】国民年金(基礎年金)
- 加入対象:原則として日本に住む20歳から60歳未満のすべての人
- 保険料:全員定額、ただし年度ごとに改定される(※1)
- 受給額:保険料を全期間(480カ月)納付した場合、65歳以降で満額の老齢基礎年金(※2)を受給できる。未納期間分に応じて満額から差し引かれる
※1 国民年金保険料:2026年度月額は1万7920円
※2 国民年金(老齢基礎年金)の満額:2026年度月額は7万608円
1階部分の特徴は、保険料も受給額の上限も全員共通という点です。収入がどれだけ多くても、納められる保険料は同じで、受け取れる額も満額を超えることはありません。差がつくのは「何カ月納めたか」だけです。
【2階部分】厚生年金
- 加入対象:会社員や公務員、またパートなどで特定適用事業所(※3)に働き一定要件を満たす人が、国民年金に上乗せで加入
- 保険料:収入に応じて(上限あり)決定される(※4)
- 受給額:加入期間や納付済保険料により、個人差が出る
※3 特定適用事業所:1年のうち6カ月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業など
※4 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算される
2階部分は、1階とは考え方が正反対です。保険料は収入に応じて決まり、受給額も加入期間と納めた保険料の額で変わります。つまり、老後の年金額に個人差が生まれる主な理由は、この2階部分の積み上がり方の違いにあります。
また、公的年金額は物価や現役世代の賃金の変動に応じて毎年度見直される仕組みになっています。一度決まった金額がそのまま固定されるわけではない、という点も押さえておきたいポイントです。
1階は加入期間だけ、2階は加入期間と収入の両方です。ここを押さえておくと、ご自身の年金額を確認したときに「なぜこの金額なのか」が説明できるようになります。
ちなみに、自営業やフリーランスの方は1階部分だけになるため、2階に相当する上乗せを自分で用意するかどうかが検討課題になります。
付加年金や国民年金基金、iDeCoなど、使える制度は立場によって異なりますので、まずは自分が対象になるものを確認するところから始めるとよいでしょう。
2. 2026年度の年金額は国民年金+1.9%・厚生年金+2.0%|4年連続のプラス改定
公的年金の金額は、賃金や物価の動向を踏まえて年度ごとに改定されます。2026年度分は、前年度より国民年金(基礎年金)が1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%の増額となり、4年度連続のプラス改定となりました。
- 国民年金(老齢基礎年金(満額)):7万608円(1人分※1)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2)
※1 昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円(対前年度比+1300円)です。
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。
国民年金のみの場合、満額(※3)でも月額で約7万円です。繰下げ受給(※4)の上限年齢である75歳まで受給を待機したとしても、月額13万円には届きません。
※3 国民年金(老齢基礎年金)の満額:国民年金保険料を480カ月納付した場合に、65歳から受け取れる年金額
※4 繰下げ受給:老齢年金の受給開始年齢を66歳~75歳までの間に後ろ倒しする制度。「繰下げ月数×0.7%」の増額率が適用され、75歳で受給開始した場合の増額率は84%。
なお、ここに挙がっているのは額面の金額です。実際に手元に入るのは、社会保険料や税金が差し引かれた後の金額になります。年金額と生活費のバランスについては、65歳以上の家計収支と貯蓄額をデータで整理した記事もあわせて確認しておくと、必要な金額の感覚がつかみやすくなります。
2.1 【独自試算】国民年金の保険料、何年受け取れば「払った分」に届く?
1階部分の保険料と受給額は、どちらも全員共通の金額です。ということは、「納めた保険料の総額を、何年で受け取り切るのか」も計算できます。この記事に出てきた2026年度の金額を使って試算してみましょう。
- 納める保険料の総額:1万7920円 × 480カ月 = 860万1600円
- 受け取る年金額:7万608円 × 12カ月 = 年84万7296円
- 回収にかかる年数:860万1600円 ÷ 84万7296円 = 約10年2カ月
65歳から受け取り始めた場合、75歳を少し過ぎたあたりで、納めた保険料の総額と受け取った年金額が並ぶ計算になります。公的年金は終身給付ですから、それ以降は生きている限り受け取り続けられる分が積み上がっていくことになります。
国民年金は「払い損」という言い方をされることがありますが、終身で受け取れる給付である点、障害年金や遺族年金の保障がついている点、保険料の半分が国庫負担でまかなわれている点を含めて考える必要があります。
※2026年度の保険料額・年金額が40年間変わらないと仮定した単純計算です。実際の保険料と年金額はいずれも年度ごとに改定されるため、この金額どおりに推移するわけではありません。付加保険料、免除・猶予期間、繰上げ・繰下げによる増減、税・社会保険料の控除は考慮していません。
改定率が物価の上昇に追いついていなければ、金額が増えても買えるものは減ります。ここは数字の大きさだけでは判断できない部分です。
もう一点、額面と手取りは別物だという点も押さえておいてください。年金からは介護保険料や国民健康保険料などが差し引かれます。
振込通知書には天引きの内訳が記載されていますので、届いたときは金額だけでなく、内訳まで目を通しておくことをおすすめします。
3. 厚生年金「月15万円以上」は何%?受給額の分布で確認する
厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の男女全体の平均月額は「15万289円」です。なお、この金額には1階部分の国民年金(老齢基礎年金)の月額部分が含まれています。
平均額は全体を1つの数字にまとめたものなので、これだけでは実際の広がりが見えません。受給額ごとの人数分布を確認していきましょう。
3.1 厚生年金の受給額ごとの受給権者数
- 1万円未満:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
厚生年金を月額15万円以上受給している人は、全体の半分に満たない49.8%です。厚生年金を受給していない人も含めて計算すると、この割合はさらに低くなります。
分布を上から下まで眺めると、6万円台から20万円台まで、かなり広い範囲に人が散らばっていることがわかります。「平均15万289円」という数字は、この広がりの中心付近を指しているにすぎません。
ご自身が15万円に届いていなかったとしても、それは半数側にいるということで、特別に少ないわけではありません。ここで大事なのは、平均や割合と自分を比べて一喜一憂することではなく、ご自身の見込み額を具体的に確認することです。
ねんきん定期便やねんきんネットを使えば、これまでの加入記録に基づいた金額が確認できます。
50歳以上の方であれば、現在の加入条件が60歳まで続いた場合の見込み額まで表示されますので、老後の計画を立てる材料として使いやすいはずです。
4. 監修者コメント:平均・割合・分布は、それぞれ違うことを語っている
年金のデータを読むときは、「平均」「割合」「分布」がそれぞれ別のことを語っていると考えるとわかりやすくなります。
平均は全体を1つの数字にまとめたもの、割合はある線を境に何人いるかを示したもの、分布はどこに人が集まっているかを示したものです。
この記事のように3つが揃っている資料は、実はそれほど多くありません。
気をつけたいのは、平均額が「多くの人が受け取っている金額」を意味するわけではないということです。
厚生年金の平均には、40年以上フルタイムで働いた方も、短期間だけ厚生年金に加入した方も、同じ母数に入っています。世代によって働き方の慣行も違いますので、単純に横並びで比べるのは避けたいところです。
また、この記事の金額はいずれも額面です。実際の暮らしで使えるのは、介護保険料や国民健康保険料、所得税・住民税が差し引かれた後の金額になります。
年金からの天引きは自動的に行われるため気づきにくいのですが、振込通知書には内訳が記載されています。
届いたときに一度、額面と手取りの差を確認しておくと、家計の見通しが立てやすくなります。
そして年金額は、老後の家計を決める要素の1つにすぎません。持ち家か賃貸か、健康面の備えがあるか、介護が必要になったときに頼れる人がいるか——こうした条件で必要な金額は大きく変わります。
数字を確認したうえで、ご自身の暮らしに当てはめて考えていただければと思います。
4.1 【独自試算】いちばん人数が多いのは「10万円台前半」|平均とのズレ
監修者コメントにあった「分布はどこに人が集まっているかを示す」という観点から、この記事の分布データをもう一段掘ってみます。31の階級のうち、最も人数が多いのはどこかを確認する試算です。
分布に記載された人数を比べると、上位はこの順になります。
- 1位:10万円以上~11万円未満 = 111万2828人
- 2位:11万円以上~12万円未満 = 107万1485人
- 3位:17万円以上~18万円未満 = 103万1951人
- 4位:18万円以上~19万円未満 = 102万6888人
つまり、いちばん人数が多い階級は「10万円以上~11万円未満」です。平均額の15万289円とは、約4万円から5万円の開きがあります。受給権者の総数は、分布の人数をすべて合計すると約1608万5696人。最多の階級はそのうち約6.9%を占めます。
もう1つ見えてくるのが、上位4階級の並び方です。1位・2位は10万円台前半、3位・4位は17万〜19万円台と、離れた2カ所に人の塊があります。厚生年金の分布は1つの山ではなく、加入期間や働き方の違いを反映して、複数の層が重なった形をしているといえます。
「平均15万円」と「最も多いのは10万円台前半」は、どちらも同じデータから出てくる事実です。平均だけを基準にすると実感とずれることがあるのは、こうした分布の形が背景にあります。
※厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」に記載された1万円刻みの受給額分布の人数を比較・合計した目安です。階級の幅は1万円あるため、各階級内の実際の分布は考慮していません。実際の受給額は個人ごとに異なります。





