紙の会社と聞けば、需要が細っていく業種という見方が先に立つ。ただ決算書を開くと、そこには紙以外の話がずいぶん入り込んでいる。三菱製紙(3864)の2027年3月期1Qは、本業が黒字に転じ、同時に保有株式の売却益が最終利益を押し上げた四半期だった。株価は8月21日に1,199円まで戻している。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

この記事の3つのポイント
  • ①2027年3月期1Qは営業利益3億円、経常利益6億円で黒字に転換。前年同期はいずれも損失だった
  • ②株価は1カ月を1,091円から1,199円の狭いレンジで動き、8月21日は1,199円と直近1カ月で最も高い水準になった
  • ③政策保有株式の純資産に対する保有率は16%まで下がり、会社は目標の20%以下への縮減を前倒しで達成したと説明している

1. 1,091円から1,199円。1割に収まったレンジの1カ月

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

直近1カ月の終値を並べると、他の銘柄との違いがすぐ分かる。動く幅が小さいのだ。

起点の7月23日は1,198円。7月28日には1,091円まで下げ、これがこの1カ月で最も低い水準になる。

8月上旬は1,150円台から1,170円台で推移した。8月10日に1,124円へ押したあとは、8月中旬にかけて1,150円前後で動かない期間が続いた。

8月17日と8月18日はいずれも1,151円で、同じ水準が並んでいる。値動きが止まっていたと言っていい。

動いたのは足元だ。8月19日が1,156円、8月20日が1,161円、そして8月21日の終値は1,199円。当日は前日比で3%を超える上昇となった。

1,199円はこの1カ月で最も高い水準ではあるが、起点の1,198円とほぼ同じでもある。1カ月を通せば横ばいで、レンジの幅も1割程度に収まった。

値動きの荒い銘柄と並べると、この静けさ自体が特徴になる。市場の関心が薄い状態にあると読み取れる。

2. PER8.1倍・PBR0.51倍という値付けが織り込んでいるもの

直近時点のPER(株価収益率)は8.1倍、PBR(株価純資産倍率)は0.51倍である。

PERは会社が示す2027年3月期の1株当たり当期純利益予想148.31円に対する水準だ。1,199円という株価は、その予想利益の8倍にあたる。

PBR0.51倍は、帳簿上の純資産に対して半分程度の値段しか付いていないという意味になる。

財務の形はどうか。2026年3月期の自己資本比率は46.3%で、パルプ・紙業種18社の自己資本比率中央値50.3%に近い水準にある。

一方で収益性は違う。同期のROE(自己資本利益率)は2.0%で業種中央値4.9%の半分以下、営業利益率は0.17%で業種中央値3.6%を大きく下回った。

財務は業種の真ん中、収益性は業種の下位。PBRが0.5倍付近にとどまるのは、その組み合わせに対する市場の答えだと読み取れる。

3. 減収でも営業黒字に転換。1Qで何が変わったのか

2027年3月期1Qの売上高は386億円で、前年同期比▲2.1%の減収だった。

それでも営業利益は3億円の黒字に転じた。前年同期は12億円の営業損失である。経常利益も6億円となり、前年同期の10億円の損失から浮上した。

会社の説明によると、原燃料価格の高騰による影響を受けたものの、ドイツ事業における事業構造改革の効果発現をはじめとするコスト削減等によって黒字化した。

数字の側からも裏づけが取れる。1Qの売上総利益は49億円で前年同期の38億円から増え、販売費及び一般管理費は45億円へ前年同期の50億円から減った。粗利が増えて販管費が減れば、営業利益は増える。

もう一つ、効いている変更がある。会社は八戸工場の定期修理の実施時期を、これまでの毎年6月から当期より11月へ変更したという。1Qに入っていた修理費用が下期へ移る形だ。

親会社株主に帰属する四半期純利益は21億円だった。前年同期は13億円の純損失である。会社はこの黒字化について、政策保有株式の売却益を計上したこと等によると説明している。

4. 通期予想への進捗をどう見るか

通期予想は売上高1,750億円、営業利益60億円、経常利益60億円、当期純利益65億円である。1株当たり配当は20円で、前期の15円から増やす計画になっている。

前期の実績は売上高1,574億円、営業利益2億円、経常利益17億円、当期純利益19億円だった。予想はかなりの増益を見込んでいることになる。

1Qの進捗は営業利益で6.6%、当期純利益で33.2%。営業利益の側は通期予想に対してまだ入り口にいる。

売上高も386億円で、通期予想に対する進捗は22.1%。単純に4倍しても1,750億円には届かない。

つまり会社は下期に重心を置いた回復を前提にしている。定期修理の時期変更を踏まえれば下期のコストは重くなるので、下期の押し上げは売上と価格の側で作る計画だと読み取れる。

パルプ・紙業種の営業利益成長率の中央値は▲13.0%。業界全体が減益局面にある中での増益計画であり、ハードルは低くない。

5. 筆者コメント

見逃せないのは、営業利益3億円と四半期純利益21億円の開きだ。

本業で稼いだ利益に対し、株主に帰属する最終利益は大きく上回っている。差を埋めたのは保有株式の売却益である。

この形は今期だけの話ではない。2026年3月期も営業利益2億円に対して当期純利益19億円だった。営業段階の利益が細っても、最終利益はそれなりの水準を保ってきた。

私が気にしているのは、この構造が投資家の目を曇らせやすい点だ。PER8.1倍という数字は最終利益をもとに計算される。その最終利益に本業以外の要素が多く混ざっていれば、倍率の意味も変わってくる。

もっとも、保有株式の売却は資本効率を上げる行動でもある。使っていない資産を現金に換えるのだから、方向としては正しい。

営業利益と最終利益のどちらを見ているのか、意識しながら数字を追ってほしい局面だ。