4. 在職老齢年金の支給停止基準額、65万円に引き上げ
在職定時改定で増額が計算されても、在職老齢年金による支給停止の対象になっていると、実際の受取額に反映されにくいケースがあります。ここで押さえておきたいのが、令和7年に成立した年金制度改正法にもとづき、令和8年4月から支給停止の基準額が引き上げられたことです。
65歳以上70歳未満で厚生年金を受給しながら働く場合、基本月額と総報酬月額相当額の合計が、令和8年度の基準額である月65万円を超えると、超えた額の2分の1が支給停止となります。令和7年度までの基準額は月51万円だったため、大幅な引き上げです。日本年金機構の試算例では、基本月額10万円・総報酬月額相当額46万円の場合、改正前は合計56万円が基準額の51万円を超えて一部支給停止となっていましたが、改正後は合計56万円が基準額65万円以下となるため、年金は全額支給されます。
在職定時改定で報酬比例部分が増えると基本月額も上がるため、基準額に近いラインで働いている人は、増額分が支給停止で相殺されるケースが今後も起こり得ます。停止対象は老齢厚生年金の一部で、老齢基礎年金は対象外です。加給年金(配偶者や子への上乗せ支給)を受け取っている場合、在職老齢年金で支給停止となると加給年金も止まる期間があるため、あわせて確認しておきましょう。
5. 改定の記録とねんきんネットの照合を、家計管理と家族共有に活かす
基準額が引き上げられたとはいえ、在職定時改定は毎年繰り返される小さな改定です。単年ではインパクトが見えにくいものの、複数年蓄積すると老後の総受給額に効いてきます。改定額が反映されたら、日本年金機構から届く通知書とねんきんネットの記録を照合し、書面ベースで管理しておくことが実践的な備えになります。
通知書には、加入期間・平均標準報酬月額の情報や、改定理由に「在職定時改定」の文言が含まれます。届く時期は年度や個人の状況によって異なるため、正確な送付月は日本年金機構やねんきんネットで各自ご確認ください。賞与を含めた総報酬月額相当額の反映漏れがあると想定より改定額が小さくなることもあるため、ねんきんネットの加入履歴に抜けがあれば年金事務所への照合を依頼できます。
毎年の改定内容をエクセルなどで「年月/改定前/改定後/差額」の形式で記録しておくと、5年後・10年後の累積増額幅が具体的な数字で見えてきます。夫婦で退職タイミングを話し合うとき、増額幅の実額を根拠に検討できますし、相続や介護のスケジュールともあわせて家族間で情報を共有しておくと安心です。
6. まとめにかえて|在職定時改定と基準額の見直しを家計計画に
在職定時改定は、65歳以降も働き続ける人にとって毎年の年金額を積み増していける制度です。増加額はそこまで大きくないものの、加入年数を重ねるほど累積で効いてきます。
ねんきん定期便・ねんきんネットでの試算とあわせて、届いた通知書の内容を毎年確認し、退職タイミングとあわせた資金計画を立てておくのがおすすめです。書類は家族と共有できる形で保管しておくと、将来の見直しがしやすくなります。
7. 【筆者コメント】
支給停止基準額が51万円から65万円に引き上げられたことで、「働くほど年金が減る」という心配は以前より小さくなりました。実際、総報酬月額相当額が50万円台の方でも、改正前は一部支給停止だったのが改正後は全額支給に変わるケースが出てきます。
ただし、基準額は令和8年度以降も毎年度の賃金変動に応じて改定される見込みです。今回65万円になったからといって固定された数字ではなく、来年度以降また変わる可能性がある、という点は覚えておいていただきたいところです。
在職定時改定も基準額の見直しも、どちらも「知らないと気づかないまま」になりやすい制度です。毎年届く通知書とねんきんネットを照合する習慣を、ぜひこの機会に取り入れてみてください。
