総合商社という言葉から思い浮かぶのは、資源の権益や海外での大口トレードだろう。ところが伊藤忠商事(8001)の粗利益を事業別に開いてみると、最も大きな塊はそこにはない。稼ぎ頭は、私たちが毎日その前を通っている店の側にある。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

この記事の3つのポイント
  • ①2026年3月期の売上総利益は8つのセグメントのうち第8セグメントが4,505億円で最大。収益は5,124億円にとどまる
  • ②同社はファミリーマートの議決権94.7%を保有して連結子会社に抱えており、第8セグメントの売上総利益は収益の9割近くを占める
  • ③2027年3月期からファミリーマートの主管は食料セグメントへ移り、利益の7割を第8セグメントへ配分する形に変わった

1. 商社の名前から連想されるものと、粗利益の並びが違う

「総合商社」という区分に置かれた会社の決算を開くとき、多くの人はまず資源や機械の数字を探すのではないだろうか。社名にも「商事」が入っている。輸出入の口銭で稼ぐ商売だ、というイメージが先に立つ。

だが伊藤忠商事の2026年3月期のセグメント情報を、売上総利益(IFRS)の大きい順に並べ替えるとこうなる。第8セグメントが4,505億円、食料が4,147億円、情報・金融が3,678億円、住生活が3,299億円だ。

資源に近い金属は1,530億円で、8つの並びのうち最も小さい。エネルギー・化学品も2,785億円である。機械は2,712億円、繊維は2,042億円だ。

では第8セグメントとは何か。同社が関係会社の状況で開示しているとおり、ここはファミリーマートを主管してきた区分である。

伊藤忠商事はファミリーマートの議決権を94.7%保有し、連結子会社として抱えている。資本金は166億円、事業内容はフランチャイズシステムによるコンビニエンスストア事業と記載され、特定子会社の注記が付く。

つまりこの会社で最も大きな粗利益を生んでいるのは、トレードでも権益でもなく、店舗網の側だということになる。

2. 収益は最小級、粗利益は最大。店舗網が持ち込んだ異質な収益構造

数字の並びをもう一段開くと、第8セグメントの特殊さがはっきりする。

このセグメントの収益は5,124億円で、8つのうち最も小さい。それでいて売上総利益は4,505億円だ。収益に対する売上総利益の比率は9割近くに達する。

対照的なのが食料セグメントである。収益は5兆1,216億円と第8セグメントの10倍規模だが、売上総利益は4,147億円で第8セグメントを下回る。比率は8%程度にとどまる。

なぜこうなるのか。卸売の売上は商品代金がそのまま収益に立つため、金額は大きくなるが差益は薄い。一方でフランチャイズは加盟店からの収入が中心になり、商品仕入の総額が収益に立ちにくい。

同じ流通に見える事業でも、契約の形が違えば損益計算書への現れ方が変わる。第8セグメントの9割近い比率は、その構造の差がそのまま出た数字だと読める。

ここが、資本関係の話が収益構造の話に変わる地点だ。伊藤忠商事は店舗網を取引先として外に置いたのではなく、議決権のほぼ全部を握って連結の内側に入れた。だから加盟店からの収入が、そのまま同社の売上総利益として積み上がる。

他のセグメントの粗利率も並べておこう。情報・金融が33%台、繊維が30%台、住生活が21%台、機械が18%台、金属が12%台、エネルギー・化学品が9%台である。第8セグメントの9割近い水準は、この並びの中で明らかに外れている。

収益の規模で序列を測るか、差益の厚みで測るか。この会社ではその二つが逆の答えを出す。

出所:伊藤忠商事株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

3. 直近1カ月の株価と、いま置かれているバリュエーション

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

株価はこの1カ月で水準を切り上げている。7月下旬の1,971円を起点に、直近は2,080円だ。

途中の下限は7月下旬の1,958円、上限は8月中旬の2,096円だった。足元の2,080円はレンジの上寄りに位置する。

直近の1日で見ても、前日の2,004円から76円、率にして3.8%上げている。

直近時点のPER(株価収益率)は15.31倍、PBR(株価純資産倍率)は2.15倍である。卸売業という区分の中では高めの水準だ。

株価が動く背景は地合いや需給も絡むため断定はできない。ただ同社は3,000億円を上限とする自己株式の取得を決議しており、需給面の思惑が意識された可能性はある。

もう一点、この会社のバリュエーションを見るときに外せない事実がある。1Q末の株主資本比率は39.4%で、卸売業の自己資本比率の中央値51.1%より低い。

それでも2026年3月期のROE(自己資本利益率)は14.6%で、卸売業の中央値7.8%の2倍近い。資本を薄く使いながら高い収益率を出している形になる。

4. 筆者コメント

見逃せないのは、粗利益の最大の塊が「商社らしくない」ところにあるという事実だ。

社名も業種区分も、この会社を卸売業の枠に置いている。だが売上総利益の並びは、店舗網が最大の稼ぎ手であることを示している。イメージと数字の間にこれだけの開きがあるのは珍しい。

なぜこの開きが縮まらないのか。理由の一つは、収益の大きさで序列を測る癖だろう。収益で並べれば食料が桁違いに大きく見え、第8セグメントは小さく映る。差益で並べ替えた瞬間に順位が逆転することは、外からは見えにくい。

もう一つは、店舗の看板に商社の名前が出ないことだ。消費者としての接点は毎日あるのに、それが投資対象としての認識には結び付かない。

セグメント情報を読むときは、収益ではなく売上総利益の側から並べ替えてみることをおすすめしたい。会社の稼ぎ方は、そちらの並びのほうに素直に出る。