4. 難聴を放置するリスク 認知症との関連も指摘されている
「まだ日常生活に支障はないから」と難聴を放置している方も多いかもしれませんが、経済的な負担を避けるために先延ばしにすることには、別のリスクも指摘されています。
国立長寿医療研究センターによれば、海外の研究において「中年期に難聴があると、高齢期の認知症の発症リスクがおよそ2倍に上昇する」と報告されています。
同センターの調査でも、難聴のある人はもの忘れの自覚や不安感、抑うつ気分を感じる割合が高く、日常生活動作や生活の質(QOL)にも影響が及んでいることが分かっています。
一方で、海外からの報告として、補聴器を適切に使うことで認知症の発症リスクが軽減する可能性も紹介されています。
費用の壁を理由に難聴を我慢し続けることは、経済的な負担を避ける以上に、将来の健康面でのリスクを見過ごすことにもつながりかねません。
だからこそ、費用面のハードルを下げる医療費控除や自治体の助成制度を、あらかじめ知っておくことが重要になります。
5. 年金月額の実態は?ボリュームゾーンに大きな男女差
では、その「費用面のハードル」は、実際にどれくらい高いのでしょうか。
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和6年度)」によれば、自営業者などが加入する国民年金の平均年金月額は5万9310円(男子6万1595円、女子5万7582円)、会社員などが加入する厚生年金保険(第1号)の平均年金月額は15万289円(男子16万9967円、女子11万1413円)となっています。
- 国民年金の平均年金月額:5万9310円(男子6万1595円、女子5万7582円)
- 国民年金のボリュームゾーン(受給者数が最も多い階級):月6万〜7万円(男子の67.1%、女子の39.3%が該当)
- 厚生年金保険(第1号)の平均年金月額:15万289円(男子16万9967円、女子11万1413円)
- 厚生年金保険(第1号)のボリュームゾーン:男子は月18万〜19万円、女子は月10万〜11万円
特に目立つのが、受給者数が最も多い「ボリュームゾーン」に見られる男女差です。
国民年金では男子の67.1%、女子の39.3%が「月6万〜7万円」の階級に集中しており、この水準だけで家計をやりくりしている方も少なくないとみられます。
厚生年金保険(第1号)でも、男子のボリュームゾーンが「月18万〜19万円」であるのに対し、女子は「月10万〜11万円」にとどまり、男女で8万円近い開きがあります。
国民年金を中心に受給している方にとって、月6万円前後の収入から10万〜30万円の補聴器代をまとめて捻出するのは容易ではありません。
だからこそ、次に見る自治体独自の助成制度の有無を、購入前に必ず確認しておくことが欠かせません。
6. 全国に広がる自治体の補助制度、しかし実施率はまだ3割強
では、実際にどのくらいの自治体が独自の補聴器購入費助成を実施しているのでしょうか。
一般社団法人日本補聴器販売店協会が2025年12月1日時点でまとめた調査によれば、全国1747市区町村のうち補聴器購入費助成制度を実施しているのは622自治体、全体の約35.6%にとどまります。
実施している自治体でも地域差は大きく、北海道(48自治体)東京都(45自治体)、長野県(33自治体)などで実施が目立つ一方、制度自体がない地域も少なくありません。
助成額の上限は「3万円」が194市区町村と最も多く、「2万円」(100)、「2万5000円」(58)、「4万円」(52)が続きます。金額は自治体によってさまざまで、最低8000円から最高16万円まで幅があります。
対象年齢は「65歳以上」とする自治体が468(75%)と圧倒的多数を占め、「18歳以上」とする自治体は106(17%)にとどまります。
制度の要件パターンは?
- 補聴器相談医の受診が必須の自治体:93
- 認定補聴器技能者からの購入が必須の自治体:172
- うち認定補聴器専門店での購入が必須の自治体:62
「認定補聴器専門店」「認定補聴器技能者」とは、公益財団法人テクノエイド協会が、補聴器の適正な販売を行う基準を満たした店舗・専門知識を持つ技能者として認定する制度です。
医療費控除だけでなく、自治体の助成制度でもこうした専門家を介した購入を条件とするケースが相当数あるため、まずは自分の自治体の要件を確認したうえで、専門医・専門店選びを進めることが大切です。
7. まとめにかえて|まずは窓口と専門医への相談から
補聴器の価格は決して安くありませんが、条件を満たせば医療費控除で税金の一部が還付され、自治体独自の助成を受けられる場合もあります。
いずれの制度も「購入前」に動くことが重要です。
まずはお住まいの高齢者福祉課や地域包括支援センターに助成制度の有無を問い合わせ、近くの補聴器相談医を探すことから始めてみてはいかがでしょうか。
8. 筆者からのコメント
医療費控除と自治体の助成金は条件を満たせば併用できますが、受け取った補助金額は医療費控除の対象額から差し引く必要があります。
「認定補聴器専門店」「認定補聴器技能者」は公益財団法人テクノエイド協会が認定する制度で、聴力測定や調整(フィッティング)の専門知識を持つことが求められ、自治体の助成要件としている自治体も少なくありません。
制度の細かな要件は年度によって変わることもあるため、申請前には必ずお住まいの自治体の最新情報を窓口やホームページで確認しましょう。
参考資料
- 国税庁「補聴器の購入費用に係る医療費控除の取扱いについて(情報)」
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
- 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「補聴器相談医とは?」
- 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「補聴器相談医名簿」
- 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「『補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)』Q&A」
- 国立長寿医療研究センター「耳が聞こえにくいと認知症になりやすい?」
- 厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和6年度)」
- 一般社団法人日本補聴器販売店協会「全国の自治体における補聴器購入費助成制度の実施状況(2025年12月1日現在)」
- 公益財団法人テクノエイド協会「認定補聴器専門店認定システム」


