4. 「この貯蓄は何歳までもつのか」―60代のご相談者が、積立を終える年齢と取り崩しを始める年齢を決めるまで
ここからは、老後資金の使い方について相談に訪れた60代の方の事例をもとに、ファイナンシャルアドバイザーの横野会由子さんに伺った考え方をご紹介します。貯蓄の金額そのものよりも「この貯蓄が何歳まで続くのか」が見えないことに不安を感じておられる方は少なくありません。貯める段階から使う段階へ移るとき、判断の物差しが変わることが背景にあります。
4.1 積立の終わりが決められないまま、資産に手をつけられずにいた
60代は、収入の柱が給与から年金へと切り替わっていく時期にあたります。積み立ててきた資産をいつから、どのくらいのペースで使えばよいのか。その目安がないまま判断を先送りしてしまう方は少なくありません。相談の場では、次のような声を耳にします。

漠然とした不安の正体は、金額の多い少ないではなく「期間の見通しがないこと」である場合が多いように感じます。長く積立を続けてきた方ほど、使い始める判断に迷いやすいものです。この事例でも、老後資金のシミュレーションを一緒にご覧いただくなかで、判断の土台が定まっていきました。
4.2 【ファイナンシャルアドバイザー・横野会由子が回答】残高ではなく「期間」から整理していく
介護費や医療費など想定外の出費が発生する可能性も考えると、資産を目的別に分けて、「守りながら使う」ということができれば、いざというときに困らず、不安なく切り崩していくことができるのではないでしょうか。
4.3 ポイント1:積立を終える年齢と、取り崩しを始める年齢を先に決める
最初に決めたいのは、時期です。積立を終える年齢と取り崩しを始める年齢という二つを決めるだけで、資産を増やす期間と使う期間が分かれ、必要な金額を逆算できるようになります。この事例では、70歳までに積立を終え、78歳から毎月一定額を取り崩していく形に落ち着きました。何歳が正解ということではなく、年金の受け取り方や働き方によって適した時期は変わります。
4.4 ポイント2:取り崩しを始めたあとの残高推移を試算で確認する
次に、決めた時期をもとに残高の動きを数字で見ていきます。毎月いくら引き出すと何歳まで資産が残るのかを確認していただくと、漠然とした不安が具体的な検討課題に変わります。取り崩し額を変えたときの違いも併せてご覧いただくと、判断の幅が見えてきます。ただし試算はあくまで一定の前提に基づくものなので、結果そのものより「前提を変えると何がどう動くか」を確かめる材料として使うのが実際的です。
4.5 ポイント3:保有している資産を役割ごとに整理する
最後に、手元の資産を役割で分けます。NISAの成長投資枠、個別株、投資信託など、値動きを受け入れて増やすことを目指す資金と、取り崩して生活費に充てる資金を分けておく。役割が重なっているものを整理していくことで、どこから使うかに迷わなくなります。どの商品をどちらの役割に置くかは、必要な生活費の水準や取り崩しまでの期間によって変わります。
なお、投資信託や株式には元本割れの可能性があり、将来の運用成果が保証されるものではありません。シミュレーションも一定の前提に基づく試算です。相場環境やご家庭の状況が変われば前提も変わりますので、数年ごとに見直しの機会を持つことをおすすめしています。
必要な資金額や取り崩しのペースは、年金の受け取り額、家族構成、健康状態などによって一人ひとり異なります。ここでご紹介したのはあくまで一つの事例です。ご自身の場合を検討される際は、保有している商品の内容や解約条件を確認したうえで、個別に専門家へご相談ください。
5. まとめ|平均と比べるより、自分の不足額を把握することから
65歳以上の単身無職世帯の家計は、毎月2万9980円の赤字という結果でした。ただし、この数字はあくまで平均であり、ご自身の年金額によって不足額は大きく変わります。
今回の試算で見たように、年金月額がパターン④の水準(6万1771円)にとどまる場合、同じ支出水準で暮らすには毎月10万円近くが不足し、20年間で約2392万円の貯蓄が必要になる計算です。一方、パターン①(17万6793円)であれば、この支出水準を年金だけでまかなえる可能性もあります。
平均と自分を比べるのではなく、ご自身の年金見込額と実際の生活費を並べて、毎月いくら足りないのかを把握すること。そこから、必要な貯蓄額と取り崩しのペースを考えていきましょう。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」
- LIMO「「ふつう」のシニアは年金を月いくらもらってる?60歳代以上の平均額と、無職世帯のリアルな家計収支を公開」
横野 会由子
