5. 【資産防衛】70歳代が見落としやすい注意点は3つある——資金援助・不動産活用・資産凍結

70歳代の家計を大きく揺るがしかねない注意点を3つ確認します。

5.1 子ども・孫への資金援助が老後資金を圧迫していないか

「その都度、通常必要とされる範囲で直接支払う教育費や生活費」に贈与税はかかりません。

ただし以前案内されてきた「教育資金の一括贈与の非課税制度」は2026年3月末で新規受付が終了しており、専用口座の資金を教育費以外(自分の医療費や介護費用など)で引き出すと原則として贈与税の対象になる点は見落としがちです。

また、70歳代の親が無職・非正規の中高年の子どもと同居し、親の年金や貯蓄に頼って暮らす「7040問題」も見過ごせません。

内閣府の調査では、40〜64歳のひきこもり状態にある人が全国で60万人超にのぼるとの推計もあり、親が倒れたり亡くなったりした時点で世帯の生活が一気に立ち行かなくなるおそれがあります。一人で抱え込まず、地域包括支援センターやひきこもり地域支援センターに早めに相談しておくことも一つの選択肢です。

5.2 不動産活用の「長生き・金利上昇・価格下落」の重なりに注意

自宅を担保に借入れ、死後などに売却して返済する「リバースモーゲージ」は、「長生き」「金利上昇」「不動産価格の下落」が重なると、借入残高が融資限度額に早く達したり、繰上返済や自宅売却を求められたりするリスクがあります。住宅金融支援機構の「リ・バース60」のように利用しやすい商品も増えていますが、契約前には①金利が上昇した場合の返済額の上限、②担保評価を見直す頻度とルール、③残債務が相続人に引き継がれるリコース型か、引き継がれないノンリコース型か、の3点は必ず確認しておきたいところです。

自宅を売却して賃貸に切り替える「リースバック」も、契約更新のできない「定期借家契約」では家賃滞納や契約終了で退去を迫られるトラブルが報告されています。売却価格や家賃だけでなく、契約更新の可否まで比較して検討することが欠かせません。

5.3 認知症による口座凍結で貯蓄があっても使えなくなる

銀行は、口座名義人が認知症などで意思能力を失ったと判断すると、口座取引を制限し実質的に預金を凍結することがあります。家庭裁判所へ申し立てて成年後見人を選任してもらわない限り、家族であっても原則として預金を自由に引き出せません。

専門職後見人には月額2万~3万円程度の報酬を本人が亡くなるまで支払い続けることになるうえ、財産は配偶者の生活費や孫へのお祝い金にも原則使えません。

認知症の人が保有する金融資産は2030年に215兆円規模に達するとの民間試算もあり、決して他人事ではありません。

「家族信託」や「任意後見」のほか、社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」や金融機関の代理人サービスなど、判断能力があるうちから使える比較的手軽な選択肢もあるため、早めに窓口で相談しておくと安心です。

6. 【シニア投資家調査】70歳代の3人に1人が株式投資を実践、資産格差はどこから生まれる?

株式会社トレジャープロモートが2026年8月に全国の60歳代・70歳代3370人を対象に実施した調査によると、60歳代・70歳代の3人に1人(32.9%、70歳代のみでは34.3%)がすでに株式投資を行っており、投資をしている人の金融資産(中央値)は1000万円と、投資をしていない人(150万円)の6.7倍に上ります。

6.1 投資をしている70歳代・していない70歳代は何を考えているのか?

投資家の投資目的(複数回答)

  • 生活資金の増加:43.8%
  • 老後資金の準備:39.9%
  • 娯楽費の増加:37.9%
  • 株式投資そのものが楽しい:23.1%
  • 経済の勉強:13.7%

投資をしていない理由(複数回答)

  • 知識不足:46.6%
  • 資金不足:46.1%
  • 損失への恐怖:39.1%

同調査では投資家の6割超(63.1%)が「まだ投資について学びたい」と回答しており、すでに投資をしている人でも知識に自信を持ちきれていないことがうかがえます。

ただし、資産を「取り崩す」段階に入っている70歳代にとって、新NISAや一時払い保険、複雑な外貨建て金融商品を新たに始めることは生活基盤を不安定にするリスクも伴い、慎重な判断が必要です。

6.2 投資よりも確実性が高い「働く」「減らす」という選択肢

2026年(令和8年)4月以降、在職老齢年金の支給停止基準額は月額51万円から「月額65万円」へ引き上げられ、この範囲内なら働きながら年金を全額受け取れます(対象は老齢厚生年金のみで老齢基礎年金は対象外。

パート収入の増加は住民税非課税世帯の判定に影響し得るため事前確認が必要です)。

あわせて、車の処分や不要な生命保険の解約、通信費の見直しなど、年金収入の範囲内で暮らせる固定費の削減も確実性の高い家計防衛策です。

前出の調査で「知識不足」を投資をしない理由に挙げた人が46.6%に上ったように、いきなり投資に踏み出す必要はありません。

まずは自治体の消費生活センターや金融機関が開くシニア向け無料相談会など、身近な窓口を活用して情報を整理するところから始めても遅くはありません。

7. まとめにかえて|70歳代からの家計を守るために知っておきたい制度と備え

ここまで、70歳代の貯蓄や年金、家計収支の実態を確認するとともに、資金援助や不動産活用、資産凍結など家計を大きく揺るがしかねない注意点について解説してきました。

今回紹介した調査が示すように、70歳代の間でも投資をしている世帯としていない世帯とでは資産に大きな差があり、多くの人が「投資についてまだ学びたい」と感じているのが実情です。

だからこそ、安易な投資や不動産活用に飛びつく前に、まずは自分の年金額と家計の実態、そして制度のボーダーラインを正しく知ることが欠かせません。

予想外の特別支出に備えながら、自分の身の丈に合った生活を送る。こうした正しい知識を身につけることが、安心できる老後を守るための大切な手段となるでしょう。

監修者:熊谷 良子

今回のデータを見て、不安を感じた方もいるかもしれません。しかし大切なのは、漠然とした不安のままにしておかないことです。

自分の年金振込通知書を確認する、家計簿アプリで毎月の収支をつけてみる、市区町村の窓口で住民税非課税の基準を確認してみる——できることは意外と身近にあります。

投資をしている70歳代が増えているというデータも、裏を返せば「まだ知らないことが多い」と感じている人が多いということです。焦って投資に頼る必要はありません。

まず「今ある年金と貯蓄でどこまで暮らせるか」を把握し、固定費の見直しや無理のない範囲で働き続けることを組み合わせれば、70歳代からでも家計は十分に立て直せます。

今日紹介した制度やボーダーラインを、ぜひご自身やご家族の状況と照らし合わせ、次の一歩を考えるきっかけにしてください。

参考資料

池上 翠