旧ソニーケミカルとして知られ、スマートフォンやノートPC向け電子部品で圧倒的な世界シェアを持つデクセリアルズ。
直近の決算は「増収減益」と一見パッとしない数字でありながら、同社の株価はTOPIX(東証株価指数)を大きくアウトパフォームする急騰を見せています。
主力であるスマホやPCの市場成長に陰りが見える中、一体なぜ、株式市場はこれほどの熱視線を送っているのでしょうか。
この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が株価の動きと会社からのメッセージを読み解き、プロの投資家ならではの視点で迫ります。
この記事のポイント
- 直近決算は増収減益ながら、データセンター向け「光半導体」の成長期待が株価を牽引
- 中期経営計画で光半導体の売上目標を従来の150億円から325億円へ大幅に上方修正
- ROE27.3%という極めて高い収益性を誇り、継続すれば3年で株主資本が倍増する計算に
- 今後の論点は、急成長する光半導体が既存事業並みの「高い利益率」を出せるかどうか
- 自動車向け(EV)の下方修正など、成長前提が崩れた際の下振れリスクにも注意が必要
1. 【デクセリアルズ】パッとしない決算と株価急騰の「乖離」
デクセリアルズが発表した2026年3月期の通期決算は、売上高が1,138億円(前期比3.1%増)となった一方で、営業利益は380億円(同4.1%減)と減益に着地しました。
さらに、次期である2027年3月期の会社予想を見ても、売上高は1,230億円(同8.1%増)を見込むものの、当期純利益は275億円(同1.8%減)と、引き続き「増収減益」が予想されています。
決算の数字だけを切り取ると、利益面での成長にブレーキがかかっており、決して爆発的に伸びている企業には見えないかもしれません。
デクセリアルズの業績推移と予想1/4
出所:デクセリアルズ「2026年3月期 決算短信」を基にイズミダイズム作成
1.1 TOPIXを大きくアウトパフォームする背景
しかし、株式市場の反応は決算の見た目とは大きく異なります。同社の株価は長らくTOPIXを下回る時期が続いていましたが、直近ではTOPIXを大きくアウトパフォーム(上回るパフォーマンスを出すこと)する急騰を見せています。
インタビュアーから「なぜパッとしない決算なのに株価が盛り上がっているのか」という疑問が投げかけられると、泉田氏はこの決算と株価の「乖離」の背景には、株式市場が見つめる「ある新しいテーマ」が存在すると指摘します。
市場は足元の利益の増減以上に、同社が新たに展開する事業の構造的な成長性に強い期待を寄せているのです。
2. 株価を押し上げる「光半導体」の構造的成長期待
これまでデクセリアルズの主力事業は、スマートフォンやノートPCのディスプレイに使われる「異方性導電膜(ACF)」や「反射防止フィルム(ARF)」といった製品でした。
しかし、世界的にスマホやPCの普及が一巡し、かつてのような倍々ゲームでの成長が見込みづらくなっているのが現状です。
そこで株式市場が新たに注目しているのが「光半導体(フォトニクス)」という領域です。
これは、電気信号と光信号を変換する半導体素子のことで、主にデータセンター内の光トランシーバーなどに組み込まれます。データ通信の高速化・大容量化に不可欠な部品です。
泉田氏は、この光半導体が昨今のAIブームと密接に絡んでいると解説します。
「AIって言うんだけど、確かにAIってデータセンター作ってその中にサーバーがあるからAI関連ではあるんだけど、AIど真ん中ではない。AIに必要なインフラ投資に関わる部品『データセンター銘柄』というわけですね」
つまり、直接的なAI開発企業ではなくとも、AIを動かすための巨大なデータセンターやサーバーの増設という「インフラ投資」の恩恵をダイレクトに受ける企業として、市場から再評価されているのです。
2.1 中計の大幅な上方修正が示すポテンシャル
この光半導体の成長ポテンシャルは、同社が発表した中期経営計画(2024-2028年度)の「リフレッシュ(見直し)」にも明確に表れています。
2026年3月期における光半導体の売上実績は103億円でした。会社側は当初、2028年度の光半導体の売上目標を150億円としていましたが、今回の見直しでなんと「325億円」へと大幅に上方修正しました。
わずか数年で実績の約3倍にまで急拡大させる強気な計画です。
光半導体(フォトニクス)の売上目標上方修正2/4
出所:デクセリアルズ「中期経営計画『進化の実現』リフレッシュ」を基にイズミダイズム作成
全社売上目標1,640億円から見ればまだ一部に過ぎませんが、この強烈な成長モメンタム(勢い)こそが、株式市場の期待を惹きつけてやまない最大の理由となっています。
3. 驚異の「ROE27%超」がもたらす複利の威力
デクセリアルズの強みを語る上で欠かせないのが、既存事業が持つ圧倒的な市場シェアです。
グローバル市場において、主力製品であるACF(異方性導電膜)は74.0%、ARF(反射防止フィルム)に至っては92.8%、さらに光学弾性樹脂(SVR)も54.7%という驚異的なシェアを握っています。
これら主力3製品だけで全社売上の約63.8%を占めており、この「ほぼ独占状態」が高い価格交渉力を生み、1,138億円の売上に対して380億円もの営業利益を叩き出す高収益体質の源泉となっています。
主力製品のグローバル市場シェア3/4
出所:デクセリアルズ「2026年3月期 決算説明会資料」を基にイズミダイズム作成
3.1 株主資本が3年で倍増する計算式
この高収益体質は、投資家が最も重視する指標の一つである「ROE(自己資本利益率)」に如実に表れています。同社のROEは前期が30.6%、2026年3月期も27.3%と、日本企業としては極めて高い水準を誇っています。
泉田氏は、この高いROEが長期投資においてどれほどの破壊力を持つかについて、複利の観点から次のように解説します。
「高いよね。27.3%が3年続くと株主資本どうなりますか。(中略)3年経つと株主資本倍になるのよ」
現在、同社の株主資本は約1,093億円です。もしROE27%超という高い資本効率を維持したまま利益を再投資し続けることができれば、計算上はわずか3年で株主資本が2,000億円を突破することになります。
「光半導体でしっかり売上増やして、それが既存の事業と同じように利益出せる構造を作れていたとすると、これ株主資本としてはすごくポジティブなのよ」
既存事業で稼いだ豊富なキャッシュを、急成長する光半導体という「時流に乗ったテーマ」へ惜しみなく投資できる体力があること。これこそが、デクセリアルズという企業の真の投資妙味と言えます。
4. 今後の投資論点と潜むリスク
一方で、株価が期待先行で上昇しているからこそ、投資家が冷静に見極めるべき論点やリスクも存在します。最大の中長期的な論点は「製品ミックス(販売する製品の構成比率)の変化」です。
泉田氏は、光半導体の売上が伸びること自体はポジティブに評価しつつも、それが利益にどう結びつくかを注視すべきだと警鐘を鳴らします。
「成長はするけど利益あんまり出ませんってなると、今はこの瞬間開発中のものとかあったんでいいんだけど、時間経った時に既存の事業と同じように収益性出ますかっていうのは株主に聞かれると思う」
現在、同社が高い利益を出せているのは、既存製品で圧倒的なシェアを持っているからです。今後、光半導体が事業の柱へと育っていく過程で、既存事業と同じような高い利益率を維持できるのか。
「株主がチェックするとしたら、光半導体のシェアが増えるとともにこの利益率が減ってないかっていうところは要チェックポイントになるわけです」
売上の成長だけでなく、利益率の推移を確認し続けることが投資判断の鍵となります。
4.1 既存事業の成長懸念とEV向けの下方修正
また、光半導体以外の事業にも懸念材料があります。スマートフォンやノートPC向け製品は、市場の成熟により今後の大幅な需要増は見込みづらい状況です。
さらに見逃せないのが、自動車向け事業の下方修正です。中期経営計画の見直しにおいて、自動車向け事業の2028年度売上目標は、当初の300億円から245億円へと引き下げられました。これは世界的なEV(電気自動車)シフトの鈍化が影響しています。
光半導体への大型成長投資による先行負担もあり、2027年3月期は当期純利益で減益が予想されています。
もしデータセンター向けの成長シナリオという前提が崩れた場合、株価が大きく下振れするリスクがあることは常に意識しておく必要があります。
成長領域の売上目標の変化(光半導体と自動車の明暗)4/4
出所:デクセリアルズ「中期経営計画『進化の実現』リフレッシュ」を基にイズミダイズム作成
4.2 投資家が意識すべき「連想ゲーム」
こうしたEV鈍化による下方修正のニュースに触れた際、泉田氏は投資家としての重要な思考法を提示します。
「株式投資って、どっかが数字をバーンって出したらその企業だけを調べるんじゃなくて、ここで影響あったことは他にどこに影響があるんだって見つけに行く。その連想ゲームをするっていうのがすごい大事」
例えば、自動車メーカーがEV計画を見直したというニュースがあれば、それは自動車メーカーの株価だけでなく、そこに部品を供給しているデクセリアルズのような企業の業績計画にも波及します。
逆に、AIやデータセンター関連の投資が拡大しているというニュースがあれば、サーバー用の部品を作る他の電子部品メーカーにも恩恵が及ぶと想像を広げることができます。
デクセリアルズの決算と株価の動きは、目の前の数字だけでなく、社会の構造変化やサプライチェーン全体を見渡す「連想ゲーム」の重要性を私たちに教えてくれています。
※本記事は決算資料および動画内の解説をもとにした情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。
参考資料
- デクセリアルズ株式会社「2026年3月期 決算短信」
- デクセリアルズ株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」
- デクセリアルズ株式会社「2026年3月期 決算説明会」(2026年5月14日)
- デクセリアルズ株式会社「中期経営計画『進化の実現』リフレッシュ」(2026年5月13日)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」