2026年は国際的なスポーツイベントが続き、その中で大きな注目を集めているのが「配信サービス」です。

3月に開催された「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」ではNetflix、現在開催中(6月12日〜7月20日、日本時間)の「2026 FIFAワールドカップ(W杯)」ではDAZNの配信が、それぞれ物議を呼んでいます。

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出所:Netflix、DAZN

出所:Netflix、DAZN

WBC開催期間中にはNetflixによる独占配信に賛否両論の声がありましたが、今回のW杯のDAZNによる配信では圧倒的にネガティブな意見が目立ちます。DAZNの炎上によって、むしろNetflixの戦略が再評価される状況にもなっています。

両者の評価を分けたポイントはどこにあるのでしょうか。背景も含めて、詳しく分析していきます。

1. DAZNは2016年、Netflixは2015年に日本上陸

DAZNについて、名前は聞いたことがあるけれど、実際にどのようなサービスなのか把握していないという方は多いのではないでしょうか。

同サービスは、2016年にイギリスのパフォーム・グループ(現DAZNグループ)が立ち上げたスポーツ専門の定額制動画配信サービスで、日本では同年8月に提供を開始しました。

それまで日本のスポーツ有料放送はスカパー!などが主導していましたが、DAZNはJリーグの放映権を10年2100億円(後に変更) で独占取得したのを皮切りに、プロ野球やF1など、あらゆるスポーツを1つのプラットフォームに集約することで支持を集めました。

一方、Netflixは元はオンラインDVDレンタルサービスとしてスタートし、現在の動画配信サービスの開始は2007年です。日本上陸までに8年かかっており、2015年に国内での提供が始まりました。

Netflixは映画やドラマなどのコンテンツがメインですが、近年は新規会員獲得のためにライブスポーツ配信にも力を入れています。日本におけるWBC独占配信は、まさにこうした施策の一部でした。

したがって、スポーツ配信だけに限れば、DAZNに一日の長があったことになります。

2. 月額4200円は高すぎる?スポーツ配信主体だからこその難しさ

今回のDAZN炎上の大きな原因となっているのは「料金プランの分かりにくさ」でした。

年間契約縛りのプランが混在しており、かつ料金表記は「月額支払」となっていたため、誤認するユーザーが相次ぎ、批判が殺到することになりました。

NetflixとDAZNの料金プランは以下の通りです。WBC&W杯開催中に実施した割引キャンペーンの価格も併記しています。

2.1 Netflixの料金プラン

  • 広告付きスタンダード:月額890円/月間プラン→498円(ワールドベースボールクラシック応援キャンペーン適用時。現在は終了)
  • スタンダード:月額1590円/月間プラン→795円(ワールドベースボールクラシック応援キャンペーン適用時。現在は終了)
  • プレミアム:月額2290円/月間プラン→1145円

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出所:Netflix

出所:Netflix

2.2 DAZNの料金プラン

  • DAZN STANDARD:月額4200円/月間もしくは年間プラン→1980円(FIFAワールドカップ2026応援放題!キャンペーン適用時)
  • DAZN SOCCER:月額2600円/年間プラン(月々支払い)→980円(4月21日開始のキャンペーン適用時)※現在は新規受付を停止中
  • DAZN BASEBALL:月額2300円から/年間プラン(月々支払い)
  • DAZN GLOBAL:月額980円/月間プラン

炎上の原因となったDAZNの料金プラン表(現在、DAZN SOCCERは削除済み)3/4

炎上の原因となったDAZNの料金プラン表(現在、DAZN SOCCERは削除済み)

出所:DAZN

比較すると、Netflixの方が全体的に価格が抑えられており、体系もシンプルであることが分かります。プランの差は最高画質や広告の有無、同時視聴デバイス数で、視聴できるコンテンツは同じで、追加の課金要素がないのもユーザーフレンドリーといえます。

ただ、DAZNの価格にも根拠はあります。DAZNはスポーツ配信が主体であり、コンテンツを確保するためには、高騰する放映権料を運営団体に支払う必要があります。加えて、ライブ配信には完成したコンテンツを配信する以上にサーバー維持費や制作費がかかります。

そのため、ユーザーの契約料金も比例して高くなりますし、プランによって視聴できるコンテンツの差も生まれてしまいます。

また、目当てのスポーツのシーズンが終了すると、解約するユーザーも多いため、ユーザーのつなぎとめもNetflixより難しく、年間プランなどが必要になってきます。

一見、スポーツ配信主体のDAZNの方がスポーツの国際大会をフックにした新規会員獲得に優位があるように思えますが、逆にその構造が一般ユーザーの感覚との乖離を生んでしまいました。

逆に一時的な飛び道具的にWBCを使えたNetflixの方がスポーツ配信ならではの難しさに縛られず、うまく立ち回ることができたというわけです。

3. 運営団体のスタンスが異なるWBC配信とW杯配信

加えて、「NetflixのWBC独占配信」と「DAZNのW杯全試合配信」を比較する上で、各大会の運営団体や背景も無視することはできません。

WBCはアメリカのメジャーリーグ(MLB)と選手会が出資する純粋な営利法人であり、「地上波放送がなくなっても、高いお金を出してくれるならそちらを優先する」というスタンスでした。

Netflixは前回比の約5倍(150億円規模)とも言われる放映権料を受け入れることで、テレビ局による地上波生中継を排し、「独占生配信」という異例のアドバンテージを獲得しました。

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出所:Netflix

出所:Netflix

一方、FIFAはサッカーの国際統括団体であり、建前としても「サッカーを世界に普及させること」を理念に掲げる非営利団体です。

近年は商業主義が批判されることもありますが、「国の重要なスポーツイベントは、国民が無料で観られる環境になければならない」という思想(一部の国では法的な無料放送義務)が根強く、今大会でもNHKや民放キー局による地上波放送が残ることになりました。

そのため、日本国内ではテレビ局が地上波・BSでの放送権を分け合う形で確保し、DAZNが全104試合のデジタル配信権を獲得するという座組みが採用されました。

ここで特筆すべきは、デジタル配信を担うDAZNが、日本戦や決勝戦などの注目試合に関しては、有料契約なしで視聴できる「無料ライブ配信」を自ら実施している点です。

つまり、日本戦だけが目当てのライトユーザーは、地上波放送だけでなく「DAZNの無料枠」にも流れてしまうため、有料プランへの誘導が極めて難しい構造になっていました。

結果として、一部のコアなサッカーファンから高騰する放映権料の元を取る(資金を回収する)しかなく、それが今回の複雑かつ強引な年間縛りプランの提示と、その後の炎上へとつながってしまった背景が透けて見えます。

4. 「明朗会計で良かった」「WBC終了後も楽しんでいる」の声

WBCが開催されていた当時を振り返ると、Netflixにも賛否両論の声が上がっていました。

国民的行事を無料で視聴できないことやキャンペーン適用時期、適用されるプランや決済方法の制約など、細かい指摘は多くありましたが、今回のDAZNの問題と比べると、誤解による金銭的なダメージは少なく、公式が謝罪や対応を迫られるものはありませんでした。

WBC終了後には、大会期間中に1日の新規登録者が過去最大になったことや国内ユーザー数が約1.3倍に増加したというデータも明らかになっており、決算説明会でテッド・サランドスCEOも「WBCは大成功だった」とコメントしています。

SNSでもDAZNの問題と絡めて、

  • 「今思えばNetflixは明朗会計で良かった」
  • 「なんだかんだWBC終了後も楽しんでいる」

といった投稿が見受けられ、結果的に「Netflixの再評価」につながっています。

NetflixとDAZNの状況にはサービスの構造や運営団体との取り決めなどで明確な差があったわけですが、もちろん今回の炎上が「避けようがないものだった」と擁護するつもりはありません。

そもそもDAZNの年間プラン縛りは従来から評判が悪く、DAZN BASEBALLなど他のプランのユーザーからも「誤解して契約した」という声は以前からありました。今回の炎上は顧客の声を軽視してきたツケが最悪のタイミングで回ってきてしまったといえます。

新規ユーザー獲得につなげるつもりが、想定外の企業イメージダウンを招いてしまったDAZN。今後の信頼回復に向けて、さらなる抜本的な見直しができるのか。W杯の終了後も、DAZNの真価と存在意義が問われる厳しい局面は続きそうです。

参考資料

大蔵 大輔