AIブームなどを背景に、力強い上昇を続けている米国株式市場。連日のように最高値を更新するニュースが報じられ、多くの投資家が市場の強気相場を確信しています。しかし一方で、米国最大の金融機関であるJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは「現在の価格では株も長期国債も買わない」と異例の警告を発しています。一体なぜ、これほどまでに好調な相場の裏で、金融のプロは「市場がリスクを過小評価している」と警鐘を鳴らすのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が、金利と株価の関係メカニズムを分析し、相場好調の裏に潜むリスクの正体を解説します。

1. この記事のポイント

  •  米国の信用買い残は1.5兆ドルを超えて過去最高水準にあり、株価下落時のリスクを高めている
  •  将来の不況を織り込む「逆イールド」は解消したものの、再逆転リスクを孕む特殊な形状にある
  •  30年国債利回りが5%を超える中、株式から債券へ資金を移す「アセットアロケーション」の変化が起きる可能性がある
  •  バブル相場は「最後が一番上がる」特徴を持つが、初心者は積立投資の徹底が王道となる

2. 株価上昇の裏側:過去最高水準の「信用買い残」が意味するもの

株式市場が好調なとき、多くの投資家は「もっと利益を出したい」と考えます。そこで利用されるのが「信用取引」です。信用取引とは、手持ちの資金や株式を担保にして、証券会社からお金を借りて投資を行う仕組みです。これを利用すれば、自己資金以上の金額を投資する「レバレッジ(てこの原理)」を効かせることができます。

相場が右肩上がりの局面では、レバレッジをかけて株を買う「信用買い」が増加する傾向にあります。しかし、この信用買いの増加こそが、市場の脆弱性(打たれ弱さ)を生み出す火薬となります。

FINRA(米国金融業規制機構)の公式データによると、2026年6月時点の米国の信用買い残(Margin Debt)は、約1.502兆ドル(前月比+6.1%)に達しました。これは1997年以来、354ヶ月間で過去最高となる極めて高い水準です。

信用買い残(マージンデット)とS&P500の推移1/3

信用買い残(マージンデット)とS&P500の推移

出所:FINRA「Margin Statistics」・multpl.com(S&P500)を基にイズミダイズム作成

インタビュワーから、過去の株価指数と信用買い残のグラフの形が非常に似ているという指摘を受けると、泉田氏はこの相関関係の背景にある構造を次のように解説します。

「今の株式市場って過去の水準とも全然違うし、何がそれを支えているかというと、莫大な信用取引、特に信用買いのお金によって支えられているというのがわかるかなと思います」

信用買いが膨らんでいる状態は、相場が下落に転じた際に非常に危険な状態を引き起こします。なぜなら、株価が一定水準まで下がると、担保の価値が不足し、証券会社から追加の担保(追証=マージンコール)を求められるからです。追証を払えない投資家は、持っている株を強制的に売却(投げ売り)しなければなりません。この「売りが売りを呼ぶ」連鎖反応が起きることで、株価の暴落が加速するメカニズムが働くのです。

3. 景気後退のシグナル?「逆イールド」のメカニズムを読み解く

次に注目すべき指標が、国債の利回り(金利)です。通常、お金を借りる際の金利は、返済期間が短いほど低く、長いほど高くなります。10年後にお金を返す約束よりも、2年後に返す約束の方が、貸し倒れのリスク(貸し手にとっての不確実性)が低いためです。このように、短期金利よりも長期金利の方が高い状態を「順イールド」と呼びます。

しかし、経済の状況によってはこの関係が逆転し、短期金利が長期金利を上回る現象が起きます。これを「逆イールド」と呼びます。では、なぜこのような逆転現象が起きるのでしょうか。

景気が過熱しインフレが進むと、中央銀行はそれを抑え込むために政策金利(短期金利)を引き上げます。一方で、債券市場の投資家たちは「金利が上がれば、いずれ景気は冷え込み、将来的に不況がやってくる。不況になれば中央銀行は再び金利を下げるはずだ」と予測します。そのため、将来の金利低下を見越して、今のうちに高い利回りが確定する長期国債を買おうとする動きが強まります。長期国債が買われる(価格が上がる)と、その利回りは低下するため、結果として長期金利が短期金利を下回る逆転現象が起きるのです。

泉田氏は、このメカニズムについて債券市場の参加者の心理を次のように代弁します。

「将来に不況があって、その時には債券利率が下がっているだろうという予想のもとに長期金利が下がっている状況になるので、それが現れるということは、そもそも市場が警戒している状況なんですね」

S&P500と長短金利差(10年−2年)の推移2/3

S&P500と長短金利差(10年−2年)の推移

出所:FRED「T10Y2Y」・multpl.com(S&P500)を基にイズミダイズム作成

過去の歴史を振り返ると、2000年のITバブル崩壊前や、2008年のリーマンショック前にも逆イールドが発生しており、その後しばらくして株価が下落するパターンが見られました。

現在の状況を見ると、2026年7月20日時点での10年国債と2年国債の金利差は「+0.39%」となっています。つまり、2022年から続いていた逆イールド状態は一旦解消し、現在は浅いプラス圏(順イールド)にあります。しかし、これは山が高くなりきらない特殊な形状であり、再び逆イールドに転落する再逆転リスクを孕んだ局面だと言えます。

AI相場の熱狂によって株価は崩れずに上昇を続けてきましたが、ジェイミー・ダイモンCEOは、市場がこの金利の歪みという悪材料をまだ十分に織り込んでいないと警戒しているのです。ただし、泉田氏は歴史が常に繰り返すわけではないことも強調します。

「逆イールドが出たからといって、必ずしも暴落するわけでもないわけです」

あくまで一つのシグナルであり、絶対に株価が下がるという断定はできない点には留意が必要です。