5. 決算の裏に潜むリスクと、ホンダとの提携再開の思惑
最後に泉田氏は、元機関投資家ならではの深い洞察として、なぜ日産がこれほどまでに市場から疑われるような強気の「黒字計画」を出さざるを得なかったのか、その裏にある経営陣のインセンティブとリスクについて推測します。
「本当はもうちょっと保守的に出したかった、つまりは売上も利益ももしかして最終赤字の予想を会社も出したかったんじゃないかなって思う」
もし会社が正直に「今期も最終赤字です」という予想を出してしまった場合、会計上の重大なリスクが顕在化します。それが「繰延税金資産の取り崩し」や「のれんの減損」です。
※繰延税金資産:将来の法人税等の支払いを減額させる効果がある会計上の資産。将来黒字になることが前提だが、業績悪化が続くとこの資産の価値がないと見なされ(取り崩し)、損失がさらに膨らむ。
※のれんの減損:企業を買収した際に生じたブランド力などの無形価値(のれん)が、期待通りの収益を生まないと判断された場合に、その価値を切り下げる会計処理。
泉田氏は、赤字予想を出すことでこれらの会計処理を迫られ、さらに決算の数字がひどくなる事態を避けたかったのではないかと分析します。
また、もう一つの思惑として「ホンダとの提携」を挙げます。現在、日産はホンダとの協業を模索していますが、直近の決算でホンダが赤字だったのに対し、日産が黒字計画を提示することで、交渉におけるパワーバランスを少しでも有利にしたいという意図が働いている可能性があると指摘します。
投資家にとって、決算発表の数字を額面通りに受け取るだけでなく、その裏にある「なぜこの数字を作ってきたのか」という経営陣の心理やリスク構造を読み解く視点が、いかに重要であるかがわかります。
6. まとめ
日産自動車の最新決算と株価の動きについて、泉田氏の解説を交えて見てきました。会社がどれほど強気なV字回復のストーリーを描いても、株式市場の評価は非常にシビアです。
泉田氏が動画の最後に語った言葉が、現在の日産に対する市場のスタンスを的確に表しています。
「マーケットは半信半疑、営業利益も半分だからさ。会社予想の半信半疑の状態って感じかな」
日産の株価が本格的な上昇トレンドを描くためには、強気な計画を一つひとつの四半期決算で証明し、市場の「半信半疑」を「確信」に変えていくしかありません。投資家としては、今後の販売台数の推移やコスト削減の進捗を、冷静に見守るフェーズと言えるでしょう。
参考資料
- 日産自動車株式会社「2026年3月期 決算短信」(2026年5月13日)
- 日産自動車株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」(2026年5月13日)
- 日産自動車株式会社「2026年3月期 決算説明会 参考資料」(2026年5月13日)
- 日産自動車株式会社「BS・CFセグメント別補足資料」(2026年5月13日)
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Youtubeチャンネル「イズミダイズム」
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年2月21日