日本を代表する自動車メーカーであり、かつては「技術の日産」として世界に名を轟かせた日産自動車。

直近の決算発表では、前年の大幅な赤字から一転し、最終利益の黒字化や営業利益244.8%増という強気の「V字回復計画」を打ち出しました。

しかし、本来であればポジティブサプライズとなるはずのこの発表に対し、日産の株価はほとんど反応を示していません。

一体なぜ、黒字化の計画が出ているにもかかわらず、市場は冷ややかな視線を送っているのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が日産の最新決算を読み解き、株価の動きと会社からのメッセージを解説します。

この記事のポイント

  • 日産の株価は2018年以降、TOPIXに対して長期的なアンダーパフォーム(劣後)が続いている
  • 最新決算では大幅な赤字から一転、営業利益244.8%増の強気な「V字回復計画」を発表した
  • 利益改善の大部分はサプライヤーへの値下げ圧力など「モノづくりコスト」の削減に依存している
  • 市場のプロ(コンセンサス)は会社計画を信じておらず、営業利益予想は会社の半分に留まる
  • 第1四半期決算で計画通りの進捗(インライン)を示せるかが、株価反転の最大のトリガーとなる

1. 【日産自動車】10年近く続く株価低迷。ゴーン体制崩壊からの苦境

日産自動車の株価推移1/3

日産自動車の株価推移

出所:TradingView(日産自動車 7201 週足チャート・TOPIX対比)

日産自動車の現状を理解するためには、まず株式市場における長期的な立ち位置を把握する必要があります。

泉田氏は、2016年以降の日産自動車の株価推移と、日本株の代表的な指標であるTOPIX(東証株価指数)の動きを比較し、日産が置かれている厳しい状況を指摘します。

「大体2018年を境にアンダーパフォームして、その後盛り上がらずに横ばいの株価が続いて、TOPIXが上がっている中でずっと横ばっているからさらにアンダーパフォームしている。10年弱ぐらいパフォーマンスは苦しんでいますね」

※アンダーパフォーム:基準となる指標(ここではTOPIX)よりも運用成績が下回ること。

この株価低迷の背景には、経営トップの交代劇が大きく影を落としています。2017年まで続いたカルロス・ゴーン体制が崩壊し、その後を引き継いだ西川廣人体制の時代から、株価は明確な下落トレンドを描き始めました。

インタビュワーも指摘するように、経営陣の混乱やガバナンスへの不透明感が、投資家の信頼を長期にわたって損ねてきた歴史があります。

投資家にとっての意味は明確です。長年にわたって市場の期待を裏切ってきた銘柄に対して、株式市場は非常に厳しい目線を向けています。

少々の良いニュースが出た程度では、過去のトラウマから「本当に大丈夫なのか」という疑念が先行し、株価が素直に上昇しにくい構造が出来上がっているのです。

【動画で解説】日産自動車の株価はなぜ上がらない?元機関投資家が解説

2. 厳しい着地となった最新決算と、強気の「V字回復」計画

長きにわたる低迷から抜け出そうともがく日産自動車ですが、直近の決算実績は非常に厳しいものでした。

実績を見ると、売上高は12兆79億円(前年比4.9%減)、本業の儲けを示す営業利益は580億円(同16.9%減)、そして親会社株主に帰属する当期純損失は5,331億円という大幅な赤字に着地しました。

なお、経常利益が前年比99.5%減と大きくブレていますが、泉田氏によれば、これは持分法投資損益(出資している関連会社の業績が自社の利益に反映される仕組み)の影響が大きいため、実態を読み解く上では注意が必要とのことです。

このように「減収・減益・最終赤字」という苦しい着地となった一方で、市場を驚かせたのは同時に発表された今期の会社計画です。

会社側は、売上高13兆円(同8.3%増)、営業利益2,000億円(同244.8%増)、そして純利益200億円の黒字転換という、まさに「V字回復」の絵を描いてみせました。

この強気な計画の根拠について、泉田氏は自動車メーカーのビジネスの基本に立ち返って解説します。

「一番当然ながら大事なのは販売台数。(中略)トヨタの時もおっしゃってましたよね、もう台数かける単価なんで、売上は当たり前なんですけども」

会社計画の前提となるグローバル販売台数を見ると、前期は日本でマイナス13.5%、北米は微減、欧州でマイナス9.7%と軒並み苦戦していました。

しかし今期の計画では、日本で7.9%増、北米で2.2%増、中国で8.7%増と、主要地域すべてでプラス成長を織り込んでいます。

投資家にとって、この「前提」をどう評価するかが最大の焦点となります。前期にすべての地域でマイナス成長だった企業が、いきなり全地域でプラス成長に転じるというシナリオは、果たして現実的なのでしょうか。

この疑問が、後の株価の動きを読み解く重要な鍵となります。

【動画で解説】日産自動車の株価はなぜ上がらない?元機関投資家が解説

3. 利益を押し上げる「モノづくりコスト」と「販売パフォーマンス」のハードル

26年度営業利益増減分析ウォーターフォール2/3

26年度営業利益増減分析ウォーターフォール

出所:日産自動車「2026年3月期 決算説明会資料」p.9(2026年5月13日)

では、日産は具体的にどうやって営業利益を580億円から2,000億円へと引き上げるつもりなのでしょうか。泉田氏は、決算説明会資料の「営業利益増減分析(ウォーターフォールチャート)」に注目し、その内訳を紐解きます。

※ウォーターフォールチャート:滝のように階段状に数値を増減させ、最終的な結果がどのように構成されているかを視覚的に示すグラフ。

会社が掲げる増益の最大要因は「モノづくりコスト」の改善で、なんとプラス3,400億円を見込んでいます。しかし、その中身を見ると手放しでは喜べない実態が浮かび上がります。3,400億円のうち、実に2,150億円が「購買」によるコスト削減なのです。

泉田氏はこの点について、部品メーカーなどのサプライヤーに対する値下げ圧力が背景にあると分析し、業界のガリバーであるトヨタ自動車との姿勢の違いを指摘します。

「忙しくなった上に安くなる。結構きついよね。だからトヨタは部品メーカーとかそういう風なサプライヤーも含めてのバリューチェーンっていうところを大切にしてる」

自社内でのコスト削減努力だけでなく、外部のサプライヤーにしわ寄せがいくような計画に対して、泉田氏は「この計画通り行くのかなというのは1個ありますよね」と懸念を示します。

さらに、新しい車を生み出す源泉である「研究開発費」まで削減(プラス150億円の増益要因)している点も、将来の競争力という観点から見逃せないポイントです。

もう一つの大きな増益要因が「販売パフォーマンス」のプラス1,550億円です。これは、より単価の高い車を売る(台数構成でプラス950億円)、あるいは値上げをする(価格改定でプラス600億円)ことで達成されます。

しかし、これも先述した「全地域で販売台数を伸ばす」という強気な前提がクリアできなければ、絵に描いた餅に終わってしまいます。

読者にとっての意味は、利益が急回復する「中身」の質です。画期的な新技術や大ヒット車種による増益ではなく、サプライヤーへの厳しいコストカットや、達成ハードルの高い販売計画に依存している構造が、投資家の警戒感を解けない理由となっています。

4. 市場はなぜ半信半疑なのか?コンセンサスとの乖離

会社計画 vs IFISコンセンサスの対比3/3

会社計画 vs IFISコンセンサスの対比

出所:日産自動車「2026年3月期 決算説明会資料」およびIFISコンセンサスを基にイズミダイズム作成

大幅な黒字化計画を発表したにもかかわらず、なぜ日産の株価は力強く上昇しないのでしょうか。泉田氏は、株式市場における「コンセンサス」の存在を挙げ、市場のリアルな評価を浮き彫りにします。

会社側は売上高13兆円(8.3%増)を計画していますが、IFISコンセンサスでは売上高は3.5%程度の増加に留まると予測されています。

さらに決定的な違いが利益面です。会社が営業利益2,000億円を掲げる一方で、コンセンサスは1,070億円と、会社の計画のほぼ半分しか見込んでいません。

純利益に至っては、会社が200億円の黒字を主張しているのに対し、コンセンサスは「赤字継続」を予想しています。

インタビュワーも「会社計画とコンセンサスがここまでずれているのは珍しいのでは?」と疑問を呈しますが、これこそが株価が反応しない最大の理由です。

株式市場は会社の発表した数字をそのまま信じているわけではなく、アナリストたちの冷静な分析に基づくコンセンサスを基準に株価を形成しているのです。

では、今後日産の株価が上昇に転じるための条件(反転トリガー)は何でしょうか。泉田氏は、今後の四半期決算の進捗が鍵を握ると解説します。

「まだこの段階で会社の計画は信用してないんで、第1四半期終わって『あれ、やっぱり会社の言う通り前提正しかったな』みたいな感じになってくると、多分予想も2,000億にまた近づいてくる」

もし第1四半期の決算発表で、会社が掲げた強気な前提通りに販売が進んでいること(インライン)が証明されれば、市場は「日産の計画は本物だった」と評価を改めます。

コンセンサスが会社計画にサヤ寄せしていく過程で、株価は大きなポジティブサプライズとして上昇する可能性があるのです。

【動画で解説】日産自動車の株価はなぜ上がらない?元機関投資家が解説

5. 決算の裏に潜むリスクと、ホンダとの提携再開の思惑

最後に泉田氏は、元機関投資家ならではの深い洞察として、なぜ日産がこれほどまでに市場から疑われるような強気の「黒字計画」を出さざるを得なかったのか、その裏にある経営陣のインセンティブとリスクについて推測します。

「本当はもうちょっと保守的に出したかった、つまりは売上も利益ももしかして最終赤字の予想を会社も出したかったんじゃないかなって思う」

もし会社が正直に「今期も最終赤字です」という予想を出してしまった場合、会計上の重大なリスクが顕在化します。それが「繰延税金資産の取り崩し」や「のれんの減損」です。

※繰延税金資産:将来の法人税等の支払いを減額させる効果がある会計上の資産。将来黒字になることが前提だが、業績悪化が続くとこの資産の価値がないと見なされ(取り崩し)、損失がさらに膨らむ。

※のれんの減損:企業を買収した際に生じたブランド力などの無形価値(のれん)が、期待通りの収益を生まないと判断された場合に、その価値を切り下げる会計処理。

泉田氏は、赤字予想を出すことでこれらの会計処理を迫られ、さらに決算の数字がひどくなる事態を避けたかったのではないかと分析します。

また、もう一つの思惑として「ホンダとの提携」を挙げます。現在、日産はホンダとの協業を模索していますが、直近の決算でホンダが赤字だったのに対し、日産が黒字計画を提示することで、交渉におけるパワーバランスを少しでも有利にしたいという意図が働いている可能性があると指摘します。

投資家にとって、決算発表の数字を額面通りに受け取るだけでなく、その裏にある「なぜこの数字を作ってきたのか」という経営陣の心理やリスク構造を読み解く視点が、いかに重要であるかがわかります。

6. まとめ

日産自動車の最新決算と株価の動きについて、泉田氏の解説を交えて見てきました。会社がどれほど強気なV字回復のストーリーを描いても、株式市場の評価は非常にシビアです。

泉田氏が動画の最後に語った言葉が、現在の日産に対する市場のスタンスを的確に表しています。

「マーケットは半信半疑、営業利益も半分だからさ。会社予想の半信半疑の状態って感じかな」

日産の株価が本格的な上昇トレンドを描くためには、強気な計画を一つひとつの四半期決算で証明し、市場の「半信半疑」を「確信」に変えていくしかありません。投資家としては、今後の販売台数の推移やコスト削減の進捗を、冷静に見守るフェーズと言えるでしょう。

参考資料

  • 日産自動車株式会社「2026年3月期 決算短信」(2026年5月13日)
  • 日産自動車株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」(2026年5月13日)
  • 日産自動車株式会社「2026年3月期 決算説明会 参考資料」(2026年5月13日)
  • 日産自動車株式会社「BS・CFセグメント別補足資料」(2026年5月13日)
  • Youtubeチャンネル「イズミダイズム」