2. 厳しい着地となった最新決算と、強気の「V字回復」計画

長きにわたる低迷から抜け出そうともがく日産自動車ですが、直近の決算実績は非常に厳しいものでした。

実績を見ると、売上高は12兆79億円(前年比4.9%減)、本業の儲けを示す営業利益は580億円(同16.9%減)、そして親会社株主に帰属する当期純損失は5,331億円という大幅な赤字に着地しました。

なお、経常利益が前年比99.5%減と大きくブレていますが、泉田氏によれば、これは持分法投資損益(出資している関連会社の業績が自社の利益に反映される仕組み)の影響が大きいため、実態を読み解く上では注意が必要とのことです。

このように「減収・減益・最終赤字」という苦しい着地となった一方で、市場を驚かせたのは同時に発表された今期の会社計画です。

会社側は、売上高13兆円(同8.3%増)、営業利益2,000億円(同244.8%増)、そして純利益200億円の黒字転換という、まさに「V字回復」の絵を描いてみせました。

この強気な計画の根拠について、泉田氏は自動車メーカーのビジネスの基本に立ち返って解説します。

「一番当然ながら大事なのは販売台数。(中略)トヨタの時もおっしゃってましたよね、もう台数かける単価なんで、売上は当たり前なんですけども」

会社計画の前提となるグローバル販売台数を見ると、前期は日本でマイナス13.5%、北米は微減、欧州でマイナス9.7%と軒並み苦戦していました。

しかし今期の計画では、日本で7.9%増、北米で2.2%増、中国で8.7%増と、主要地域すべてでプラス成長を織り込んでいます。

投資家にとって、この「前提」をどう評価するかが最大の焦点となります。前期にすべての地域でマイナス成長だった企業が、いきなり全地域でプラス成長に転じるというシナリオは、果たして現実的なのでしょうか。

この疑問が、後の株価の動きを読み解く重要な鍵となります。

【動画で解説】日産自動車の株価はなぜ上がらない?元機関投資家が解説

3. 利益を押し上げる「モノづくりコスト」と「販売パフォーマンス」のハードル

26年度営業利益増減分析ウォーターフォール2/3

26年度営業利益増減分析ウォーターフォール

出所:日産自動車「2026年3月期 決算説明会資料」p.9(2026年5月13日)

では、日産は具体的にどうやって営業利益を580億円から2,000億円へと引き上げるつもりなのでしょうか。泉田氏は、決算説明会資料の「営業利益増減分析(ウォーターフォールチャート)」に注目し、その内訳を紐解きます。

※ウォーターフォールチャート:滝のように階段状に数値を増減させ、最終的な結果がどのように構成されているかを視覚的に示すグラフ。

会社が掲げる増益の最大要因は「モノづくりコスト」の改善で、なんとプラス3,400億円を見込んでいます。しかし、その中身を見ると手放しでは喜べない実態が浮かび上がります。3,400億円のうち、実に2,150億円が「購買」によるコスト削減なのです。

泉田氏はこの点について、部品メーカーなどのサプライヤーに対する値下げ圧力が背景にあると分析し、業界のガリバーであるトヨタ自動車との姿勢の違いを指摘します。

「忙しくなった上に安くなる。結構きついよね。だからトヨタは部品メーカーとかそういう風なサプライヤーも含めてのバリューチェーンっていうところを大切にしてる」

自社内でのコスト削減努力だけでなく、外部のサプライヤーにしわ寄せがいくような計画に対して、泉田氏は「この計画通り行くのかなというのは1個ありますよね」と懸念を示します。

さらに、新しい車を生み出す源泉である「研究開発費」まで削減(プラス150億円の増益要因)している点も、将来の競争力という観点から見逃せないポイントです。

もう一つの大きな増益要因が「販売パフォーマンス」のプラス1,550億円です。これは、より単価の高い車を売る(台数構成でプラス950億円)、あるいは値上げをする(価格改定でプラス600億円)ことで達成されます。

しかし、これも先述した「全地域で販売台数を伸ばす」という強気な前提がクリアできなければ、絵に描いた餅に終わってしまいます。

読者にとっての意味は、利益が急回復する「中身」の質です。画期的な新技術や大ヒット車種による増益ではなく、サプライヤーへの厳しいコストカットや、達成ハードルの高い販売計画に依存している構造が、投資家の警戒感を解けない理由となっています。