三菱重工業の株価は「3年間で9.5倍」に値上がりしました。2026年2月末からの下落率は3.27%まで収束し、イラン紛争に起因する下落も落ち着きつつあります。

相場が正常化に向かうなら、改めてテーマの物色が強まるでしょう。三菱重工業は複数の国策に絡んでおり、投資家の関心が向かいやすい銘柄の1つです。

とはいえ、三菱重工業の株価は大きく上昇してきました。今後の上昇余地はあるのでしょうか。今回は三菱重工業(7011)を取り上げ、同社の株価バリュエーションを同業と比較し解説します。

※記事中で記載の株価は全て終値となっています。
※決算情報・業績等は執筆時点での情報にもとづいています。
※株式分割の影響は全て遡及修正して株価を調整しています。

1. 三菱重工業(7011)国策2大テーマ「防衛」「エネルギー」の有力株

まずは国策との関係を整理しましょう。三菱重工業は多くの国策に絡みますが、ここでは「防衛」と「エネルギー」に焦点を当てます。

1.1 防衛テーマの筆頭 契約額は他社を圧倒

政府は防衛力を強化する方針です。防衛力整備計画(2023年度~2027年度)では43兆円を投じる見通しで、従来の中期防衛力整備計画(2019年度~2023年度)の27兆4700億円から大幅に引き上げられています。

防衛費の積み増しは三菱重工業に追い風です。同社は防衛装備庁との契約額が大きく、2024年度は2位の川崎重工業の2.3倍の受注を獲得しました。政府の防衛強化の受け皿として恩恵が期待されます。

防衛装備庁の契約額 上位5社(2024年度)
・三菱重工業:1兆4567億円
・川崎重工業:6383億円
・三菱電機:4956億円
・日本電気(NEC):3117億円
・富士通:1736億円

出所:防衛装備庁「中央調達における令和6年度調達実績」

1.2 ガスタービン世界1位 AI普及による電力需要が商機に

政府が注力するエネルギー政策の1つがガスタービンです。火力発電のなかでも二酸化炭素などの排出が少なく、現実的な低炭素政策として拡大を図っています。

三菱重工業は防衛向けが強いイメージですが、実はガスタービン事業を含むエナジー事業が主力です。2026年3月期は連結事業利益(非継続事業を除く)の58.5%をエナジー事業が占める想定となっています。

セグメント事業利益(2026年3月期予想)
・エナジー:2400億円
・プラント・インフラ:800億円
・物流・冷熱・ドライブシステム:200億円
・航空・防衛・宇宙:1400億円
・(参考)連結事業利益:4100億円

出所:三菱重工業株式会社「2025年度第3四半期決算説明資料」

国内だけでなく、世界でもガスタービンの増設が予想されています。電力需要はAIの普及に伴い高まっており、環境負荷が比較的小さい天然ガス発電が選好されやすい状況です。

ガスタービンにおける三菱重工業のシェアはトップクラスであり、出力ベースで2022年に世界1位となりました。業界首位の三菱重工業は、世界の発電ニーズを受け止める立場にあります。

2. 三菱重工業(7011)業績は6期連続増益へ。一方でPER「割安感」は小さい

国策との関連を整理できたところで、業績と株価のバリュエーションを押さえましょう。

2.1 6期連続の事業増益が視野

三菱重工業の業績は順調です。受注高は2024年3月期以降に大幅に増加しており、利益の水準も切り上がっています。2026年3月期も増益の計画であり、達成なら事業増益は6期連続となります。

 

三菱重工業の業績(2018年3月期~2026年3月期)1/4

三菱重工業の業績(2018年3月期~2026年3月期)

出所:三菱重工業株式会社「決算短信」より著者作成

2.2 PERは過去7年で「最高水準」

注意したいのはバリュエーションです。三菱重工業の予想PERは62.68倍に達しますが、これは過去7年間で最も高い水準にあります(2026年4月8日終値)。
 

三菱重工業の予想PERの推移2/4

三菱重工業の予想PERの推移

出所:三菱重工業株式会社「決算短信」より著者作成

2.3 同業と比べても「割安感」は小さい

同業の川崎重工業やIHIと比べても、三菱重工業の高いバリュエーションは際立ちます。業績が良いとはいえ、市場の期待も高い状態であることは認識しておくべきでしょう。

主な重工業セクターの株価指標(2026年4月8日終値)3/4

主な重工業セクターの株価指標(2026年4月8日終値)

出所:著者作成

3. 三菱重工業(7011)なぜ「優待なし・低配当」でも買われるのか?注目の「稼ぐ力」とは?

高いバリュエーションは懸念されるものの、裏を返せば投資家の期待が厚いということです。株主優待を実施せず、配当利回りも低水準の三菱重工業は、なぜ投資家から支持されているのでしょうか。

3.1 外国人株主が重視するのは「優待」より「資本効率」

まずは株主優待です。株主構成から考えると、三菱重工業において株主優待を実施しないことは株価の下落に結びつきづらいといえます。

三菱重工業は株主の外国人比率が高く、個人株主は少数派です。株主優待は一般に国内の個人を対象とするため、主要な株主である外国人には響きづらく、株主優待を実施しないことは特段の売り材料にはなりづらいと考えられます。

株主の構成比(2025年3月末)
・外国法人等:42.30%
・金融機関:29.22%
・個人その他:22.52%
・その他の法人:4.04%
・金融商品取引業者:1.89%

出所:三菱重工業株式会社「2024年度有価証券報告書」

3.2 ROE12%目標への期待。2027年3月期見通しが最大の焦点

次に配当利回りです。三菱重工業は資本効率が高く、投資家は低い配当利回りを許容しやすいと考えられます。

まず、株式の価値は企業の利益に裏付けされています。配当金はそれが社外に出たものであり、仮に利益が社内に留め置かれていても、その内部留保は株主のものであることに変わりありません。

つまり、配当の多寡は企業の価値を直接左右するものではないということで、重要なのは「預けた資本をどれだけ効率よく増やしているか」という点です。

その目安の1つがROE(自己資本利益率)です。株主の持ち分である自己資本に対し、当期の利益がどれだけ出ているかを測ります。ROEが高いほど、株主の持ち分で多くの利益を稼ぎ出しているということを表します。

そして、三菱重工業はROEの改善が進んでいます。2024年3月期からは2ケタまで向上しており、目安の8%を上回る状況です。これは株価の上昇が強まった時期ともおおむね一致します。 

三菱重工業のROE(2018年3月期~2026年3月期)4/4

三菱重工業のROE(2018年3月期~2026年3月期)

出所:三菱重工業株式会社「決算短信」より著者作成

当面の焦点は2027年3月期の業績見通しです。三菱重工業は中期経営計画において2027年3月期にROEで12%以上を目標としています。これを下振れるようだと、株価は調整する展開もあるでしょう。

業績見通しは前期の本決算で明かされることが一般的です。2026年3月期の本決算は5月12日に公表を予定しており、2027年3月期の見通しにも言及されると考えられます。

免責事項

  • 投資判断は、最新の決算資料や市場動向をご確認のうえ、ご自身の責任で行ってください。
    本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の株式の売買を推奨するものではありません。
  • 株主優待の内容や条件は変更される場合があります。詳細は必ず公式サイトでご確認ください。

参考資料

若山 卓也