物価上昇が続くなか、家計のあり方や将来の資金計画を改めて見直す動きが広がっています。
2026年3月の消費者物価指数を見ると、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は前年同月比で2.4%上昇しました。日常の買い物にかかる負担が増しているだけでなく、手元の資金が持つ実質的な価値も徐々に目減りしている状況です。
総合指数:112.7(2020年=100)
- 前年同月比:1.5% 上昇
- 前月比(季節調整値):0.4% 上昇
生鮮食品を除く総合:112.1
- 前年同月比:1.8% 上昇
- 前月比(季節調整値):0.5% 上昇
生鮮食品・エネルギーを除く総合:111.9
- 前年同月比:2.4% 上昇
- 前月比(季節調整値):0.2% 上昇
物価が上がる状況が続く現在、かつて話題となった「老後2000万円問題」についても、さらに多くの資金を想定しておく必要がある段階に入りつつあるといえるでしょう。
とりわけ、将来の生活を自分一人で支えていく「おひとりさま」にとって、資産づくりは避けて通れないテーマです。本記事では最新の統計資料をもとに、単身世帯の貯蓄の実態を年代ごとに整理していきます。
一部の高額資産層によって押し上げられやすい「平均値」ではなく、より実情に近い水準を示す「中央値」に着目しながら、今どの位置にいるのかを確認していきます。
1. 【おひとりさま】30歳代〜60歳代の「貯蓄中央値」から分かる現実とは?
まずは、最新の単身世帯の貯蓄状況について、J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとに確認していきます。
ここでいう金融資産とは、預貯金、生命保険、株式、投資信託などを含む資産を指します。日常の支払いに使うための口座残高などは、この集計には含まれていません。
1.1 【一覧表】30歳代・おひとりさまの貯蓄額(平均・中央値)
- 金融資産非保有:32.3%
- 100万円未満:14.2%
- 100~200万円未満:14.2%
- 200~300万円未満:4.9%
- 300~400万円未満:4.3%
- 400~500万円未満:2.8%
- 500~700万円未満:5.5%
- 700~1000万円未満:3.1%
- 1000~1500万円未満:5.5%
- 1500~2000万円未満:4.3%
- 2000~3000万円未満:2.5%
- 3000万円以上:3.4%
- 無回答:3.1%
◆平均と中央値
- 平均:501万円
- 中央値:100万円
30歳代の貯蓄額は平均501万円ですが、中央値は100万円となっており、両者にはおよそ5倍の差があります。
金融資産を持っていない世帯(32.3%)と100万円未満(14.2%)を合計すると、約半数が「貯蓄100万円以下」の水準にとどまります。一方で、3000万円以上の資産を持つ層(3.4%)も存在しており、資産状況のばらつきが大きいことが読み取れます。
1.2 【一覧表】40歳代・おひとりさまの貯蓄額(平均・中央値)
- 金融資産非保有:32.1%
- 100万円未満:15.1%
- 100~200万円未満:7.1%
- 200~300万円未満:5.9%
- 300~400万円未満:4.3%
- 400~500万円未満:2.2%
- 500~700万円未満:6.2%
- 700~1000万円未満:4.6%
- 1000~1500万円未満:6.2%
- 1500~2000万円未満:1.2%
- 2000~3000万円未満:2.8%
- 3000万円以上:9.9%
- 無回答:2.5%
◆平均と中央値
- 平均:859万円
- 中央値:100万円
40歳代では平均貯蓄額が859万円となっていますが、中央値は30歳代と同じ100万円です。平均との差は8倍以上に広がり、資産格差がさらに大きくなっている様子がうかがえます。
金融資産を持たない世帯(32.1%)と100万円未満(15.1%)を合わせると47.2%となる一方、3000万円以上を保有する層は9.9%に達しており、約1割を占めています。
1.3 【一覧表】50歳代・おひとりさまの貯蓄額(平均・中央値)
- 金融資産非保有:35.2%
- 100万円未満:10.1%
- 100~200万円未満:7.4%
- 200~300万円未満:4.6%
- 300~400万円未満:2.7%
- 400~500万円未満:3.3%
- 500~700万円未満:4.9%
- 700~1000万円未満:4.6%
- 1000~1500万円未満:6.0%
- 1500~2000万円未満:3.3%
- 2000~3000万円未満:5.5%
- 3000万円以上:10.4%
- 無回答:1.9%
◆平均と中央値
- 平均:999万円
- 中央値:120万円
50歳代では平均999万円、中央値は120万円となっています。40歳代と比べると平均は約140万円増えていますが、中央値は20万円の上昇にとどまっています。
金融資産を持たない世帯(35.2%)と100万円未満(10.1%)を合計すると依然として45%を超えている一方、3000万円以上の資産を保有する層も10.4%存在しています。
1.4 【一覧表】60歳代・おひとりさまの貯蓄額(平均・中央値)
- 金融資産非保有:30.4%
- 100万円未満:9.1%
- 100~200万円未満:4.3%
- 200~300万円未満:2.4%
- 300~400万円未満:4.5%
- 400~500万円未満:3.1%
- 500~700万円未満:6.0%
- 700~1000万円未満:4.8%
- 1000~1500万円未満:8.1%
- 1500~2000万円未満:4.1%
- 2000~3000万円未満:5.5%
- 3000万円以上:15.6%
- 無回答:2.2%
◆平均と中央値
- 平均:1364万円
- 中央値:300万円
60歳代では平均1364万円、中央値は300万円まで上昇しています。退職金の受け取りや相続などが資産増加の要因として考えられますが、平均との開きは依然として4倍以上あります。3000万円以上を保有する層(15.6%)が平均値を押し上げている構図です。
一方で、金融資産非保有(30.4%)と100万円未満(9.1%)を合わせると約4割に達しており、老後期に入っても資産状況のばらつきは続いています。
資産を取り崩して生活していく段階に入りつつある世代であるからこそ、資産寿命をどのように延ばしていくかが大きな課題となるでしょう。
2. 【おひとりさま】貯蓄傾向と単身世帯増加の現状
単身世帯の貯蓄データを詳しく見ていくと、平均値と中央値の差が示す資産状況の実態、そして単身高齢者の増加という社会的な変化が浮かび上がってきます。
今後の老後準備を考える際には、単に数字の大きさを見るだけでなく、その内側にある実態をどう読み取るかが重要になります。
2.1 貯蓄額は増えているように見えるが…中央値から分かる現実とは?
平均値だけを見ると、年齢が上がるにつれて貯蓄額は増えているように見えます。とくに50歳代から60歳代にかけて伸びが大きくなっている背景には、退職金の受け取りが影響していると考えられます。
しかし中央値に目を向けると印象は大きく変わります。60歳代に入るまで中央値は100万円台にとどまっており、平均値との差が大きいことが分かります。これは、一部の高額資産層が平均値を押し上げている一方で、多くの人はそれほど大きな貯蓄を持っていないことを示しています。
中央値も50歳代から60歳代にかけて上昇していますが、その伸びには退職金の影響が色濃く表れているとみられます。老後資金を考えるうえでは、現役時代の資産形成に加え、退職金をどのように受け取り、どのように活用するかまで含めた計画が重要になります。
2.2 単身高齢者は増加傾向に――これから求められる備え
こうした資産状況とあわせて注目したいのが、「おひとりさま」の増加です。内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、65歳以上で一人暮らしをしている人の割合は年々高まっており、高齢期を単身で過ごす人は今後も増えていくと見込まれています。
単身世帯の場合、配偶者の収入や年金に頼ることはできず、生活の基盤は自分自身の資産に大きく依存することになります。医療や介護といった将来のリスクについても、一人で備えておく必要があります。
そのため、積立投資や私的年金の活用、働き続けることによる収入の確保、生活費の見直しなど、複数の手段を組み合わせた備えが重要になります。平均値ではなく中央値を基準に自分の位置を把握し、早い段階から現実的な準備を進めていくことが、これからの老後を支える大きなポイントになるでしょう。
3. 【おひとりさま】老後に備えたい3つの資金リスク
配偶者や家族と家計を分担できない「おひとりさま」の場合、収入や支出の変化が家計に与える影響はより大きくなります。とくに高齢期は、年金収入を中心に生活するケースが多く、予期しない支出が家計を圧迫する可能性もあります。
ここでは、おひとりさま老後で特に意識しておきたい「3つの資金リスク」を整理します。
3.1 ①長生きによる「資産寿命」のリスク
人生100年時代といわれる現在、老後生活は想像以上に長く続く可能性があります。
とくに単身世帯では、生活費を支える収入源が公的年金に限られるケースも多く、貯蓄の取り崩しが早まると資産が想定より早く減ってしまうこともあります。
前章でご紹介したように平均寿命の伸びにより、退職後20年~30年以上の生活を想定する必要があるため、次のような点が重要になります。
- 貯蓄をどのようなペースで取り崩すか
- 長く働く選択肢を持つ
- 私的年金や資産運用など収入源を分散する
資産の「残高」だけでなく、「どれくらいの期間持たせられるか」という視点で考えることが重要です。
3.2 ②医療・介護費が一人に集中するリスク
高齢期に入ると、医療費や介護費といった支出が増える可能性があります。
夫婦世帯であれば家計を分担できますが、単身世帯の場合はこれらの費用を一人で負担する必要があります。また、病気や介護が必要になった場合、生活支援サービスを利用する機会も増えると考えられます。
将来の支出として想定される主なものには次のようなものがあります。
- 医療費(通院・入院など)
- 介護サービス利用料
- 生活支援サービス(家事代行など)
高齢期の支出は予測しにくい面もあるため、一定の余裕資金を確保しておくことが重要です。
3.3 ③認知症などによる「資産管理」のリスク
近年、高齢化の進展とともに認知症の人の数も増加しています。
2022年時点では、高齢者(65歳以上)における認知症の有病率は約12.3%、MCI(軽度認知障害)は約15.5%、合計で約28%にのぼると推計されています。
将来推計では、2040年には認知症を患う高齢者が約584万人、MCIが約613万人と見込まれており、認知機能低下を抱える高齢者がさらに増加する見通しです。
認知機能が低下すると、預貯金の管理や資産運用、契約手続きなどを自分で行うことが難しくなる可能性があります。家族と同居していない単身世帯では、資産管理のサポートが得にくい点も課題とされています。
そのため、老後に向けては資産形成だけでなく、将来の資産管理についても考えておくことが重要です。例えば、次のような制度や仕組みがあります。
- 成年後見制度
- 家族信託
- 見守りサービスや財産管理サービス
単身高齢者が増えるなか、資産を「つくる」「守る」だけでなく、「管理する仕組み」を準備しておくことも、これからの老後設計では重要な視点といえるでしょう。
4. まとめにかえて
物価上昇や少子高齢化が進むなか、老後に向けて一定の資産を準備しておきたいと考える人は少なくありません。ただ、
本記事で見てきたように、中央値に着目すると十分な貯蓄を持つ人ばかりではなく、資産状況には大きな差があるのが実情です。
そのため、まずは家計の状況を把握し、無理のない範囲で継続的に資産を積み上げていくことが重要になります。少額でも毎月積み立てを続けることで、長い時間をかけて資産形成の土台を築いていくことができます。
ある程度の余裕が生まれた段階で、資産の一部を運用に回すという選択肢も考えられるでしょう。資産運用には価格変動などのリスクが伴いますが、資金を効率よく増やす可能性があることや、「働いて得た収入だけに頼らず、お金にも働いてもらう」という考え方を取り入れられる点は特徴といえます。
一般に、年齢を重ねるにつれて大きなリスクを取りにくくなる傾向があります。また、高齢になってから新たに資産運用を始めることに不安を感じる人も少なくありません。
そのため、資産運用に関心がある場合は、現役世代のうちから少額で経験を重ねておくことが、将来の選択肢を広げることにつながります。
単身世帯の増加が見込まれるこれからの社会では、老後の生活を自分自身の資産で支える場面も増えていくでしょう。この機会に、自分の資産状況や将来の暮らし方を見つめ直し、長期的な視点で老後資金について考えてみることが大切です。






