4. ブランド戦略の最後の砦である日本市場

アイロボットが日本市場を再起の地として選んだ理由としては、ロボット掃除機市場におけるグローバルと日本の乖離があります。

米調査会社IDCが2025年9月3日に発表した家庭用清掃ロボット世界出荷台数ベースのメーカーシェア(25年1Q)はRoborockがトップ、それにエコバックス、ドリーミーテクノロジー、シャオミが続き、中国企業が独占しています。

「CES 2026」で発表された世界初の”脚輪型”ロボット掃除機「Saros Rover」。Roborockは技術面でも市場をリードしている3/3

出所:Roborock Technology

アイロボットは7.9%で5位となっており、これは2年前の23年1Qと比較すると10.0ポイント減少しています。

一方、日本ではアイロボットジャパンが示した数値にはありますが、25年実績で店頭マーケットシェアが63.1%となっており、全盛期から後退してはいるものの、グローバルと比較して高い水準にとどまっています。

こうした数字からも同社にとって、日本が「ロボット掃除機=ルンバ」というブランド戦略がもっとも成功している市場であり、再起するために死守しなければいけない聖域となっていることが分かります。

実際にSNSでルンバユーザーの声を拾ってみると「頑張ってほしい!」という応援コメントを多数発見することができました。海外企業であるにも関わらず、これだけの支持を得られていることは、アイロボットにとっては大きなプラス材料であるはずです。

ただ、日本市場においても中国企業の攻勢があることは見過ごせない点です。

グローバル市場でも躍進しているRoborockやエコバックスに加え、小型モデルではSwitchbotやAnkerが勢力を伸ばしつつあり、ブランドイメージだけで守り切れる市場ではなくなりつつあります。

5. 中国・欧米・米国市場における動きも加速

アイロボットは日本市場を再起の足がかりとしたい一方、中国・欧米・米国市場でも異なる戦略で動きを加速しています。

まず、中国市場ではこれまで展開していた高級ブランドを廃止し、PICEAの技術との掛け合わせによるブランドの再構築を目指しています。技術の最前線として、今後は中国がこれまで以上に開発を握ることになりそうです。

北米では日本以上に懸念されている「データセキュリティへの不信感」を取り除くため、iRobot Safe Corporationを設立。データへのアクセス権を物理的・法的に中国親会社から切り離すという異例の措置を講じています。

欧州市場ではスマートホーム製品の世界基準であるMatter規格への適応に向けて、取り組みを進めています。これまで独自のエコシステムにこだわってきましたが、今後はローカルで動くMatterに適応することでセキュリティへの不信感を払拭したい考えです。

正直、日本以外の地域の戦略は時間のかかるものであり、足元を固めてようやくブランド力の再生に着手できるという苦しい状況です。そのため、日本市場はその間も会社を延命させる資金を調達できるキャッシュエンジンとして、まさに生命線となります。

これまでもアイロボットはことあるごとに「日本市場を特別な市場」として持ち上げてきましたが、それはあくまで売上の観点からでした。今後は「日本で稼いだ利益が、米国での研究開発と欧州での信頼回復を支える」というグローバル再編計画の心臓部として、さらに「特別な市場」になっていきそうです。

参考資料

大蔵 大輔