退職準備の目標を達成するために

20-30代の人たちが60代後半になる時代は、総人口の4割が65歳以上になっていると推計されています。それは現在の高齢者やその次の世代の高齢者よりも厳しい時代を想起させます。そのために20-30代の人こそ、これまで以上に自助努力による退職後の生活の準備が必要となります。しかし、なかなか第一歩を踏み出せないのも理解できるところです。

その一歩目を踏み出すために、年齢ごとにどれくらいの資産を準備しておけば良いのかをわかりやすく示す、退職準備の「見える化」が求められます(『老後の生活資金、退職準備の「見える化」はなぜ必要か』参照)。

具体的な「見える化」の方法は、退職準備の必要額を金額で表示するのではなく、退職直前の年収に対する倍率である「年収倍率」で表しています。この方法なら、働き方や生活スタイルなどの多様性に、より柔軟に対応できるはずです。

その「年収倍率」を算出する方法は、これまで何度もコラムでお伝えしてきた「逆算の資産準備」と同じ考え方です。

退職後の生活で継続的に使っても枯渇しない引き出し額を、退職時点の資産額に対する比率で求めた「持続可能な引き出し率」と、その引き出し額を退職直前年収に対する比率として算出した「個人資産代替率」の2つから目標となる「年収倍率」を求めます。これが7倍でした(『老後の生活は公的年金が意外に支えてくれる』と『老後のための資産形成の目標を引き出し率から算出する』参照)。

しかもこの方法なら、若い人たちに、退職後という遠い将来ではなく、目先の目標に落とし込んで提示することもできます。たとえば、30歳でその時点の年収の1倍、40歳の時にはその時の年収の2倍が目標となります。これは20-30代にとってより身近な目標として、退職準備の「見える化」に効果があるはずです(『老後に備えるには、30歳で年収の1倍の退職準備を』参照)。

確定拠出年金の会社拠出分も含めて年収の16%を資産形成に

想定する退職年齢67歳で年収の7倍の資産を作り上げるという目標に対して、30歳の段階で年収の1倍が計画通りといえるためには、2つのことが必須となります。ひとつは毎年年収の16%を資産形成に回すこと、ふたつめは、その資産を資産運用し続けることです。

ところで年収、しかも税込みの年収の16%を資産形成に回すというのはかなり高い水準です。年収300万円の人であれば、年間48万円、月4万円を資産形成に回すということですから、「これは無理だ」と考える人も多いかも知れません。

でも、ちょっと考えてみてください。現状の生活のうえでさらに月4万円を資産形成として上乗せするというのではなく、現在行っている資産形成をしっかり見直して、総額で4万円にできるかどうかを考えるのです。

もちろん会社の提供している確定拠出年金に加入している場合には、会社が拠出している金額もこれに含めることができます。さらに既に財形貯蓄や持ち株会などをやっている人であれば、意外にかなりの水準まで資産形成に回しているのではないでしょうか。

次回は、想定する退職年齢で年収の7倍の資産を作り上げるという目標に対し、30歳の段階で年収の1倍が計画通りといえるため大切な2つ目のポイントである「資産運用を持続すること」についてまとめてみます。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史