日本の「持続可能引き出し率」は3.9%

資産運用といえば「長期投資」、「分散投資」、「時間分散」が大切だとよく言われており、多くの投資家が認識しています。しかし、出来上がった資産からの資金の引き出し方に関しては、あまり聞いたことがないという人が多いのではないでしょうか。これまで引き出し方に関して何度も紹介してきましたから、ぜひ下記の記事も一読していただければ幸いです。

さて「人生の最後まで資産運用を続けたい」とする視点に立つと、世界的によく使われているのが「持続可能な引き出し率」の考え方です。これは退職時点の残高に対する一定の比率で計算された金額を、その後毎年同じ金額で引き出していくというものです。

定額の引き出しですから、運用する市場の価格変動で元本が想定以上に枯渇するリスク、いわゆる「収益率配列のリスク」を内包しています。しかしそのリスクは、引き出し額を少なくしたり、リスクの低い運用をしたりすれば低減できることから、「過去の運用パフォーマンスを使ったシミュレーションから、一定の確率内で資産が持続する引き出し額を算出する」ことができます。

この方式で、1990年から2017年のデータを使って算出された日本の「持続可能な引き出し率」は、90%の確率で枯渇しないという前提を元に3.9%と算出されました。

「持続可能な引き出し率」と「個人資産代替率」を使って資産形成のゴールを算出する

これを使って、退職までの資産をどれくらい作り上げれば良いかを計算することができます。まず、『老後の生活は公的年金が意外に支えてくれる』で紹介した「個人資産代替率」を使って退職後の生活のための自助努力で用意する資金総額を計算してみると、

自助努力の生活必要総額 = 退職直前年収 × 個人資産代替率 × 退職後生活年数

となります。退職直前年収に「個人資産代替率」を掛けることで年間の生活費が算出できることから、これに年数を掛ければ総額が出るということです。

一方でこれを「持続可能な引き出し率」を使って計算すると、

自助努力の生活必要総額 = 退職時点の資産額 × 持続可能な引き出し率 × 退職後生活年数

退職後の年間の生活費は引き出し額として表すこともできるということです。

さらにこの2つの等式を使って「自助努力の生活必要額」と「退職後生活年数」取り除くと、

退職時点の資産額/退職直前年収 = 個人資産代替率/持続可能な引き出し率

となります。

左辺は『老後に備えるには、30歳で年収の1倍の退職準備を』で紹介した退職時点での「年収倍率」ですから、これは36%の「個人資産代替率」を3.9%の「持続可能な引き出し率」で割って求められるということを表しています。求められる「年収倍率」は9倍となります。このうち退職金で2倍分を受け取れると想定して、フィデリティの「退職準備の指標」では、退職時点で年収の7倍の資産額を目標にしようと位置づけているのです。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史