退職後の引き出し率を考える

これまでの記事で「使いながら運用する時代」の引き出し率を4%で紹介することが多かった。

たとえば、退職時点で資産3000万円の方が、毎月10万円の引き出しをすると、年間120万円。これがちょうど保有資産に対して4%の水準になる。運用する資産が3300万円に増えると年間132万円の引き出し額になり、資産が2800万円に減れば年間112万円に減ることになる。

引き出し率の決め方は次のステップで考えてほしい。必要な生活資金を想定して、そこから年金や勤労収入などの収入源を差し引くと、資産からの引き出し額が見えてくる。この引き出し額から資産総額に対する比率で算出する。

ただ、これが高すぎる場合には、生活費を少し調整することで引き出し額を減らす。これを繰り返して、自分の納得いく水準に落とし込んでいくプロセスが大切だ。

持続可能な引き出し率

ところで、4%という引き出し率に関して、1990年代に米国で有名な論文が発表されている。

William BengenがJournal of Financial Planningに1994年に載せた論文『Determining Withdrawal Rates Using Historical Data』のなかで、米国の過去の株式と債券のデータを使って、30年間の「使いながら運用する」期間を想定し、資産が枯渇しなかった引き出し比率を計算している。その結果が4%だった。

これを英語ではSustainable Withdrawal Rate、日本語にすると「持続可能な引き出し率」と呼んでいる。この場合、使いながら運用する期間は「退職してから生涯ずっと」いう前提に立っているため、直近の余命データを使って「人生より早く資産が枯渇する可能性」を算出していることになる。

同じ4%だが、これまでの筆者の記事で言及している方法とは2つの点で異なっている。1つ目は、4%が退職スタート時点に適用する引き出し率で、先の例でいえば、3000万円の資産を持っていればその4%、年間120万円の引き出しはその後ずっと続けるという定額引き出しになることだ。

そのため、100%の可能性で資産が枯渇しないというわけにはいかない。過去のシミュレーションを使って、「この引き出し額であれば信頼度90%であなたの生涯で資産が枯渇することはない」といった表現になる。

信頼度90%という意味は、「10人に9人が生きている間に資産が枯渇することはない引き出し額」ということで、言い方を変えると、10人に1人は枯渇するということでもある。これが2つ目の違いだ。

定率引き出しという考え方は、難しい面をたくさん持ち合わせているが、退職後の人生設計をより確からしいものにするために一度は検討してみる価値のある方法だろう。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史