消費を優先するか、資産運用を優先するか

皆さんは、「資産運用の考え方と消費を混同することがある」といわれると違和感があるでしょうか。

たとえば、「節約をして残った資金を資産形成に回す」というのは消費を優先して資産形成がそのあとに置かれています。しかし「資産形成を給与天引きにして残りで生活する」というのは、資産形成が優先されて、消費はその後に置かれており、前者と大きく違います。

同様に引き出しを想定する資産活用世代でも、それまで作り上げた資産を引き出す際に、「毎月10万円しか使わない」と決めることは、消費を優先していて残った資産の運用はそのあとに置かれているのです。これは「お金を使う」側面だけに目を向けて、「資産の運用」面に隠れているリスクに気が付いていない方法なのです。

「10万円しか引き出さない」のか、「10万円も引き出す」のか

運用で作り上げた資産を退職時にすべて現金化することはあまり考えられません。「毎月10万円しか使わない」という意味は「運用資産から10万円分を売却して引き出す」という意味ですから、部分的に投資から撤退し始めているということになります。

この部分的な投資からの撤退を投資信託で運用しているとして、考えてみましょう。資産の総額は投資信託の口数と基準価額で計算できます。基準価額が下落しているときに10万円を引き出せば、基準価額が高い時よりも口数を多く売却しなければなりません。それは想定以上に元本を毀損し、将来の基準価額の戻りを十分に享受できない懸念を残すことになります。

消費の視点でみると「定額しか使わない」ことはよく管理しているように見えるのですが、資産の一部売却だとみると10万円を引き出すことが、資産全体に対して「10万円しか引き出さない」といえる時もあれば「10万円も引き出す」場合もあるといえます。

定額引き出しではなく、定率引き出しで

その課題を解消するには、基準価額が上昇した時には引き出し額を多くして、下落した時には少なくするように設定することです。たとえば、常に同じ口数を売却すると決めれば、基準価額の下落に伴い引き出し額が少なくなります。もちろん口数が徐々に減っていくなかで同じ口数を引き出すとその比率は高くなり、最終的には100%を引き出す計算になってしまいます。

そこで口数ベースよりもさらに引き出し額を管理できるのが、残高の一定率を引き出す方法です。この「定率引き出し」は自分で資産管理できる年齢までは有効な方法といえます。

<<これまでの記事はこちらから>>

合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史