退職後のインフレに備える「“予”定率引き出し」

定率引き出しの持つ課題

退職後のお金との向き合い方は「使いながら運用する」という視点が重要だという点は、これまでの記事でも何度も指摘し、その際に定率引き出しが持つ効用を示してきた(『退職後の「使いながら運用する時代」の隠れたリスクとは?』参照)。

その定率引き出しを考える時によく指摘されるのが、下の2つの課題だ。

【残高が小さくなっていくにつれて同じ引き出し率だと金額がどんどん減っていくこと】

たとえば、引き出し率が同じ4%でも、当初の資産額が3000万円の時は年間120万円の引き出し額だが、残高が2000万円になった時には年間80万円に、さらに1000万円になれば年間40万円と小さくなる。引き出し期間が長くなればなるほど、こうした懸念が大きくなる。

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【インフレ等の要因で同じ引き出し額でさえ十分な生活費をカバーできなくなること】

一方、引き出し額が比較的変化しなくてもインフレが予想される際には、その分の目減りが退職後の生活を厳しくすることになる。インフレ率が高い場合には、一気に保有資産の実質価値が毀損し、生活費の懸念が大きくなる。

“予”定率引き出し

そうした不安を払しょくする方法として、引き出し比率を徐々に引き上げていく方法がある。

そもそも定率引き出しの持っている意味は、金融市場の変動に伴って起きる運用資産の変動リスクを引出額の変動を使って抑制することにあり、その点で「率」で考える効用に変わりはないものの、その「率」自体を徐々に引き上げていくわけだ。

たとえば、もし95歳をゴールに引き出すとしたら、95歳での引き出しは全額引き出しとなるため100%の引き出し率となる。残高が徐々に下がっていくなかで、ある程度の引き出し額を確保するためには、インフレも想定して引き出し率を引き上げることが必要になる。

初年度が4%だった引き出し率を、2年目は4.1%、3年目は4.2%...と引き上げ、最終年には100%にするといった形を想定すればいいだろう。

このように、「率」で考えるものの、その「率」を予め決めておくということで、これを「“予”定率引き出し」と呼んでいる。

インフレで、引き出し率も運用収益率も引き上げ

もちろん、中期的にみるとインフレになれば資産運用の収益率も引き上がることになる。投資の収益率は無リスク資産の収益率とリスクプレミアムの和だと考えると、インフレによって、リスクのない資産の収益率が引き上がる方向に働く。

そのため、本質的には「使いながら運用する時代」の引き出し率と運用収益率の差の「率」はインフレに中立的となるはずで、インフレでは資産の劣化のスピードはそれほど早まらないはずだ。

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フィデリティ退職・投資教育研究所 所長 野尻 哲史

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野尻 哲史
  • 野尻 哲史
  • フィデリティ退職・投資教育研究所
  • 所長

国内外の証券会社調査部を経て、2007年より現職。アンケート調査をもとに個人投資家の資産運用に関するアドバイスや、投資教育に関する行動経済学の観点からの意見を多く発表している。
日本証券アナリスト協会検定会員、証券経済学会・生活経済学会・日本FP学会・行動経済学会会員。
著書には、『老後難民 50代夫婦の生き残り術』、『日本人の4割が老後準備資金0円』(講談社+α新書)や『貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活』(明治書院)などがある。
調査分析などは専用のHP、資産運用NAVIを参照