4. これ以上家族に迷惑はかけられない
千秋さん家族は不眠に悩まされ、ストレスはMAXに。かつては介護に協力的だった千秋さんの夫や娘たちも「おばあちゃん」に対し冷ややかな態度をとり始め、家族の会話も激減。
「もうこれ以上、母のことで自分の家族に負担をかける訳にはいかないと思った。この先も、母との同居はあり得ない」と千秋さんは言います。
認知症の不安定な精神状態に加え、もともと内臓疾患を持つ母を受け入れてくれる施設は決して多くはないと覚悟しています。実際にいくつかのホームから話を聞いたところ、医療依存度の高さから、ひと月40~50万円程度かかっても不思議ではないことが分かりました。
費用面でリーズナブルな特養(特別養護老人ホーム)は数年待ちとも聞いていますし、そもそも医療依存度の高い人の受け入れが難しい施設が多いと聞いています。
昼間はデイサービスに通所してもらい、居宅サービスの回数を増やしながら在宅で看取りまでを行う、自分の通い介護の頻度を上げる、といったことしか思い浮かばないのだと千秋さんは言います。
5. 介護は「家族の絆を試す試練」でもある
介護は、家族の絆を試す試練でもあると筆者は考えます。今回のケースでは「千秋さんと実母」「千秋さんと、夫・娘たち」のそれぞれが良好かつ安全な状態で暮らしていけるのかを考える必要がありそうです。
昔どんなに愛情があふれた家族だったとしても、「在宅介護の限界点」はそう遠くはないうちにやってくるでしょう。
ちなみに、LIFULL seniorが2023年8月に公表した「介護施設入居に関する実態調査 2023年度」によると、回答者2000人中の46%が、介護施設への入居を決めたきっかけとして「認知症」と答えています。
2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると推計される今。こんな状況が、みなさんにとっても「他人事」ではなくなる日が、いつか来るかもしれません。
参考資料
- 厚生労働省「レケンビ®点滴静注」(一般名:レカネマブ)日本においてアルツハイマー病治療剤として12月20日に新発売
- 厚生労働省「軽度認知障害」
- 株式会社LIFULL senior「介護施設入居のタイミングに関する調査「きっかけは認知症」が46%と最多」PR TIMES(2023年8月3日)
- 厚生労働省 知ることから始めよう こころの情報サイト「認知症」
- 厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(概要)」
佐橋 ちひろ