2023年12月13日、認知症のアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の保険適用が承認され、開発元エーザイは、12月20日に販売開始を発表しました。
「あと5年、この薬が早く国内承認されていたら、私の介護生活は違うものになっていたかもしれない……」
認知症の実母を在宅介護する千秋さん(48歳・仮名)は、ちょっと複雑な表情で、こう言います。
今回は、実母の「介護放棄」を疑われた当事者家族のリアルなエピソードを交えながら、認知症の在宅介護の限界点や、家族が抱える苦悩について考えていきます。
1. 認知症の症状は「緩やかに、確実に」悪化
主な登場人物
- 千秋さん:48歳・夫と娘2人の4人家族、実母宅から徒歩10分のマンションに暮らす
- 実母:80歳・要介護3、認知症中度。8年前に夫が亡くなったあとは一人暮らし
認知症の実母を近居で通い介護する千秋さんは、都内出版社に勤務する編集者。週に3日のテレワークは母の暮らす実家を仕事場とし、週2回だけ出社する勤務スタイルです。実家で過ごす日には食事を作り置きして冷蔵庫に入れています。
認知症を患う80歳の実母は、要介護3。60歳代初頭に重いうつ病を患いメンタルクリニックを受診していたため、比較的早い段階で軽度認知障害(MCI)の診断が下されていました。
ただし、うつ病を含むいくつかの持病の薬との飲み合わせの関係で、 認知症の進行を遅らせる薬の服用を始めた時期はかなり遅かったのだそう。
1.1 認知症の初期段階から連日続く「問題行動」
認知症の初期段階では、金銭管理ができなくなったほか、連日同じ食材を買ってきて冷蔵庫で腐らせてしまう、娘やヘルパーが財布を盗んだと疑う、などの問題行動が連日続いたとのこと。
実はこれらが認知症の典型的な症状だと知った千秋さん。訪問介護や訪問看護などを始めとする「介護保険サービス」をフル活用し、夫や娘たちの協力を得ながら乗り切ってきたのだと言います。