皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。

このコラムは、2017年10月25日公開の『株価は既に割高なのか?(その2)予想PERを過去の平均値と比べると』の続きです。

日経平均株価は約22,500円まで上昇し、堅調な動きとなっています。このような状況の中、(その1)(その2)では、頻繁に利用される割高・割安を判断するバリュエーション指標のひとつである予想PERを利用し、日経平均株価が割高な状況となっているのかを検討しました。

具体的には、まず、予想PERの仕組みをご説明した上で、水準自体ではなく、他の市場や過去の推移と比較して判断することが重要である旨をお伝えしました。そして、我が国株式は、海外市場との比較では突出して割高とはいえないこと、過去との比較では2012年12月の安倍政権成立以降の平均値に近いことをご説明しました。

「予想PER=株価/1株当たり予想利益」と定義されるため、株価を主人公として考えると、「株価=予想PER*1株当たり予想利益」となります。

昨年末を基準時点として、「① 1株当たり予想利益(ブルームバーグ予想)」 と「②日経平均株価」の上昇率を見ると、4月に入り、対象の期が変わると予想利益が大きく増加し、その後は緩やかに上昇を続けていることが分かります(図表1)。加えて、日経平均株価と1株当たり予想利益の動きはリンクしておらず、株価は予想PERの変化により変動していることも分かります。

図表1:1株当たり予想利益と日経平均株価の推移
2016年12月30日~2017年10月31日:日次

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。
※2016年12月30日の値を100として指数化

現在、中間決算の発表が始まっており、企業の予想利益は上方修正されることが期待されますが、加えて、今以上の日経平均株価の力強い上昇には、バリュエーションの拡大(予想PERの上昇)が必要であると私は考えております。

それでは、バリュエーションが拡大するためには、どのような条件が必要でしょうか?

予想PERで利用される「1株当たり予想利益」は、次期の予想利益データを利用することが多いと思われます(なお、利益の変化をスムーズにするため、今後1年間の日数に応じ次期、次々期の決算期予想利益を加重して算出する方法などもあります)。

しかし、どう考えても、「企業の価値、すなわち株価」が、次の期の予想利益のみによって決定されると考えることは不自然です。なぜなら、企業は継続的に事業を営んでおり、長期的な視点で、会社の価値は判断する必要があるからです。

たとえば、次の期は、ある事業への種まき時期であるため利益水準が低く抑えられるものの、その後は事業が花開き(新商品の発売など)、継続的に高い利益が期待できる場合、(次期の予想利益のみから考える投資価値より)実際の企業の投資価値(=株価)は高いと考えることが自然です。

したがって、この場合、「次期の1株当たり予想利益」から算出される「予想PER」が他の銘柄(or市場)と比較して高いことが正当化されることになります(ちなみに、アマゾンの予想PERは265倍と高い水準となっています、10/31時点、ブルームバーグの予想PER)。

すなわち、日経平均株価の予想PERが上昇するためには、次々期以降の利益成長への期待が必要です。

企業利益を予想する方法としては、商品毎の販売額予想や、利益率予想を積み上げて行うことが一般的と考えますが(ボトムアップベースと呼ばれます)、このような方法による利益の予想は、 (業種により異なりますが)通常将来2期程度までしか精度良く推定できないと私は考えています。

したがって、結論として、(独自の成長ストーリーがある銘柄以外では)バリュエーションの拡大には、利益成長の裏打ちとなる経済環境に関する期待が一番重要であると私は考えています。

1990年代前半以降のバブル崩壊局面から、我が国では経済に関する閉塞感が強い時期が続いてきたと思われます。

2017年9月12日公開の記事『労働分配率の低下を考える(1)企業利益は絶好調なのに...?』や10月2日公開の『労働分配率の低下を考える(3)なぜ経営者は人への投資を躊躇するのか』でご紹介したとおり、「国内企業物価(最終財)の底打ち」や「企業がお金を使い始める可能性があること」が経済環境への期待を高める可能性を私は重視しています。

結論として、我が国株式は、中長期的視野に立った場合、バリュエーションの拡大による株価上昇も期待できると考えております。

(2017年11月2日 15:00執筆)

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柏原 延行