「賃貸市場」と「経験経済」への影響は?
このように親と同居する成人が増えることで問題となるのは「賃貸市場」です。住宅売買情報サイトZillowの6月の調査(※5)によれば、親元に戻った人の80%は18~25歳のZ世代と呼ばれる人達です。Z世代からの賃貸料合計は毎月計約7億2,600万ドル(約752億円)、賃貸市場の約1.4%。この世代がパンデミック後も親と同居を続けることになると、賃貸市場へのダメージは大きいです。
2020年はCOVID-19 パンデミックで失業率が上昇しました。貯えの少ないZ世代にとっては、帰れる実家があるのなら戻るしかないのでしょう。しかしそれだけではなく、テレワークや自粛で1人の時間が増え、一日中狭いアパートにいることに息がつまり、場所を選ばないテレワークなら広い親の家に戻りたいと考える人も多く、同居増加に拍車をかけたようです。
しかし、Zillowの11月の調査報告(※6)では、Z世代の同居傾向は9月にようやく減少に向いたと伝えています。これには家賃の値下げや数カ月分無料、駐車場無料など譲歩条件をつけた物件が増えたことが要因のようだと分析しています。しかし今後どれだけ回復できるかは分かりません。
知人のお嬢さんがリモートワークとなり、小さなアパートから大きな実家に戻られました。愛犬とも毎日一緒に過ごせるし、広いスペースが使えるのはありがたい、と話しているそうです。また同居することで、パンデミック後の旅行費用を貯めるつもりだということです。リモートワークが続く限りは親と同居する予定だといいます。
ここ10年、「経験経済」といわれ、特に20代30代がモノよりも旅行など経験に出費する傾向が顕著になりました。親と同居することで家賃を節約し、旅行などの経験を楽しむための費用に充てようと考える独身成人が増えているのかもしれません。
若い世代が自由や自立を求めた1960年代頃は、親との価値観に違いがあり過ぎ堅苦しかったのでしょう。しかし最近は親世代との価値観にそれほどギャップがなくなり、心地良く、またお互い都合がいいのかもしれません。パンデミック後のこの傾向がどう変化するのか注目していきたいと思います。
参考
(※1)Pew Research Center “As CDC warned against holiday travel, 57% of Americans say they changed Thanksgiving plans due to COVID-19”
(※2)Pew Research Center “More Millennials Living With Family Despite Improved Job Market”
(※3)THE CONVERSATION “Yes, more and more young adults are living with their parents – but is that necessarily bad?”
(※4)Psychology Today “More Than Half of Young Adults Are Now Living With Parents”
(※5)Zillow “$726 Million in Rent at Risk as Gen Z Moves Back in with Parents During the Coronavirus Pandemic”
(※6)Zillow “A Third of Rental Listings are Offering Concessions -- And it Appears to be Working”
美紀 ブライト