「遺言」をめぐる、2つの家族のエピソード
ケース1「自筆証書遺言」
「書いたはずの遺言書が見つからない!」
ヒロシさん(享年92歳)は、3年間暮らした老人ホームで亡くなりました。
法定相続人は、長男・次男・三男の3人。三男夫婦は、一人暮らしだったヒロシさんを自宅に引き取り、のちには老人ホームの費用の捻出まで、かなりの労力とお金を父の介護に費やしてきました。長男・次男は県外に住んでおり、「体がきつい」「店が忙しい」という理由で、父の介護に関わることはありませんでした。兄弟の折り合いは決して良好ではなかった、といいます。
ヒロシさんは老人ホームに入る直前、自分亡き後は、一番介護に貢献してくれた三男に自宅を相続させたいと考え、自筆で遺言をしたため、三男夫婦に「遺言状は仏壇の引き出しの中にしまった」と伝えていたそうです。
しかしヒロシさんの死後、仏壇の引き出しはおろか、家じゅうのどこを探しても遺言は見つかりませんでした。三男夫婦が相続トラブルを覚悟していた矢先、長男・次男の口からこんな言葉が。
「これまでよく父さんの面倒をみてくれてありがとう。実家はお前が相続してくれ」
兄弟の相続は“争族”とならずに済みました。しかし、三男は「自筆の遺言ではちょっと危険かも?」と感じたとのこと。近い将来、自分自身も、2人の子どもにあてて遺言を…と考えていたが、「死後確実に見つけてもらえる方法」で作ることが必要だと感じたそうです。
ヒロシさんが残したのは、「自筆証書遺言」。2020年7月10日より、自筆の遺言を法務局で保管してもらえる制度が始まり、「紛失」や「死後発見されない」ケースの防止が期待されています。しかし、自分で書いた遺言は、日付が抜けているなど、形式上の不備のため無効となってしまうケースも。こんな事態を防ぐために、「遺言公正証書」を作る人が増えているのです。次でご紹介するサトコさんもその1人でした。