次亜塩素酸水をめぐるバトルが過熱

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大がいったん下火になってきたとはいえ、第2波、第3波の懸念もあり、まだ油断してはいけません。そんな中、品不足のエタノールに代わり、消毒液としてにわかに話題になっているのが次亜塩素酸水です。

インターネット上では、次亜塩素酸水を販売している会社、その評価をしている独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)、その使用等の通達をする経済産業省・厚生労働省、それをすでに使っている、あるいは使っていない一般市民、そして医師などの間で、効く・効かないのバトルがヒートアップしています。

4月17日、経済産業省は次亜塩素酸水を手指消毒用に追加しました。それは、手指用の製品が売られており、また歯科医院で口腔内の殺菌にも使用されているという理由からでした。しかし5月29日、経済産業省とNITEは「現時点では有効性は確認されていない」「全体として有効性評価を行う上で十分なデータが集まっていないため、引き続き検証試験を実施する」と発表しています。

一方、文部科学省は6月4日、子どもがいる空間では噴霧しないよう全国の教育委員会などに通達文書を出しました。これに対して販売会社は殺菌効果があると異論を唱え、6月11日には反論の記者会見をするなど、次亜塩素酸水の殺菌効果、使い方について混乱が続いています。

ネット上などで繰り広げられているバトルが科学的なエビデンスを基にした論争ならばいいのですが、必ずしも全てがそうではありません。それよりも身の回りでこれだけ多くの化学物質が使われていることを認識して、正しく怖がること・怖がらないことが重要というのが、有機合成化学を専門とし、長く大学教育に関わってきた筆者の思いです。

本稿ではこのような視点から、次亜塩素酸水を眺めてみたいと思います。