次亜塩素酸の殺菌のメカニズムには、活性酸素や活性な化学種が関係していると言われていますが、これらが人体に影響を及ぼさないか精査が必要です。活性な化学種が、がん化の要因になることはよく知られた事実です。さらに、塩素含有化学物質、活性化学種が環境ホルモンや地球環境問題の一因であることにも注意すべきです。

最後に、大事なことですが、現在、販売されている次亜塩素酸水には、生成法や成分表示(pHや有効塩素濃度)がはっきり記載されていないものがあります。しかも、次亜塩素酸は上述のように分解しやすいため、せっかく購入した次亜塩素酸水が失活(不活性化)している可能性はないのかという懸念もあります。

おわりに

次亜塩素酸水の化学、効果について筆者の考えを述べましたが、今後さらなる検証が行われることを希望します。

いずれにしても、抗菌・除菌・殺菌剤の開発により、現在の我々の生活環境は昔と比べて格段に衛生的になり、快適な生活が保たれているのは喜ばしいことです。しかし、数多くの化学物質が身の回りで頻繁に使われていることを、あまり意識していないことも事実です。

今回の一件以外にも、化学物質の危険性、化学物質の使い方には十分注意を払う必要があるように思います。抗菌・除菌・殺菌剤入りの洗浄剤を使わないで、普通の石けんで丁寧に手洗いをすれば、それで十分ウイルス対策になるとの意見にも耳を傾ける必要があるかもしれません。

なお、この件に関しては、日本口腔機能水学会ウェブサイトの「WEBニュース&コラム 緊急寄稿」に「次亜塩素酸水(酸性機能水)の適正使用について」(日本口腔機能水学会会長・日本大学歯学部歯周病学講座診療准教授 西田哲也)が掲載されています。極めて参考になる記事ですので一読をお勧めします。

以下に、この記事から手指衛生に関する部分を引用しておきます。なお、記事中の「酸性機能水」とは次亜塩素酸水のことです。

以下、日本口腔機能水学会のウェブサイトより引用

手指衛生として次亜塩素酸水を用いるのであれば、以下のような使用方法が推奨できます。次亜塩素酸水生成機器から作られる次亜塩素酸水の性状チェックを行い、有効塩素濃度が10ppm以上であることを確認。次亜塩素酸水生成機器から直接、または遮光された密閉ポリ容器内に保存された新鮮な次亜塩素酸水を流水下で15秒以上、手洗いを行う。

なお、新たに発見された新型コロナウイルスですから、当然、次亜塩素酸水が有効との報告も研究データもありません。様々なところで有効と思われている背景には、次亜塩素酸水が多種多様な細菌やウイルスに対して、強い殺菌力があるため「新型コロナウイルスにも有効であるはず」という科学的な仮説に基づいていることにも留意が必要です。


【参考資料】「新型コロナウイルス対策身のまわりを清潔にしましょう。」(厚生労働省・経済産業省)

和田 眞