1滴の血液でiPS細胞樹立

心疾患の病態解明・心不全治療に向けた心筋細胞再生のテーマとして、①高品質で安全性の高いiPS細胞を効率的に樹立する、②iPS細胞を大量に培養する、③iPS細胞から効率的に心室筋特異的心筋細胞をつくる、④心筋細胞を細胞分裂させて細胞数を増やす、⑤心筋細胞を純化・精製する、⑥効率的な心筋細胞の移植法を開発する、⑦非臨床安全性試験、製造方法:生物由来原材料基準を挙げた。

従来の方法では、採取した皮膚組織(必要なのは真皮層)を培養し、線維芽細胞まで約1カ月間、線維芽細胞からiPS細胞樹立まで約1カ月半、計2カ月半を要していた。またこれまでのiPS細胞では、ゲノムを傷つけてしまう、残存する挿入遺伝子の再活性化、腫瘍形成の可能性(がん化の危険)がある。

今回開発された方法は、わずか1滴(0.1mL~)の血液で樹立が可能で、血液中のT細胞を抗CD3抗体とインターロイキン2(IL-2)で活性化し、この活性化T細胞と相性が良いセンダイウイルスを使ってリプログラム遺伝子を一時的に導入する。ここまでにかかる期間は数日間に短縮されている。センダイウイルスはRNAウイルス、細胞質で増殖・転写するウイルスであり、核内のゲノムを傷つけない。

iPS細胞作製方法で日米欧特許、他の再生医療へも応用可能

こうして完成したTiPS細胞は、ゲノムを傷つけず挿入遺伝子も残らないことから腫瘍形成の頻度が激減し、最小限の患者負担(少量の採血のみ)であることから女性や乳児でも可能であり、樹立にかかる時間が少ないことから臨床へも応用がしやすいというメリットがある。

この非染色体組込・細胞質型センダイウイルスベクターによるiPS細胞の作製方法は、日米欧で特許が成立している。さらに、心筋細胞のほか、血液細胞、神経細胞、肝細胞など他の再生医療への応用、疾患iPS細胞の樹立への道も切り拓いたことになる。

続いて、福田氏はスーパーiPS細胞の作り方、ES細胞で発現する多分化能を獲得させる遺伝子(OcT4、Sox2、Klf4)を導入する際、開発した新しい手法について解説した。ES細胞は、卵母細胞から1細胞期、2細胞期、4細胞期、桑実胚を経て胚盤胞から得られるが、このプロセスの卵母細胞から1細胞期、2細胞期に発現しているタンパク質に着目。

そのうち、リンカーヒストンH1が遺伝子発現の門番の役割をしていることを突き止め、さらに、そのうちのH1Fooが遺伝子の初期化に最適なことが判り、これを一緒に投与することで、大幅なiPS細胞作製効率の向上に成功した。