細胞シートは、移植する心臓外科医にとって操作が容易という利点に対し、心外膜と心表面の死亡のためレシピエント心筋との直接結合ができない、血流がないため細胞が早期に喪失(短期のパラクリン効果に期待)するという欠点がある。

心筋球(心筋微小組織)移植は、心筋微小組織の形成は細胞外基質、液性因子、ストレッチ刺激が加わることにより、強い組織を形成でき、移植細胞が高効率で生着できるが、心筋球の輸送方法を開発することと、外科医による移植方法の工夫が必要となる。

福田氏は、心筋球(心筋微小組織)移植を採用し、微小組織球の作成と心筋球法の開発を進め、免疫不全マウスに移植し、90%の心筋細胞を生着させることに成功した。

免疫不全ラットに移植されたヒト再生心筋細胞は長期間生着するとともに、細胞の生理的肥大・サルコメア構造の発達・長軸方向への伸長を示し、心筋としての成熟化が確認された。また、2週間後の段階で胎児型心室筋がまだ残存しているが、次第に完全な心室筋型に移行すること、さらに、ヒトiPS由来心筋細胞の高い生着と有効性、ラット心機能が改善することが確認できた。

移植穿刺針の作製にも工夫を凝らし、外径25G(0.51mm)の先端を鈍尖に加工し、また、1本の針に6個の側孔を設けた。この孔のサイズは、心筋球が通ることができる250×375μmとした。このように加工した高密度移植針6本をインジェクターにつなぎ、一定量の細胞を一定速度で均一に、6カ所同時に移植することが可能となった。

医師主導型臨床3例と企業治験も実施予定

次いで福田氏は、臨床研究プロトコールの概要(移植の方法)、心筋シート移植と心筋微小組織移植の相違点の開設を行い、最後に、心臓再生医療の今後の展開、20年度中にFirsT in humanの実施予定について説明した。

①NYHA 3度の心不全患者のHLAを測定し、本邦の最頻度HLAと3座(HLA-A、B、DR)以上の一致している症例を選択(実際には6座一致の症例を選択する予定)、②京大CiRAが作製したiPS細胞を用いて心室特異的心筋を分化誘導、純化精製したのちに微小心筋組織(心筋球)を作成し、③特殊移植針を用いて、5000万個の再生心筋細胞の直接移植を予定しており、医師主導型臨床3例に引き続き、企業治験も実施する予定であることを説明し、講演を締めくくった。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

まとめにかえて

iPS細胞の研究は世界的に広がっており、大学や研究機関だけでなく、民間企業でも本格的な研究が始まっています。最近ではiPS細胞を使って肝臓がんの作製に成功したことを岡山大学の研究チームが発表しており、肝臓がんの予防や治療法の開発に役立つと期待されています。

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